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身を乗り出して問いただす俺に対し、内海は黙ったままだった。しかし、口元はこらえきれず緩んでいて、返事はなくとも答えは明白だ。
まじか……本当にそうなのかよ……。
「おい……小谷」
「ひっ!?」
突然背後から肩を掴まれ、声が裏返る。勢いよく振り返ると、三十過ぎくらいの、まだ若いうちのクラスの担任様が俺を見下ろしていた。
「朝から先生の話無視して、楽しそうだなあ」
「えっ? いやあ、その……」
担任はにこやかな笑顔を浮かべているが、それが逆に怖い。
助けを求めるように内海を見ると、我関せずといった態度で、目を細めてグラウンドを見つめている。
「小谷。ホームルーム終わるまで、立っていようか」
「……ハイ」
ぽんと肩を叩かれ、俺は素直に席を立った。くすくすと小さな笑い声が教室のあちこちから聞こえる。
くそ、内海め。ホームルーム終わったら覚悟しておけよ!
「おい、内海! お前やっぱり彼女――」
「内海! 彼女出来たって本当か!?」
「そんなの嘘だよね!? 小谷くんが勝手に言ってるだけだよね!?」
ホームルーム終了後。担任の話が終わるなり振り返って尋ねるが、内海はあっという間にクラスの男女に囲まれて見えなくなった。仕方なく、席に座ったまま輪の中央に耳を澄ませる。
すると、「ほんまやけど」という内海の声が聞こえて、一瞬教室が静まり返った。
そして一拍置いたあとに、喜びと落胆の声が上がる。言わずもがな、喜びの声は男子のもので、落胆の声は女子のものだ。
「ねえ、彼女って誰なの!?」
多くの女子が退散していく中、なおも食い下がる声がして目を向ける。
ああ、木田さんか……。
木田さんはうちのクラスで一番可愛いと言われている女子だ。日頃の態度から何となく分かってはいたが、恐らく木田さんは内海のことが好きなのだろう。
「そうだ! 誰なのか言えよ!」
「同い年か!? 先輩か!?」
木田さんの言葉に便乗して男子が騒ぎ始める。しかし俺は内海の彼女が誰なのか、予想がついていた。
あの内海が未練たらたらに、『めちゃくちゃ可愛い』『あんな可愛い人他にいない』とまで言ったのだ。そんな美少女、学校中探しても一人しか思い浮かばない。
「もしかして、紺野さんか!?」
誰かが思い切ったような声で尋ねた。その声に俺は勝手に頷く。
そう、間違いない。内海悠の彼女は同じ一年でバスケ部の紺野ひかる――。
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