反芻と逡巡の日常

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 教室の戸を開けたら、そこにはもう何百、何千と繰り返し見てきた日常の風景がある。寸分も違わぬ、変わり映えのしない日常が。  高校生の朝の教室というのは、どうしてこうも熱気に満ち溢れているのだろうか。  規則正しく整然と並ぶ、まるでスタジオセットを思わせる光景は、本来であれば活気とは無縁の存在だと思うのだけれど、そこに小道具として卒業式まで持って帰ることのない参考書とか、大して使用された形跡のない掃除用具とか、勉強道具と反比例して丁寧に使い込まれた部活道具などが勘定に入ると、途端に室内の無機質さを血気が凌駕してしまう。  両者が均衡を保てているのは、僕のような存在のためであり、つまり僕はこのクラスの喧騒の輪には入ろうとしない。幾度となくループするその光景にいちいち混じるのには疲れました、というのが正直な感想なのだ。  だから、僕は戸を開けると、既にして色めき立っている――なんのイベントも予定されていないのにだ!――クラスメイトへの挨拶もそこそこに窓際の席へと体を滑らせ一息つく。
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