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「~~♪」
教室の忘れものに気付いて取りに行った夕暮れ刻。
私はクラスメイトの新たな一面を知った。
教室に近付く度に聞こえて来る声。
よく聞いてみればその声は歌になっていたようで、聞いているうちにその世界に引き込まれるような歌声だった。
音の出どころは偶然にも私の教室。
遠慮なんてものはせずにガラリとその扉を開けた。
「はっ……永瀬!?」
「渡邊?」
扉の音が響くのと同時に歌は止まった。
教室にいるのはいっつも冴えなくて教室の隅にいるような地味メガネ男子。
そいつは慌てたようにこっちを見ていた。
え、歌ってたのってこいつ?
「ねぇ今歌ってたのってアンタ?」
「っ、だったら……何だよ」
渡邊は照れたように窓のほうを向いた。
その耳は夕日のせいなのか真っ赤に染まっていた。
「へぇー!
アンタ歌上手いんだね!」
「別に、上手くなんかない」
そう言って更に耳を赤くした。
「俺、帰るから!」
そばにあったカバンを持って足早に教室を後にする渡邊。
私も忘れ物をとってからその後姿を追いかけた。
校門に寄りかかりながら渡邊は立っていた。
足の速さもあったし、もう帰っちゃったかと思ってたから少し驚いた。
「ビックリ……もう帰ったかと思ってた」
「うるさい。
夕方っつっても秋なんだからすぐ暗くなるだろ」
つまり、危ないから待っててくれたってこと?
その不器用な優しさが嬉しくて必死にニヤついた顔を抑える。
寒がりなのか、既に渡邊の首元には暖かそうなマフラーがある。
渡邊の顔はマフラーの中に隠れてるけど、隠れてない耳が赤い気がする。
そんなキミを見て、私の頬が熱いのはきっと……。
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