About

9/14
134人が本棚に入れています
本棚に追加
/151ページ
「……詐欺だっ!」 女は俺を指さして、大きな声で言ってくれる。 電話の声のほうがうるさくて携帯を耳から離して切る。 詐欺なんてしたことはない。 万引きくらいならしたことあるけど。 「何が?乗れば?飯、いくんだろ?」 「要、どこっ?」 女は俺を無視して、あたりを見回して声をあげる。 イラッとした。 助手席のドアを運転席から身を乗り出して開けて。 こっちを振り返ったヤマンバの腕を掴んで車の中に引っ張ってやる。 ヤマンバは悲鳴をあげてくれて。 ぎゃーぎゃーうるさい。 通行人もなにかの事件かとこっちを見てくる。 助手席のドアを閉めると、信号もちょうど青になって、そのまま車を出す。 「拉致っ!拉致っ!やだーっ!おろせーっ!」 なんて喚いてくれるから、助手席の窓も閉めて、ついでにロックもかけておく。 走行中の車から飛び降りるような馬鹿かもしれないし。 なぜか本当に拉致して軟禁なことになっている。 ヤマンバを拉致して軟禁するのは俺か酔っ払いくらいじゃないだろうか? 「あんた、誰よっ?」 「荻田 要。21」 「要はこんなんじゃないっ!」 「どんな妄想していたんだよ?」 「メガネかけたおとなしそうなやつ。背も高いし、ちょっと磨けばかっこよくなるはずなのに、イモイモーな。まぁ、出っ歯だったらどうしようもないかもしれないけど。目が小さいくらいならいいと思うの。それも愛嬌みたいな? …あんた、違う」 その妄想が俺にはわからない。 そして俺はヤマンバとは思っていなかった。 ビッチくさいギャルだとは思ったけど、これは仮面すぎる。 なんかインディアンの仮面みたいなものを連想する。 「違うところは?」 「イケメン」 「どこが?」 「髪、さらっさらだし、鼻高いし、目と眉の間狭いし、エラはってないし、しゃくれてもいないし、タラコ唇でもないし」 「普通だろ」 「じゅうぶん整ってるよっ。ねぇっ、嘘ついたことは許すからっ。おろしてよっ」 俺の腕にふれて頼んできて、危うくハンドルとられそうになった。 事故りかけて回避して、左手の甲でその額を叩いてやる。 「危ないだろっ。馬鹿っ」 「痛っ!……イケメン、いや。相手いないから相手してってくらいのブサイクがいい…」 どこかしょぼくれたようにおとなしく助手席に座って、ヤマンバは言い直す。 「相手いないから相手して」 望みどおりに言ってやった。 「ぶっ殺す」 怒った。 俺は軽く笑う。
/151ページ

最初のコメントを投稿しよう!