第一章・ーかなえてー

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「先生さよーならー」 「さようなら。気をつけて帰ってね」  季節は秋。もうそろそろで冬にさしかかろうかという夕暮れは短く、夜の闇が迫ってくるまで後少しになってきた。  それでも懸命に照らそうとしている夕陽が僕の頬を赤く染め、影を長く延ばしている。  ここは僕が通っていた小学校で、唯一であった夢を叶えて教師となって帰ってきたのだ。  どうしてもここに帰ってきたくて、色々な方面に迷惑をかけた。  感謝してもし足りないくらい、周りには恵まれていると思う。  夜の闇が支配するまでにはまだ少し、後少し、それまでに校内を見回ってみたくて廊下を歩いている。  高学年から低学年まで、あんなに何もかもが新鮮に見えていた、大きい机に大きい椅子だと思っていたものが、今はこんなに小さく感じるなんて……。  ふと、一年生の教室横手にある階段に目を留めて、何段か昇り踊り場に腰かける。  そうして、背後にある窓から射しかける夕陽が作り出す影をしばらく見詰めていた。  ……先刻見た時には気付かなかった。
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