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居間のパソコンから流れる音楽は図書館で借りてきたメンデルスゾーン作曲の『無言歌集』のCDのコピー。
メンデルスゾーンの『歌の翼に』に感動した後にメンデルスゾーンのCDを何枚も借りてコピーしたうちの1枚。
根暗そうな題名にビビビっときて借りたけれども、流れる音楽は様々なタイプの曲で構成されており、そのどれもがピアノの短い曲ばかりだ。
長い時間演奏し続けるオーケストラの曲よりも、短い曲をたくさん聞く方が今の私の気分には合っている。
開けっ放しの掃出し窓から庭用のサンダルに履き替えて、首にタオルを巻いて頭に帽子を被り手には軍手。
小さな庭でしゃがみこんで草をせっせと抜いていく。
単純作業は無心になれる。
居間から流れ続ける音楽が耳に心地よく、初夏へと向かう陽射しは優しくはないものの、ときおりふわっと通り抜ける風は心地よい。
気が付いたときには、音楽が途切れていて1時間以上が経過したことになる。
あたたたたたたたっ。
すっかり太ももも腰もカチコチになったなぁと思い、立ち上がりグイっと体を伸ばしていたら居間に置きっぱなしの携帯電話が鳴っている。
どうせ、母親なんだろうなと母には悪いけれども少々うんざりした気持ちで切れてくれないかなと最後の悪あがきにことさらゆっくりと歩いて掃出し窓の下でサンダルを脱ぎ居間へと戻った。
せっかく掃除機をかけたはずなのに、サンダルでなんか草むしりをするから足についた砂がそのまま室内に。
こんなんだからダメなのか。
自分の横着さに苦笑いだ。
往生際の悪い電話を無造作に取り上げたら――――
母じゃない。
しかも、一応性別は男性。
トキメキを感じなくも……感じないな。
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