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「みーかっ、そんな怒るなよ美人が台無しだ。…でも、そうだよな。俺何で一歩引いちゃって物分かりが良いふりしてんだろ?」
言いたいことは全部言った。さっき言ってきた。けれどそれは原にむけてであって、諭すようなものだった。
でも、そういえば信には酒はぶっかけたけれどビンタのひとつでもお見舞いしたってよかったかもしれない。
(みっともないけど…俺も怒りの矛先を間違えちゃったんだなー。)
つまんないプライドで、みっともなくなりたくなかったからみっともなくなってるなぁ。
物分かりが良いフリで、諦める。追及をしない。っていうのは…信が原にやった「切り捨て」と同じではないか。
そんな人間は愛せないといいながら、自分も同じことをしている、とは。
「あのさぁ…俺、怒ってもいいよな?」
「とーぜんっ!どうせやるなら徹底的にぶっ飛ばせばいいのよ、そんな価値がある男ならね。ショボい男なら、まー…放っておくけど?」
「それって俺の見る目も試されてんな?」
「ふふっ、さぁねぇ?どうなのかしら」
「なら、いい男だった証明に文句のひとつも言わなきゃだな」
「私は女だから、別れた男の愚痴は未練の証拠でもあるもの。つまんない男なんか別れたら済々するような女よ?」
「ふはははっ!あー、でも、それって正解カモ」
本当は、信に言いたいことは山ほどある。
愛してると言いたいしキスしたい。と同時にあんな場面に俺を巻き込んだ渦中の中心への不満も文句もある。
もしも原との関係が終わるのなら、この先があるのなら―――不安も。
俺だけを見て俺だけを愛せとは言わない。
人はただ一人の愛だけでは生きていけないことは知っているから。
ただ、誠実に向き合って欲しいとは思う。
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