深海の蒼

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客の一人が声をかけてきた。 「君、新人?カッコいいね」 「はい、入ったばっかりで。リクって言います」 「今どきの名前だね、かわいい。なんか俳優とかやってそう」 「そんなのやってないですよ」 さっき教わったように水割りを作る。自分は酒が飲めないのにおかしなものだ。 宴会にはなれているから容易にできていしまう。でも作ってやるのは全部男だけどね・・・・。 客は30代のブランドで着飾った女。でも男からせしめたものでない事は風体を見ればわかる。仕事で成功した女社長といった感じか。お付の女性たちにも飲むように煽っている。 「今度来た時指名してあげる」 「でもまだ見習いですよ。それにお目当てはマサトさんなんでしょ?」 「そうねぇ、マサトもいいけど貴方にも興味沸いてるの」 「物好きだなぁ~、駆け出しで面白いトークもできないですよ」 「そう云うのも初々しくていいじゃなぁい」 「そうですか?」 にっこり笑って作った水割りを渡したらドツボに入ってしまったらしい。 それから何回か指名された。恋する乙女目線で見られるのはなんだか居心地が悪い。兄ちゃんに潤んだ目で見られたら最高なのにな・・・・そんなことを不謹慎にも思ってしまった。 ギャルソン姿なんか鼻血モノだろう。それを佐竹が見たかと思うとムカつく。 死んでもなお俺の前に立ちはだかる嫌な男だ。それが父親で、アイツの血が流れているかと思うとぞっとする。 2、3日後に店の裏側がざわついているのを感じた。 マネージャーや店長が奥の事務所に出たり入ったりが激しい。見慣れないボーイも数人入っている。 「恭弥、今日なんかあるの?」 モデル仲間でこのホストクラブで働いている友人の恭弥に話しかける。 「月に2回くらいなんだか店がざわつくことがあるんだよな。オーナーみたいな人が奥に来ているのかな。そういう時はVIP席も満席で・・・・かなり違和感あるよ」 店の奥にはVIPルームがありルームチャージだけで結構金額がはるから満員になることは滅多にない。 さすがに普通営業を表向きはしているがいつもの常連の姿は少なく一元の客が多い。 「なんか裏でイベント開いてんじゃね?」 「そうかな」 恭弥は訝しげな顔をしてこちらを見た。
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