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「……ふーん、そうなんだ」
「あそこの先生が亡くなられて、もうだいぶ経つからね。あんたが通ってた時点で築30年は経ってたから、全部取り壊して分譲地になるらしいわよ」
聞いてもいない情報を言いながら、母親は別の部屋の掃除へと向かった。
小学生時代のそろばん教室。
今母親がその話をするまで智也は忘れていた。
放課後、木造の立て付けの悪い引き戸を開けると、そこは小学校とはまた少し違う雰囲気の教室があった。
母親のお手製の手提げにソロバンを入れて、ついでに学校の宿題と、友達と読む為の漫画も入れて。
真っ白な髪のじいちゃん先生が竹の物差しを振り回して教えてくれた。
そこでしか会えない、他校の生徒も居た。
そこでしか会えない、少女も。
「なくなっちゃうのか……」
声に出して呟くと、たった今まで忘れていたのに、急に教室が無くなることを名残惜しく感じた。
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