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いつの間にか影は二つあって、思わず振り向こうとしたところで、背後から無邪気な声音で先手を打たれてしまう。
「先生、こんなところで、何をしているの?」
可愛らしい、女の子の辿々しい声音だった。
「ちょっとしんみりしていたんだよ。ここはね、先生の母校だったから」
何故かタイミングを失ったと感じて、そのまま振り向かずに影と会話する。
すると小さな笑い声。
「先生もここの生徒だったの?」
「そうだよ」
「先生は、どうして先生になったの?」
嘘を吐く必要だとか、誤魔化す気にもなれなくて不思議と恥ずかしいとは思わずに、すらすらと素直に応えていく。
「それが唯一の夢……、だったからだ」
そうだ。それが僕の、何もかもを犠牲にしてでも、叶えたかった夢だ。
あまり成績が優秀でなかった僕がそのためにがむしゃらに勉強して、ようやくの思いで念願が叶ったのだ。
ここにきてしばらく経って、ようやく実感が湧いてきた。
なりたかったものになれた。凄く嬉しくて、毎日が楽しくて、でも何故か……心にぽっかりとあいた穴……。
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