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「またかよ」
残暑をのりきるべくミルクアイスを頬張りながら歩いていたその時、
人通りのない街角で白い煙とともに全身黒ずくめの少女が現れ、タクミは疲れたように、今日何度目かの息を吐いた。
少女はくるりと周囲をみやり、タクミの存在を確認すると喜色をあげた。
「こんにちは、わたし」
「はいはい、ストップ。わたし、魔女ですだろう?」
少女は驚いたように大きな瞳をさらに大きくして、
「どうしてわかったんですか! わたしが魔女だって」
と、叫ぶ。
タクミはわからいでかと心の中で呟くと、少女に向かって指をひろげてみせた。
「今日は、あんたで五人目だ。同じような黒ずくめの女の子に『わたし魔女です』と挨拶攻撃されたのは」
言って、ひろげていた指をもどし腕を下ろして、少女と向き合う。
少女の落胆はすさまじく、黒い瘴気を放っていて、通常なら逃避するであろうタクミも、5度目となると慣れてそうは思わない。
ただ、少女は誰かに先を越されたというのが矜持にかかわるらしい。
可愛らしい唇でブツブツ何かを言っているが、無視、無視である。
「言っておくけど、何か願いごとはないか?っていうならないぞ。ちなみに願いごとは自分でかなえる主義で、簡単に魔法でかなうような願いは、もちあわせてない」
ずずーんと少女の周りの空気が重くなったが、タクミは優しさの欠片もない声で言い切った。
「だから、帰んなもとの場所に」
少女は立ち直れないというべく道に座り込み、涙目を浮かべた瞳でタクミを見上げた。
必殺、魔女の涙攻撃だ。
しかし、大抵の少年が怯むであろう少女の涙姿も、タクミにとっては慣れたもので、むしろ破壊力でいえば、母親とふたつ年上の姉の泣き攻撃に比べると、威力がまったく足りない。
修行が足りんなぁなどとタクミは思いながら、座り込んでいる魔女の前に身を屈めた。
視線と視線が絡み合う。
「一個もないんですか?」
「ん? 魔法でかなえられる類いのやつはな」
さらりとかわして、タクミは持っていたアイスを魔女に差し出す。
「てぶらじゃなんだ。食べかけで悪いけどコレやるよ。で、帰ってくれる?」
攻略不能と感じたのか、魔女はあっさりアイスを受け取ると煙を出しながら瞬く間に消えた。
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