温泉宿(続き)

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声が遠ざかって行っても、私は一歩も動けなくて、 残された理沙は、私の顔を覗き込みながら、意味深に笑った。 「…………」 だけど、その笑顔に返そうと、曖昧に笑おうとした途端。 突然胸に込み上げる、熱さ。 何……これ……。 「……理沙、私……」 何してるんだろう……。 体が小さく震えて、みるみるうちに、視界がボヤけて、 熱いものが頬を滑り降りていった。 「ど、どうしたのよ?」 この感情をどう表現したらいいんだろう。 平気なんだよね。森川くんは。 私が誰とキスしていようと、誰と寝ようと。 初めから分かってたことなのに、 改めて現実を突きつけられた気がして。 中途半端に上がってしまっていた私の体の熱も、 不甲斐なくて。 「私、どうして、こうなんだろう」 服部さんとのキスも、全然嫌じゃなかった。 すぐ近くの自動販売機で、ガコン、と何か買う音がしたあと、 再び二人の声は遠ざかっていった。 「とりあえず、私たちも部屋に戻ろうか」 うん。 理沙に支えられるように、通路に出たときには、 もう既に服部さんと森川くんの姿は見えなくなっていた。
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