第6章

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 夜のうちにまた雨が降ったらしい。  路面は濡れていたが、今はもう、雲の間から青空が見えていた。  雨上がりの暖かい空気は、冬の季節には一段と心地よく感じる。しかしそれは僅かの間で、じきに冷たい風が街を覆うだろうが…。  それを繰り返しながらも少しずつ春は近づいてくるのだ。  トラムのルート沿いに暫く歩いていったが、生憎出くわすことができず、結局カテドラル近くのバス停まで坂道を下る羽目になった。  バス停に着くと、今度はバスが行ってしまったばかりのようで、通勤時間帯なのに誰も待っていない。  片岡は仕方なくバス停のベンチに腰掛けて、卯藤がくれたナタを紙袋からひとつ取り出し、頬張った。  歯を当てると僅かにぱりぱりと音がして、なめらかでコクのあるカスタードが口の中に蕩け出す。
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