深海の蒼

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ホストは日雇い、休んだらそれだけもらえる額が減るし、客もへ減る。 こういう自分の仕事の評価が目に見えてわかる仕事は好きだ。 モデルの仕事は誰が評価しているのかわからないし、いっぱい仕事しても単価が低ければ儲からない。そのモデルとしての単価を誰が出しているのかが不明なのが嫌いだ。 マネージャーに新人ホストと紹介され並み居るホスト達の前で頭を下げる。 みんな敵意に満ちた視線を送っていることもさらに俺を興奮させる。 「やぁ、よろしく。とうとう敵になっちゃったね」 ナンバーワンホストのマサトが声をかけてきた。 「よろしくお願いします」 「先輩たちも一緒に?」 真一も恭介も一緒にホスト見習いとして入った。真一などは終始モジモジして所在がない様子だ。 「一番年下のリクが一番堂々としてるな」 「まぁ、人に見られるの慣れてるのは俺ですから」 「お前、ライバルになるな。負けねぇからな」 「はい」 マサトはナンバーワンの余裕があって他の連中のようにギラギラとした目で見て来たり冷たい態度は取らない。こんな男気も女にモテるところなのかもしれないな。 最初は見習いなのでホールボーイをしながらたまにヘルプに入るくらいだ。 来る女たちは金を持っている世代のおばさまだけでなく、地味な事務員風の女、ギャルのような若い女・・・・様々だ。 こんな若い女がなんでこんなに金を使えるのだろう。 躊躇なくドンペリを開けていた。キャバクラ勤めにしては素人くさい。 夜の仕事をしている女は醸し出す雰囲気でわかるものなんだが、ただ騒いで遊び方も雑でうまくない。 隣の先輩ホストに耳打ちして聞いてみる。 「この人たち夜の商売じゃないでしょ?」 「あー、店の子じゃないけどある意味夜の仕事じゃん?」 「ん?風俗?」 「いや、コールガールだね。路上に立ってる素人で売春してる子」 「あー、もしかしてココに来るために?」 「確かに来る頻度高いね。お目当てはマサトだけどなかなか指名してもなかなか来てもらえないから金使ってアイツに見せつけてこっちに越させようとするんだよ」 「金の匂いで誘い出すってわけね」 この薄暗いちっぽけな空間でも恋の駆け引きがドロドロと繰り広げられている。 恋愛って言っても疑似恋愛・・・・この中だけの偽りの恋だ。
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