十章

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「正直ね、その覚書には法的な効力はない。けれど、例えば何かあった時にマスコミにでも流せば僕にはダメージになるだろう」 「良いんですか?」 「うん、もし君が僕の事を真面目に考えてくれるとしても、お父さんの会社との取引を引け目に思われるのは絶対に嫌なんだ」 後藤さんが真剣に考えているのは本当だと思った。同時に気持ちが楽になったのも事実だ。 「後藤さん、ありがとうございます」 「お礼を言われる場面じゃないんだけどね。特にお父さんの事で君を脅した形に……いや、現実に脅したのは事実で僕は本当に後悔してるんだ」 「もう良いですよ。実際、私の方が後藤さんを利用していたのかもしれないですし」 「まあ、それはどうなのかわからないけれど、改めて謝りたい。申し訳なかった」 大きな声ではなかったけれど、立ち上がって頭を下げるのだから周りの目を気にしてしまう。 「わかりましたから、座ってください。もう……」 我に返って周りの席の人達に小さくてを上げる。 「もう、誰かに見られたらどうするのですか?ただでさえ後藤さん有名人なのに」 両手を合わせて、ごめんって謝る姿を見て可笑しくなった。
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