第2章 賭博師のラブシュプリマシー

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「彼女はそばアレルギーで死ぬ前に誰かを家に招き入れたんです。そして、いつも通り家から帰した」  いつも通り。そこが重要だ。 「すなわち、彼女を殺すことができたのは“いつも通り”を行える男性の中にいる。そう、坂井さん。あなたもです」  林原は恵美の彼氏候補だった。だとしたら、林原を家に上げたことも考えられる。しかし、だからといって林原にだけ容疑がかかるのはおかしい。そうだ。同じ条件ならば、彼女の恋人であった坂井も容疑者になり得るのだ。  そのとき、坂井が吠えた。 「いや、ふざけんなよ。何で男性限定なんだよ! 別に女だっていいだろ!」  そうだ。確かに男性は親密な仲の者しか上げなかったかもしれない。だが、女性ならば? 女性ならば簡単に家に上げたのではないだろうか。 「それによお、女! お前、恵美がそばアレルギーだって知ってたって言ったよなあ!! お前が殺ったんじゃねえのかよ?!」 「あれ、坂井さん。あなた、林原くんが犯人だと断定していたんではなかったですか。まさか、確信がなかったのに林原くんを襲ったんですか」 「うるせえよ! 言い訳すんな!!」  坂井は唾を飛ばして愛里に叫ぶ。 「では、具体的な殺害の手口を説明しましょう」  坂井はその言葉に怯んだ。 「部屋に争った形跡がないということは、恵美自身はそばを食べていないことになります。そばアレルギーのことを知っていた恵美がそばを食べるとは思えません。無理やり食べさせられたのならば、必ずや何らかの証拠が出てしまいます」  食べたら死ぬかもしれない毒を食べる者はいない。無理やり食べさせられたのではなければ。  部屋の荒らされ具合や、恵美が争った際に加害者を引っ掻き、爪に加害者の皮膚や髪の毛が付着することもある。だが、司法解剖も行われたうえで事故死と判断されたのだ。そういったものは一切検出されなかったのだろう。  ゆえに彼女はそばを食べていない。ならばどうしてアナフィラキシーショックを起こしてしまったのか。 「こんな事件がアメリカでありました。とある女性が死にました。死因はピーナッツに含まれるアレルゲンによるアナフィラキシーショックでした」  愛里は突如として話し始める。
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