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数時間前まで指すら触れられなかった彼女が今、自分の腕の中にいる。
そのことに幸福感を感じながらも、それが満たされきれない前回と全く同じような感情が、自分の首を真綿のように優しく締める。
「南条さん、温かいです」
「そうですね」
彼女の柔らかい髪をすくって、ふわりと落とす。
そのさまを、斜めにした顔でぼんやりと眺める。
「幸せです」
「そうですね」
髪を梳きながら頭をそっと撫でて、また同じことを繰り返しては、体を寄せる手の力を強める。
「ん?」
「どうしましたか?」
「痛い」
「なにが?」
「南条さんの胸ポケット」
小宮さんの言葉に手の力を弱め、彼女の顔と自分の胸に僅かな隙間を作らせると、小宮さんは俺の背広の胸ポケットから一本のペンを取り出した。
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