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「佳苗の笑顔見たら、なんだか全部疲れも切羽詰まったものも吹っ飛んで、楽しくなれました」
「役に立てたなら」
「役に立てたどころじゃないです。本当にありがとうございました。また頑張れます」
営業マンだった時の自分はあまり好きじゃなかった。
ひとり暮らしだった時も、穂果と暮らすようになってからも。
失敗ばかりで、自分のやりたいこと、やれるはずだって思っていたことの半分も出来ない自分がそこにはいて、落ち込むことのほうが多かった。
だから思い出すと苦笑いすら出来ない。
そしてその頃を思い出して、穂果にも申し訳ない気分になるし、何よりまた落ち込みそうになる。
でも、ほんの少しでも佳苗ちゃんのお母さんを笑顔にする。
その手伝いに昔の苦い経験が生かされているのなら、無駄じゃなかったって思える。
当時は本当に大変だったけれど、それが自分の成長の糧になっているのなら、あんな頃があってよかったって、そう思えた。
「お楽しみ会楽しみにしてます。って、私も役員で頑張らないと!」
「ヒーローショーの時は役員の皆さんも応援宜しくお願いします」
明るい笑顔で頷いた彼女は、足早に佳苗ちゃんの待つ保育園へと向かった。
「ねぇ、譲」
「んー?」
「譲も穂果の笑った顔好き?」
繋いでいる小さな手をブンブンと振っている。
「勿論だよ。穂果が笑うとそれだけで嬉しくなるよ」
「そっか」
「穂果?」
何か考え込んだ穂果の名前を呼ぶと、いっそう明るい笑顔が上を向いて、まるで本物の向日葵だ。
「じゃあ、たっくさん笑ってあげるね」
「ありがと」
「どういたしまして」
ブンブンと手を振りながら、向日葵は雄大の待つスーパーへと俺を引っ張ってくれた。
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