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(誰かは分からないし、私の気のせいかもしれないけど…。ありがとう。)
私は、名前も知らない誰かにお礼を静かに告げると、ゆっくりと前に踏み出した。
教室のざわめきがより一層強まる。
それでも、もう怯まなかった。1歩踏み出す度に心臓の鼓動が大きくなる。
「た、立花さん…。あの…」
気まずい様子で、声を掛ける先生の言葉を無視して、私は教壇の前に仁王立ちをした。
ペタリ、と何とも迫力のない踏み込む音が聞こえる。
スリッパじゃなかったら良かったのに…と、そんなくだらないことを考えながら、全体を見渡す。
一気に緊張感が押し寄せてくる。
私は、唾を呑み込み、一呼吸おくと、口を開いた。
「……ごめんなさいっ…!!」
深々と、頭を下げて謝罪する。長い髪が顔に掛かるのもお構いなしに。
みんなの顔は見えない。だが、さっきとは雰囲気が変わったのはどよめきで分かる。
反応に困っている、そんな様子が伝わってきた。
それでも、私は続けた。
「……理由はどうあれ、私は…みんなを傷つけた…。許されないほど、大きな罪を犯した。ほんとに…ほんとに、ごめんなさい…!!あの時、登校拒否とか、親に相談して転校するとか、方法はいくらでもあったのに何もしなかったからこんなことになったの。弱い自分が招いた結果です。何度も言うけど…本当にごめんなさい…」
私の言葉に、誰一人話す者はいない。
というより、全員が、誰かが発言するのを待っているのだろう。
それでよかった。私が望んでるのは許されることじゃなかったから。
「……でも…。」
そこで私は、もう一度勇気を振り絞ると、顔をあげ、周りを見渡した。
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