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大人が真剣になってヒーローを演じるって、冷静に第三者が見れば笑えるかもしれない。
でも恒星さんの作った衣装で、海斗君の上手な進行で、猪野君のカッコいい名前、そしてその名前みたいに鮮やかで温かい笑顔の雄大をリーダーにしたヒーローショーは、子どもだけじゃなく大人だって楽しんでもらえるって思えた。
笑顔で応援してもらえるように、五人と猛獣理沙の一団は頑張るんだ。
「穂果ね、佳苗ちゃんと応援団するんだよ」
「応援団?」
「そう! 譲達の応援!」
お楽しみ会で何をするのかはもう先生のほうから園児達に伝えてある。
穂果達だけでなくもっと小さな子までその日は一緒になって、お楽しみ会に参加する。
そこで年長さんである穂果達を先頭にして、全員ではなくても応援団を作ったらしい。
ヒロインである穂果が雄大とふたりで考えたピンクとしての自分の使命だ。
あまりに小さい子は口に入れてしまったりするからダメなのだけれど、ある程度の子達用にと遊びの時間に穂果や佳苗ちゃんは応援用のボンボンまで作ってくれていた。
「ありがとう。これでどんな強敵が来ても大丈夫だね」
「でしょ?」
手を繋いでニコッと見上げる穂果に微笑んで、雄大が先に行っているスーパーへと向かう。
「瀬戸さん」
声を掛けられて振り返ると佳苗ちゃんのお母さんだった。
「今日は早いんですね」
「はい。上司に相談して週に一日だけ定時で上がらせてもらうことにしたんです。その分、昼間は今まで以上に忙しいんですけど」
「大丈夫ですか?」
頷いている表情は明るい。
「佳苗の笑顔があれば全然大丈夫です。少し根詰めて考え過ぎていたかなって。あの日、瀬戸さんとお話出来て、なんだか楽になりました」
「俺は何も」
「大丈夫って言ってくださって、本当に何か落ち着けたんです」
俺は本当に何もしてない。
雄大みたいに気の利いた言葉も言えなかった。
「佳苗の笑顔をじっと見る時間がなかったなって気が付きました」
顔を上げて笑ってくれた。
本当に何も出来なかったけれど、ほんの少しくらいは佳苗ちゃんのお母さんの気持ちを楽にしてあげられたんだろうか。
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