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高校を卒業するまでは、一美と学校の帰りや週末によく街に遊びに来ていた。
社交的な一美はショップやカフェを次々と開拓し、店員や客と仲良くなっていっていく。
私から見ればジェットコースターのような時間の使い方だった。
私はといえば、お洒落なお店に入り、お洒落なケーキを前にしていても、そこにたどり着く前に疲れ果てていて、何を話したかとか、何を食べたとかは殆ど記憶がない。
映画かドラマを見ているように、セピアに霞むカフェの中。
記憶にあるのは一美のよく動く口。
目も鼻も憶えていない。
顎の上の赤い口と白い歯。
季節も場所も変わっても、あの頃の記憶はいつも同じ。
パクパクと金魚のように動く一美の口だけ。
思い出したくないのか、思い出にならないように全てを受け流していたのか、一美が知れば何と言うだろうか?
案外、一美も同じかもしれない。
そのお洒落な一美はどこかの街で当然のようにスカウトされ、卒業後に当たり前のようにモデルデビューした。
高校在学中にスカウトされていた事も、卒業後にデビューする事も聞かされていたけれど、私には海外に起きた事件のように、あまりにも遠すぎて・・・、
「へー」とか、「えー、頑張って。応援するよ」とか、
友達としての発言を繰り返していた。
応援か・・・。
「ねえ、美鈴。何にするの? 」
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