第6章 『異変』

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程なくして薄暗い奥から頭は白髪、優に80は越えていると思われる、ほっそりとした体系の男性が表れる。シワクチャの細長い顔、目は里村のようにギョロとしており、鼻筋の通ったやや高い鼻に大きな口。白いシャツを腕捲りにし、下は縒(よ)れた紺のスラックスを履いていたが、裸足であった。 「……はい !?」 玄関先にいる3人に向かって、その男性は訝しそうな視線を投げ掛けるが、直ぐにその正体は分かったようであった。 「あっ、私、この前、お電話を差し上げました福島県警の里村と言いまして、こちらの2人は私の同僚です」 里村はその男性に向かって警察バッジを示したものの、深瀬と堀内については同僚と紹介するに止まった。 「やはり、そうでしたか。そうじゃないかと思ったんですよ」 破顔一笑。その男性は白い歯を見せて軽く笑い、そして、一段高いところから里村達に向かって軽く頭を下げる。 「私が和代の父親です」 「お忙しいところ、申し訳ありません」 「いいえ、今は年金暮らしで別段、仕事もしてないんで毎日が暇なんですよ」 再び軽く笑い声を上げる和代の父親。暇という事が冗談か否かは定かではなかったが、年齢の割りには随分と矍鑠(かくしゃく)としていた。 「それで、電話でもお話しましたが、今日、お訪ねしたのは……」 「分かってますよ、私の妻の事でしょう。妻も待ってますから、どうぞお上がり下さい」 3人はコンクリート剥き出しの、黒いサンダルが一足置いてあるだけの玄関に入って靴を脱ぐが、なぜか、腰くらいの高さの靴箱の側に細長く分厚い板のようなものが立て掛けてあった。 案内されたのは入って直ぐ右側にある、フローリングされた畳8分程の部屋で居間と呼ばれるようなところ。中央部分に正方形の大きなオレンジ色のカーペットが敷かれ、ティッシュボックスが載せられてあるガラステーブルを挟んでグレーの横長のソファーが向き合うように置かれてあった。また、正面の壁際には薄型の中型テレビと仏壇が並べられ、反対側に細長い木目調の食器棚のようなものが置かれてあったが、家の外観と比べると中の造りは非常にアンバランスなように思えた。 「……今、妻を呼んで来ますから、ソファーにでも座ってお待ち下さい」 和代の父親が出て行くのを見届けて後、里村と深瀬が並んで、堀内が反対側のソファーに腰を下ろす。 「……家とは違って中はかなりモダンですよね」
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