第1章

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「ま、こんなものでしょ。さ、山都の奴が心配するまえにさっさと行きなさい」 トンッと背中を押され、陰火は鏡の世界から外に出た。 静かな鏡の世界から、夏祭りに戻り、タイミングよく山都がラムネを二本、持って戻ってきていた。 「待ったか?」   「いいえ、全く待ってませんよ」 と答えつつ、山都からラムネの瓶を受け取り一口、飲み。隣に立つ、山都を見上げた。 「山都大聖、ちょっと行きたいところがあるんですが」 「お前、まだ、食うつもりか……」 「わたくしを大食い女みたいに見ないでくれますか?」 「焼きそばなんか、ほとんど一人で、食い尽くした奴のセリフじゃねぇよ。言っておくが、もう、財布が空っぽだぞ」 お前のせいで、俺の財布は空っぽだと、ひっくり返す。小銭すら出てこないことにウッと陰火は後ろめたさを感じつつ、 「これくらい普通しょう。ですが、行きたい場所はそこじゃありません」 この夏祭り特有のものなのか、街興しの一環かわからないが、縁結びのおみくじというものがある。陰火の行きたい場所もそこだった。 「へー、揚羽の奴も気にしてたみたいだけど、お前も興味あったんだな」 「なんですか。わたくしが食い意地の張っている大食い女だとでも言いたいわけですか」 まぁ、本音を言うと食ってばかりなので、他の場所に行こうと思ったら、この場所が思いついただけなのだけれど、素直になるつもりはない。 「まぁ、言い合っていても、らちがあかないし、さっさと引いてこいよ」 「貴方は引かないんですね」 「俺は縁結びやおみくじのイメージにないだろ? それにほら、あんなに女の子ばっかりな場所に行きにくい」 「確かに」 山都大聖には、運頼みや、おみくじのイメージはない。どころか、どんなことも自分で突破していくイメージがある。 「じゃあ、ちょっと待っておいてください」 「おう。いいこと、書いてあるといいな」 山都に見送られ、陰火はおみくじの列に並んだ。縁結びと言えば、恋愛関係を連想するのか、女性客が多い。 (もしかしたら真朱達も来てるかもしれませんね) 「おやおや、こんなところに白髪の浴衣少女がいると思ったら、陰火ちゃん、じゃないか」 「…………」 「わぁ、眉間にシワをためて、嫌そうな顔してるね。陰火ちゃん」 夏祭りの係員のはっぴを着て、最後尾の看板を持った男が居た。
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