1.刺された男

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「……はあ~、疲れるなあ」 とある事件現場で俺は呟いた。ふと言葉を漏らした口を閉じ、慌てて周りを見渡す。 そこでは捜査員があわただしく動き回り、犯人への手掛かりとなる痕跡を探す。何人かの刑事が現場に立ち、立ち入り禁止の黄色の標識テープの外には野次馬たちが集まっている。 俺は手袋を付け直すと刑事たちの集まるその場へと駆け寄る。そこからは腐臭がしており、死体があるようだ。まったく、死体はよく見るにしても、あまりいい気分じゃないな。 おっと、名前を名乗ってなかったな。俺の名は槙田久(まきたひさし)。警視庁刑事部捜査一課第1係の刑事だ。年は26、まあごく普通の刑事さ。目つきが若干鋭い以外は、取り立てて容姿も普通だ。 何故普通を強調するか、まあ簡単に言うと職場の刑事に”変人奇人”が多いからだ。同じ第一係ではないが、容姿や性格、行動といったものが常人離れしている人たちがいる。同僚の刑事がまだ普通に見えるほどだから、一般人から見たら相当だ。 まあ最近、妖怪だの怪異だのと世間が騒ぎ巷ではどうやったのか手口すら分からない、そんな奇怪な事件ばかり多発している。このところまともじゃない人の死体(死体にまともな物があるか疑問だが)を見るようになっている。 まだ人の方がまともかもしれない。そんな事を俺が思っていると、 「槙田!こいつはやばいぜ……!今回もかなり異常だ!」 何やら騒いでいる男がいる。もちろんこいつも刑事だ、その上俺の同僚でもあるが。 関根寛(せきねひろし)。俺と同じ第一係の刑事で同期だ。童顔に眼鏡という、およそ刑事に見えない風貌だが刑事に嘘偽りはない。今もスーツに革靴、白の手袋をはめている。 あ、さらに付け加えるとこの男はオカルト好きだ。しかしそれが強すぎて、奇妙な出来事をすぐに怪異だと決めつけてしまう、悪い癖がある。刑事はどんな状況でも落ち着いて、客観的に物事を判断するべきなのだが。 しかし、そこ以外は普通に真面目できちんとしているわけで。まあ、若干変だというレベルでしかない。 話を戻そう。俺たちはブルーシートに囲まれた場所にいる。そこに死体があるのだがそれは俺でも奇妙に感じるものだった。 男だ。それも”全身が針で覆われていた”。
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