6人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
その子が将来なりたかったものは、この学校の先生で、だけどもう、絶対になれなくなってしまった。
ある日突然、理不尽な出来事によって失われた命ーー。
彼女との下校中、僕の見ている前で歩道に突っ込んできた車に撥ねられ亡くなった。
その日以来、罪悪感に苛まれながら生きてきた。
目の前にいながら助けられなかった。もう少し位置が違っていたら、君の身代わりになれたのに……。
そんな事ばかり考える毎日で、いつしか彼女の夢を叶えるために生きるようになってしまっていた。
「後は自分の人生をしっかり生きてね、先生」
彼女の声が震えている。いまだに呪縛から抜け出せないでいる僕を心配して、こうしてきてくれたのだ。
「さようなら、先生」
「ーーっ。美紗ちゃん……!」
振り向いて、でも、そこに在るのはすっかり暗くなった踊り場だけだ。
立ち上がり、吹っ切れた清々しい気持ちで涙を拭う。
僕はもう、大丈夫だ。
これからは彼女のではなく、自分の道を歩いて行ける。
ありがとう、美紗ちゃん。
そしてこれで、本当にさようなら……。
最初のコメントを投稿しよう!