西の方邑の者

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 巨大な目が楽しげに語る。  恐ろしいのに、聞いてはいけないと思うのに、周雅は身動ぎ一つできない。本心では知りたいのだ。あの国が。あの琴が。 「人間を生け贄にしても、なお凶と出るなら、その数を増やす。一人、二人、三人……まだ足りない、十人、百人……ふふふふふふ」  獲物をとらえたように、目は楽しげに笑う。 「百人の奴隷、やっと吉が出た」  目だけだというのに。そこに口があり、生け贄をほふって、その血を滴らせているように、そして、にたと笑っているように見える。  周雅は恐怖で気が遠退きかけた。それを辛くも堪えようとする強い意志が頭の中で働く。 「焦るな、身を委ねてしまえ。楽ぞ。そんなに必死に抵抗して、それ、心の臓が激しくなり、全身の血潮が逆流しておる。逆らわない方が良い。さあ、楽におなり」  目はさらに大きくなって膨らんでいく。 「……師の君を……」  どこへやったのだ、返せ――。 「凶事だ、それも大凶事。国の存亡にも関わる大凶事。奴隷なんぞの生け贄では、天は許してくれない。高貴な乙女を捧げなければ、国は滅びる。うふふふふふ」
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