第8章 男心は胃袋で!

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こっちは俺らが住んでいる所と違って坂道が多い。 今、目の前にどーんとそびえ立っているように見える長い坂なんて、「すげぇ」って言いたくなるくらい。 これをチャリで上るのはかなり大変そうだけど、下るとしたら気持ちイイだろうなぁって。風になったみたいに、道を走り抜けていけそうだ。 この坂道を毎日誠は中学高校と、真っ白なヘルメットを被って自転車で通っていた。 その話を聞いて、頑丈で強靭な誠の腰の秘密がわかった気がした。 チャリで街中走って、取締りでずっと立ったまま、柔道の稽古だって湯沢の親父さんの厳しさに唯一ついていってるらしい。 そんでもって、俺とエッロいこともする。 でも、また翌日、チャリで市民のために走り出す。 「なぁ、誠、スーパーって坂を上って、右だっけ? 左だっけ?」 「……」 配達で外に出ることはあっても車移動ばっかな俺にとって、けっこうこの坂を歩きで上るのすら地味に大変なんだけど。 さっきから黙々と斜め後ろのポジションをキープして歩いてる誠に尋ねた。 「誠?」 「……ふーんだ」 ふーんだ、って 口に出す奴ってそうはいないと思う。 しかもほっぺた膨らまして、そっぽ向いて、で、しかもそれがすげぇ似合ってるって。 「前見て歩かないと転ぶぞ」 「ふーんだ」 「何、怒ってんだよ」 「ふーんだっ!」 少しだけ口調が強くなった。 ふたりで甥っ子の大好物ハンバーグを作って、胃袋をガッと掴んで取り入ろう作戦のための買い出しに来ていた。 お寿司を取るつもりだったお母さんに断って、スーパーにふたりで買い物って名目の散歩デート。 「誠、言わねぇとわかんねぇだろ」 「……」 自分が結婚式の男女カップルと男同士ってところで感じる戸惑いみたいなものを誠に話さなかったっていうのは棚に上げて。 誠は気がついてくれたのに、俺は、今、誠が何に怒ってるのか全然わかんねぇ。
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