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「真浩の体調が悪いらしいので」 「真浩が? そう言えば、顔色悪いッスよ? 大丈夫ッスか?」  お前のせいだ、との文句は心の中にしまった。とは言え、なんだか本当に体調が悪くなってきたようで、……胃の痛みに、妙な寒気までが真浩に襲いかかって来る。 「そろそろ帰りましょうか」  浩登は真浩の傍に寄ってくるなり、心配そうに額に掌を当てていた。どうやら熱まではないらしい。そのまま名残惜しそうに手を振る源次郎と別れ、注意深くフロントやホテル周りを見回しながら歩き出す。  体調が悪化してはいけませんから、と浩登は迷わずバスでの帰宅を選んでくれた。 「後十分くらいですね」  バス停の時刻表と腕時計を見合わせた浩登は、そう言ってキョロキョロと辺りを見回した。きっと、出来るだけ寒くない所を探してくれているのだろうけれど、この駅前にそんな場所はない。 「あそこ、座って待たんの?」 「寒くないですか?」 「ええよ。後ちょっとやろ?」  真浩が指差したのは、水の出ていない噴水。もうここから水が出る事などないと分かっているので、地元の人間が何を心配するでもなくベンチとして活用している場所である。二人は噴水へと腰掛けて、バスを待つ事にした。  寒い寒いと言うものの、今日は十二月にしては比較的暖かな日差しが降り注いでいる。そのせいか、犬の散歩やウォーキングをしている人がいつもより多い気がする。もちろん、学生は学校に行って居る為、駅周りに居るのは小さな子供と母親か、老人、後は平日が休みなのであろう社会人の面々。こんな古ぼけた町でも、よくよく見ればなんだか心温まる風景が広がっている。きっとこんなにも穏やかな昼下がりは都会では感じられないんだろうな、と。真浩はそう思った。 「なんだか気持が良いですね」 「俺も同じこと思った」  思わず欠伸が洩れ、浩登はそれを見て小さく笑っていた。
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