第一章 世界樹の種 ~Seed~

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 人類が引き起こした環境破壊の被害は、環境だけに収まらなかった。  オゾン層の破壊、温暖化、水質汚染、砂漠化――。  それらは人体にも影響し、いわゆる『超能力』というものを生み出す結果となった。    *  その日、俺はいつものように夜遅くに帰宅した。多分二十六時は回っていただろう。着替えることすら億劫で、そのままベッドに倒れこんだ。  あぁ、内科の奴ら怠けてんじゃねぇよ。こっちの身にもなれってんだ。  そう心の中で悪態付いてから、眠りに落ちた。  次に意識が戻ったのは、ピンポーンというインターホンの音によってだった。枕元の目覚まし時計を見ると、まだ五時前を指している。三時間も寝ていない。  居留守を決め込もうかと思ったが、何度も繰り返されるチャイムに、仕方なく身を起こした。  ドアに付いた小さな覗き穴から外を覗くと、そこにいたのは一人の少女だった。シャツの裾をぎゅっと握り、固い表情で俯いている。肩までのストレートの髪が、顔に影を落としていた。  俺はチェーンを外さずにドアを開けた。 「どちらさん?」  僅かに開いたドアの隙間から声をかける。 「こんな朝っぱらから……。常識考えてくんない?」  まだ辺りは薄暗い。近所に気を使いながら、十分に声を落とした。 「あのっ私、片岡サツキと言います。富原博士に言われてここに来ました」  その名を聞いて、俺の表情は固まった。  俺は市民病院で外科医として働いている。環境破壊が生み出した超能力で、三十代前半という若さではあるが、それなりの地位にいた。  ほんの数十年前まで、超能力なんていうものは空想上のものとされていた。おとぎ話の中で語られる、子供だましのもの。  しかしそれを覆したのが富原博士だった。博士は科学的に超能力を解明し、社会に活かせるものへと至らせた。  富原博士とは、その超能力の研究のために知り合った間柄だ。博士は超能力の研究の第一人者として名を馳せており、その研究所の所長でもあった。  その強引な手腕が相容れられず、僅かな付き合いではあったが。
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