離してやれない

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「ほら、最終確認するんだろ?さっさとやれよ。」 二人の会話を遮るように言うと真白に目で窘められた。お友達でしょ。サインを頼む相手に邪険にしないの。そんな感じの目だ。 「じゃあ、聞くけど。真白ちゃん、本当に司と結婚していいの?もっといろんな奴と付き合って視野を広げてからでもいいんだよ、結婚なんて。」 樹の言い方は教師が優しく諭すみたいで、思わず真白を見た。 「友達にも会社の先輩にもそう言われましたけど、司を愛しているのに他の人とお試しみたいに付き合うなんて有り得ませんよね。私、司以外の人なんて考えられないです。 会社の先輩でちょっと厳しいけど尊敬できる人がいるんです。凄くイケメンでカッコいい人なんですけど、そんな人でも男の人としてどうかと聞かれたら恐怖と嫌悪感しか感じないんです。」 真白の言っている先輩が道城さんだということはすぐにわかった。道城さんに対しても嫌悪感を感じるとはっきり言い切った真白に俺は凄く安心した。 「真白ちゃんって、もしかして男性恐怖症?司は女顔だから大丈夫だとか?」 樹のとんでもない発言に呆れた。だから、女顔って何だよ。男らしくないと言われたみたいでムッとした。 「え?別に普通ですよ。恐怖症なんてことはないです。でも、隙は見せないように気をつけているし、誤解を招くような言動も慎んでいます。私には司がいるから。」 「君はそうやってちゃんとしているのに、司は何度も君を裏切っている。 故意にではない。それは俺が保証する。でも、事実は事実だ。 この先も絶対に無いとは言い切れない。こいつはモテるからね。 君は許すだろうけど、君の精神は耐えられるだろうか?」 そんなことは考えもしなかった。 裏切られる度に傷ついた真白の心がヒビだらけになって、いつか粉々に壊れてしまう。そんな可能性があることを今、初めて思い知った。 「それはつまり私が精神的に病んでしまうっていうことですか?」 「人間の心って案外脆いものだよ。自分が思っているよりずっとね。 うちの生徒にも教師にもいる。我慢に我慢を重ねて、ある日限界を超えるんだ。 真白ちゃんは凄く我慢していると思う。普通は一回でも耐えられない。」 「そうかもしれないけど、それでも私は司の側に居たいんです。司から離れることの方が私には辛いから。」
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