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活字離れのこの時代に、貴重な子を目にして心が温まった。それも、ここが地域密着の愛される書店だからなのかもしれない。
今頃、眠多猫先生は執筆作業に没頭しているだろうか。それとも、ゴロンとなって夢の国へ旅立っているのだろうか。毛繕いに勤しんでいるってこともあるか。
それにしても、猫が小説を書く世の中というのも面白いものだ。
言っておくが、世の中の猫がみんなそうではない。当たり前だ。そんな世の中になったらそれこそ、この世は猫に占領されるなんて事態になりかねない。けど、本当に当たり前だと言えるのだろうか。もしかしたら、猫たちは思っている以上に才能豊かな存在なのではないのだろうか。真一はすぐにかぶりを振り、微笑んだ。
そこまで飛躍した考えをすることはないか。うちにいる眠多猫先生が特別な存在ってだけのこと。
おっと、こんなところで油を売っている場合ではない。早く帰って進捗状況を確認せねば。
――眠多猫先生、待っていてくださいよ。美味しい猫缶を買っていきますからね。
「おばちゃん、美樹ちゃん、またくるよ」
ふたりの笑顔に見送られて真一は書店を後にした。
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