噂の彼女は体育祭実行委員!

3/15
530人が本棚に入れています
本棚に追加
/43ページ
 身を乗り出して問いただす俺に対し、内海は黙ったままだった。しかし、口元はこらえきれず緩んでいて、返事はなくとも答えは明白だ。  まじか……本当にそうなのかよ……。 「おい……小谷」 「ひっ!?」  突然背後から肩を掴まれ、声が裏返る。勢いよく振り返ると、三十過ぎくらいの、まだ若いうちのクラスの担任様が俺を見下ろしていた。 「朝から先生の話無視して、楽しそうだなあ」 「えっ? いやあ、その……」  担任はにこやかな笑顔を浮かべているが、それが逆に怖い。  助けを求めるように内海を見ると、我関せずといった態度で、目を細めてグラウンドを見つめている。 「小谷。ホームルーム終わるまで、立っていようか」 「……ハイ」  ぽんと肩を叩かれ、俺は素直に席を立った。くすくすと小さな笑い声が教室のあちこちから聞こえる。  くそ、内海め。ホームルーム終わったら覚悟しておけよ! 「おい、内海! お前やっぱり彼女――」 「内海! 彼女出来たって本当か!?」 「そんなの嘘だよね!? 小谷くんが勝手に言ってるだけだよね!?」  ホームルーム終了後。担任の話が終わるなり振り返って尋ねるが、内海はあっという間にクラスの男女に囲まれて見えなくなった。仕方なく、席に座ったまま輪の中央に耳を澄ませる。  すると、「ほんまやけど」という内海の声が聞こえて、一瞬教室が静まり返った。  そして一拍置いたあとに、喜びと落胆の声が上がる。言わずもがな、喜びの声は男子のもので、落胆の声は女子のものだ。 「ねえ、彼女って誰なの!?」  多くの女子が退散していく中、なおも食い下がる声がして目を向ける。  ああ、木田さんか……。  木田さんはうちのクラスで一番可愛いと言われている女子だ。日頃の態度から何となく分かってはいたが、恐らく木田さんは内海のことが好きなのだろう。 「そうだ! 誰なのか言えよ!」 「同い年か!? 先輩か!?」  木田さんの言葉に便乗して男子が騒ぎ始める。しかし俺は内海の彼女が誰なのか、予想がついていた。  あの内海が未練たらたらに、『めちゃくちゃ可愛い』『あんな可愛い人他にいない』とまで言ったのだ。そんな美少女、学校中探しても一人しか思い浮かばない。 「もしかして、紺野さんか!?」 誰かが思い切ったような声で尋ねた。その声に俺は勝手に頷く。  そう、間違いない。内海悠の彼女は同じ一年でバスケ部の紺野ひかる――。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!