第6章 『異変』

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部屋の中を見回して堀内が感心したような口振りで言う。確かに、外観は昭和時代にでも造られたかのような様相を呈していたが、内装は今風ではあった。言葉にこそ出さなかったが、里村と深瀬の思いも堀内と同じであったかも知れない。3人は雑談しながら和代の母親の登場を待っていると、入って来た方から和代の父親の声が聞こえて来る。 「……どうもお待たせいたしました」 3人は直ぐに会話を止めてその方を見る。そこにはシルバーの車椅子の背後に立つ和代の父親と車椅子にキチンと座ってこちらを見ている老婦人の姿があった。 「これが私の妻です」 『車椅子』。不幸にも卓司の予感は的中した形になってしまった。里村達は直ぐに立ち上がって2人を迎え入れる。 車椅子を押して中に入って来た和代の父親は、堀内の座っているソファーの脇に車椅子を一旦止めるが、妻に何か耳打ちをすると、そのまま居間を出て行ってしまった。父親が出て行くまでの様を目で追っていた里村はその姿が見えなくなったところで母親の方に目を向ける。 丸顔に真っ白でウェーブの掛かった短い髪。髪の量は少なく、皺の様子から父親と同じ80代かと思われたが、顔立ちは悪くはなかった。座っているので、背の高さは判然としないものの、それでもそんなに高くはないように思えた。白いブラウスの上に薄手の黄色いカーディガンを羽織り、赤い膝掛けの下、白いパンツから出ている足首の細さから両足の筋肉の様子は大体、想像がついた。 「……福島県警の里村と言います。こちらの2人は私の同僚です」 里村が頭を下げるのとほぼ同時に深瀬と堀内も頭を下げる。 「遠いところからご苦労様です。私が和代の母親です」 「お邪魔ではなかったですか」 「いいえ、ご覧の通り、足が不自由でどこに出掛けるという訳でもなく、一日中、家にいるという事が殆どなので……あっ、どうぞ、お座りになって」 「ありがとうございます。では、遠慮なく……」 言われた里村はソファーに腰を沈め、そして、両膝の上で手を組んで母親の顔を見る。 「……実は、私どもは先月に県内で起きた殺人事件の捜査中でして、調べて行くうちにお孫さんの『祐介』さんと被害者が高校時代、仲が良かった事が分かりました。で、お孫さんの方を調べ出したら、お母さんの和代さんがアメリカに行っていると聞いたものですから、その確認の為、本日、こうしてお伺いをしたという訳です」
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