第1章

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 リングは、嵌めない。  私たち家族ががそう決めたのは、やはり、政府のニュースを信じ切れなかったからだ。  空を宇宙船が埋め尽くしたその日。私たちはまったく何の予備知識も与えられてはいなかった。  おりしも、中秋の名月目前で、少し早いけれど、お月見団子を用意して、のんびりしていた時だった。  本当に、突然。 1つ、また1つと空に白い光の玉が顕れて。  まるで、夜なのに昼間に戻ったかのように煌々と街が明るく照らし出された。  茫然として、私は長女の静と長男の薫と手をつなぎ、ベランダに出て空を見上げていた。  政府からの一斉放送が入ったのは、ほぼ同時だ。 後で知ったのだけれど、日本だけでなく、これは全世界共通だったそう。  ……つまり政府はこのエックスデイをすでに知り、私たちにここまでその重大事を秘しておきながら、この日のために綿密に準備していたのだ。  宇宙船の目的は、『収穫』だった。 その時放送された、政府の話はこうだ。  遠い昔。彼らは生命の種を、この星に植えた。 別の星で様々な進化を経て多様な生物を増やし、自らの棲む星に新たな変革を生むため。  彼らはずっとそのような事を行っていた。 そうしなければ、同じ種だけでは、生命というものは常に退化し、やがて失われるものであるからだと、彼らは言う。  そして今、彼らの星はその予定の危機を迎えようとしており。そのために、私たちを新たな生命として「収穫」に来たのだと。  俄かには信じがたい話だ。けれど、そこから後の告知の方が、実ははるかにもっととんでもなかった。  彼らは私たちおおよそ73億の地球人の中から、有志の20億を募るという。  自分たちの星の、新たな命として。その立候補者には、選択の印として特別なリングを配る。そして、ちょうど一週間後に、この地球を、彼らとともに旅だつ事になると。  そこまで聞いただけなら、誰が立候補するものかと思っただろう。しかし、彼らはその後、こう続けた。  そして、残りの53億は、すべて消去されることになると。
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