第6章

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「…誓」  今度こそ外に出ようとカウンターから背を向けた片岡を卯藤が呼び止める。振り返ると何か放り投げてきた。  片岡が掌を広げて受け止めると、それは小さな紙袋だった。 「持ってけよ。奢りだ」  薄いハトロン紙の紙袋の中に、ナタが3つ入っている。  袋の中身を見た片岡はまるで子供のように笑顔を弾けさせた。 「オブリガード」  紙袋を高く掲げて礼を言うと、片岡はアルファマの路地に駆け出して行った。  呆れ半分の笑顔を浮かべて、卯藤は片岡を見送った。  だがその表情とは裏腹に、心の中は涙が出そうなほど熱くなる。  本当に、彼は帰ってきたのだ。  相変わらず、明るく笑って…  そして相変わらず、このちっぽけな何でもない菓子が大好きで…
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