第6章 『異変』

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和代の実家は静岡県富士宮(ふじのみや)市にあった。富士宮市は静岡県東部、世界文化遺産である富士山の西側に広がる、人口約13万の神社や『白糸の滝』などの名跡の多い都市である。里村達が今、宿泊している上野から西へ凡そ140キロ離れており、一般道を使って向かった場合だと約3時間から4時間掛かる距離であった。 午前8時に上野のビジネスホテルを出た里村達は神奈川県を横断して静岡県へと入る。そして、午前11時半頃に富士宮市に到着。快晴の下、車窓から見える、雄大な実物の富士山と、その周囲の光景に感動や興奮を覚えながらも市の北側にある和代の実家に向けて深瀬は車を走らせていた。 走る事約20分、堅固なビルが建ち並ぶ市内を抜けた車は緑豊かな、建物や人影も少ない田舎の風景という表現が将(まさ)に当てはまる地域に到る。目にする家屋は古い木造の平屋が多く、車1台が通れるだけの狭いアスファルトの道には深瀬が運転する覆パト以外は見えず、深瀬達が途中出会ったのは畑仕事でもしていると思われる、肩に農機具を担いだ、農協のマークが入ったキャップを被った初老の男性1人だけであった。 「……この辺の筈なんだけどなあ」 徐行して走る車のフロントガラスから頭を低くして辺りに目を遣る深瀬。当然、道路脇やその周辺に地番を示す標識のようなものはなく、ナビゲーションと電話で教えて貰った行き方だけが頼りであった。 「……あの辺りじゃないですかね」 後部座席から右手の方を指差す堀内。道路から少し離れた右斜めの方に木造家屋が5軒程集まっている所がある。取り敢えずは行ってみようという事になり、車は50メートル程進んで右折をし、更に狭い道へと入って行った。 一番手前、年代を感じさせる平屋の木造家屋前で車は静かに止まる。車から下りた3人のうち、堀内だけが奥に井戸がある、その家の広い庭へ足を踏み入れ、そして、約3分後に再び2人の前に表れる。 「……この先にある2階建ての家が『野際』さんの家だそうです」 見れば2階建ての家は1軒しかない。それが和代の実家なのであろう。3人は横一列になってその方向へと歩き出す。 「……ごめんください」 玄関の黄土色のアルミ戸を左に引いて里村が中に向かって声を張り上げる。飴色の木造家屋の2階建て。造りはかなり古いようで、アルミ戸の右脇にある錆で黒ずんだ赤い鉄製の郵便受けがそれを如実に物語っていた。
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