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人類が引き起こした環境破壊の被害は、環境だけに収まらなかった。
オゾン層の破壊、温暖化、水質汚染、砂漠化――。
それらは人体にも影響し、いわゆる『超能力』というものを生み出す結果となった。
*
その日、俺はいつものように夜遅くに帰宅した。多分二十六時は回っていただろう。着替えることすら億劫で、そのままベッドに倒れこんだ。
あぁ、内科の奴ら怠けてんじゃねぇよ。こっちの身にもなれってんだ。
そう心の中で悪態付いてから、眠りに落ちた。
次に意識が戻ったのは、ピンポーンというインターホンの音によってだった。枕元の目覚まし時計を見ると、まだ五時前を指している。三時間も寝ていない。
居留守を決め込もうかと思ったが、何度も繰り返されるチャイムに、仕方なく身を起こした。
ドアに付いた小さな覗き穴から外を覗くと、そこにいたのは一人の少女だった。シャツの裾をぎゅっと握り、固い表情で俯いている。肩までのストレートの髪が、顔に影を落としていた。
俺はチェーンを外さずにドアを開けた。
「どちらさん?」
僅かに開いたドアの隙間から声をかける。
「こんな朝っぱらから……。常識考えてくんない?」
まだ辺りは薄暗い。近所に気を使いながら、十分に声を落とした。
「あのっ私、片岡サツキと言います。富原博士に言われてここに来ました」
その名を聞いて、俺の表情は固まった。
俺は市民病院で外科医として働いている。環境破壊が生み出した超能力で、三十代前半という若さではあるが、それなりの地位にいた。
ほんの数十年前まで、超能力なんていうものは空想上のものとされていた。おとぎ話の中で語られる、子供だましのもの。
しかしそれを覆したのが富原博士だった。博士は科学的に超能力を解明し、社会に活かせるものへと至らせた。
富原博士とは、その超能力の研究のために知り合った間柄だ。博士は超能力の研究の第一人者として名を馳せており、その研究所の所長でもあった。
その強引な手腕が相容れられず、僅かな付き合いではあったが。
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