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智くんに『会いたいから、なるべく早く会ってくれませんか?』とメールすると、すぐに電話が来た。
「今、どこ?」
相変わらず智くんは挨拶抜きで切り出した。
久しぶりに聴いた智くんの声は弾んでいて、高校時代みたいだ。
「今、家。栞が遊びに来てたの。」
「ああ。……そうか。」
急にテンションが下がった声に、きっと智くんは誤解していると思った。
若菜さんとのことを聞いた栞がそんな男とは別れなよ!と言って、私は別れ話をするために会いたいとメールしたとか、そんな風に。
「智くんは今、どこ? 今日は仕事?」
「いや、休みだから家でゴロゴロしてた。」
「今から行ってもいい? 仲直りして、智くんに甘えたいの。」
ブーッっと音がしたから見ると、栞が紅茶を吹き出してアタフタしていた。栞がこんな粗相をするなんて珍しい。
「美結?! 俺がそっちに行くよ。」
智くんが歩き出す気配が電話から伝わってくる。
「ううん。うちよりも智くんの家の方がいいと思う。うちって壁が薄いから。」
思っていることを全部、智くんにぶちまけるつもりだから、きっと『智くんのバカ!』って叫んじゃうに違いない。
「美結ってば、大胆。」
ティッシュでその辺を拭きながら、栞がボソッと呟いた。
ん? 大胆? 何が?
首だけちょこっと前に突き出して眉を上げ、どういうこと?というジェスチャーをしたけど、栞はニヤニヤしするばかりだ。
「迎えに行くから、待ってて。」
鍵の音をジャラジャラ響かせながらやけに早口で言うと、智くんは私の返事を聞く前に電話を切ってしまった。
迎えに来なくてもいいのに。真昼間だし、徒歩5分なのに。
「迎えに来るって。」
「『うちの壁、薄いから、アンアン喘ぐ声をご近所に聞かれたら恥ずかしいの』って意味だと思われたよ、絶対。」
栞の言葉が頭に入って来て、ボワッと顔が火を噴いた。
「ち、違うよ! 罵ったり泣き喚いたりしちゃうかもってこと!」
「はいはい。わかってる。でも、男って自分の都合のいいように解釈するから、丹羽くん、誤解して舞い上がってると思うよ。」
「そんな……」
「いいんじゃない? ”仲直りして甘えたい”んでしょ? 美結だって丹羽くんと結ばれたいっていう気持ちはあるんだよね? だったら、流れに任せてみなよ。」
流れに任せる?
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