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逞しい腕に触れると、返事をするように、一瞬だけ力が強まった。
次の瞬間には身体が離れ、横から手が伸びてきた。
身構える暇もなく、私の身体は抱き上げられる。
見上げると、月の光を映した拓人の瞳が妖艶に揺らいでいた。
浴衣の擦れる音まで妖しく感じるのは、すでに私の心と身体が敏感になっている証だ。
「初夜だな」
先程思っていたことと同じことを言われ、些細なことに喜んでしまった。
これから始まる夜を想像しそうになって、慌てて顔を覆った。
「初心な反応されると、ますますいじめたくなるな」
「……優しくしてよ」
「今の言葉で、それはなくなったと思え」
柔らかな布団の上に下ろされ、額に唇が押し当てられる。
丁寧にゆっくりと。
熱い唇は頬に下り、鼻に触れた。
「拓人」
「お前に呼ばれると、箍が外れる」
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