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髪を洗うときも、体を洗うときも上坂は抵抗することはなかったし、むしろ心地よさそうに目を細めていた。
俺は逆に理性がいっぱいっぱいで完全に無表情になってたけど。
「よし、身体も洗い終わったし、湯船につかろうか。酔っぱらってるときはあんまり長い時間つからないほうがいいから、身体あったまったら出ようね?」
「はーい!」
素直に返事をした上坂は湯船に入るときも俺の手を引いたままだった。
いや、俺もう風呂入ったんだけど……まあいいか。
「少しつめてね?」
「えーっとねぇ、じゃあ、みなとさんはぼくの後ろー!」
「え?」
上坂は俺の脚の間に腰を下ろすとそのまま俺によりかかり、こっちを見上げてふにゃっと笑う。
おいおいおいおいおいおい
ちょっと待て
なんでそういうことを平気でするんだよ
一瞬体が硬直する俺を不思議に思ったのか、上坂はこてんと首を傾げる。
「ん?」
……本当にもう勘弁してくれ
俺がため息をついて上坂からわずかに体を引いたときだった。
上坂は勢いよくこちらを振り向き、そのまま抱き着いてきた。
「っ、こ、上坂?」
そして次の瞬間。
ゴツッ
と音がして鼻に何かがぶつかる。
思わず「痛い」と言いかけた唇は、その衝撃の直後に柔らかいもので塞がれた。
え……?
驚きすぎて声も出ない俺の首に腕を回した上坂は、そのまま頬ずりをしてくる。
濡れた髪から滴る雫が俺の肩に落ち、そして胸の方へと落ちて行った。
その緩慢な重力運動をどこか他人事のように目の端でとらえながら、俺は上坂の目を真正面から見つめ返す。
上坂はとろんとした目で俺を見つめ、それからふにゃっと気の抜けた笑顔を浮かべる。
「みなとさん、だいすき。」
触れたら切れてしまいそうな柔らかな唇で甘い言葉を呟いた上坂はそのまま俺の首にキスをしてきた。
触れるだけのささやかなキスだというのに、俺の心臓は大きく脈打つ。
ああ、
本当にまずいかもしれない
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