「秘宝伝説を追い求めて~オリヴェッティの奉げる詩~第3幕」仮

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≪様々なの種族の集まる森を行く旅。 人の統治が及ばない土地で、様々な亜種人に巡り会う≫        ★ 悪党達に因るアマゾネスや亜種人への襲撃を撃退して中立地帯となる広大な森に入ってから。 森の中の大都市となるエリンデリンまで、何とも緩やかなのんびり旅・・・とは行かず。 不思議な事に、色々な事が起こった。 いや、本当に起こった。 Kですら、シャンティを連れても6日、7日も有れば着けると思っていたのに、何と倍以上も日を使って旅するとは思わなかったし。 オリヴェッティを始め、仲間の皆も亜種人の生活の様子を一部だが垣間見る事となる。 その忙しい旅の模様の始まりは、アマゾネスの支配する広場の襲撃を阻止してから、明けた次の日の午前の事となる。 湿り気を含む北寄りとなる風の所為か、やや雲も多い空。 少し肌寒い森の中を抜ける。 〔秘境の1つ、セレータス。 千変万化の広大たる森は、1日歩けば景色が変わる。 その延々たる変化する森は、亜種人の暮らす楽園なり〕 昔、旅人で、詩人で、学者だった者がこんな短い話を残したと云うが。 その内容は、正に森を行くオリヴェッティ達が頷けるものだった。 アマゾネスの居た森は、とても目立つカジュラス以外は大小様々な木々の森だった。 処が、今を歩くのは横に大きく枝葉を広げて、1本1本の木々が間隔を開けて生える森。 お互いに伸ばした枝葉が触れ合うか、どうか、その均衡を保って生えていた。 榦は、大人が5・6人は手を繋いで回る程に太くなるも、どうしてか同じぐらいの高さで並ぶ。 葉も、朱色に緑色が交わる模様のほぼ丸型で。 陽射しをかなり遮る森の下では、青から赤紫色の苔むした土が斑に混じる絨毯の様に見えている。 先頭を歩くKは、細々とした木や草の密集した密林が無い上に。 落葉する木が少ないから似た様に見える光景を観察をしながら歩く。 苔の生えない黒い土が帯状に伸びるそれは、誰かが歩いて苔を寄せ付けないのだろう。 時に見掛ける轍の跡から、亜種人や人の森の民が利用する道だと解る。 だが、他の国で見掛ける街道の様に整備されたモノでは無い。 野道が長年にそうゆう風に使われている、と感じられるモノだった。 この旅は、長旅と成るのが最初から決まっている様だった。 アマゾネス達を回避する為に野道を迂回すると、森の民と何度か会った。 彼等も葉っぱで身を汚していて。 普段使う野道が地震で崩落、迂回を迫られている事を聴いた。 薮の中を抜ける迂回路を教えて貰い、漸くこの今の道に出たが。 アマゾネス達の集落を迂回する事を選んだ為、本来よりずっと北側から南下する事に成ってしまったのだ。 同じ木ばかりが見える森を眺めるルヴィアで。 「密林を抜けたのは、とても有難いが。 こうも同じ木ばかりが見えると、どっちに進んで居るのか解らぬな」 オリヴェッティも、空の陽を観て確かめたいが。 木漏れ日となる上を見ても、確認が曖昧となる。 処が、何故か。 Kが急にピタリと歩みを止めると。 「ん? 向こう側から、人の声がするな」 こう言いながら、所々に生える黒い色の榦となる大木の1つを指さした。 皆、太く成った黒い榦の向こう側と聴いては耳を澄ますも、K以外の誰も人の声は聴こえない。 ルヴィアは、辺りを2度、3度と見て回しながら。 「聴こえぬ、何も聴こえぬぞ。 鳥の囀(さえず)り、風に戦(そよ)ぐ木々の枝や葉の音だけだ」 ビハインツも同じ。 一種の木が支配する様に集まる森の中を見て回すも。 ほぼ似た景色が広がるだけなので。 「声って・・ホントか?」 だが、歩き始めたKが野道を外れて、フカフカの苔の絨毯の上を歩いて行きながら。 「いや、聴こえて居る。 向こうだが、来るなら青みの在る苔の上にしろ。 紫の苔は、より柔らかい地面に生える」 そして、厚手の木を底にして布を巻いた足でKの後を追うシャンティが。 「きゃっ、足が…」 横に道を外れるなり、踝辺りまで足が沈む。 青い苔の上を歩くクラウザーは、沈み込みが緩やかと見て。 「カラスめ。 何でこんなことまで知っている?」 こう言いながらシャンティに手を貸した。 「すみません」 Kの後を追って、大きな黒い榦の向こう側へ。 その裏側に回る。 木々の間は大きく開いているものの、横に広がって育つ木々ばかりが延々と目立ち。 その間となる大地は軽く起伏して畝る。 で、道から外れて1番近かった大木の裏側に回るや、リュリュが。 「あ、ホントだぁ。 向こうから誰かの声が聴こえるぅ」 すると、更に方向を見極めたKが。 「向こうだ。 恐らく助けを呼んで居る様な感じだ」 この話に、オリヴェッティやルヴィアが慌て始め。 「ケイさんっ、それを早くっ!」 「おいっ、そんな呑気なっ!!」 苔むす柔らかい地面に苦戦しながら走る2人をシャンティが追って。 その後を体重の為か足元を見たり、先を見たりするビハインツやクラウザーが追い。 ウォルターは、浮遊する鞄で。 リュリュがフワリと浮いて飛んで行く。 皆から追い越されるKだが。 声がハッキリしているので、今直ぐに死ぬ事では無いと思ったが…。 少し先の所で、巨木の裏側が穴の様に下がって泥溜まりと成る所が在った。 リュリュが声を聴いて行くと、植物の繊維を糾い糸にしたモノを更に編んで作られた服を着て、手作りの簡単な造りとなる弓を背負う中年男性と。 彼と似た格好となる少年が居て。 腰まで泥に浸かって居た。 「オネーサぁン! こっちこっちぃ〜〜」 「誰か居たぁ?」 「居るぅ〜〜」 沼の様な泥溜まりから、リュリュが2人を引き抜くと。 「たす、かた……」 「うわぁぁん! 怖かったよぉぉぉ!!!!」 恐怖より解放されて2人が声を出す。 見てからに人だが、少し顔の作りが印象的で、肌も褐色だ。 そこに来たKは、枯れ枝を集めて火を点けると。 「泥溜まりに滑落か?」 下半身を泥だらけにして身体が冷えてしまった中年男性が、アウアウと頷く。 口が震える程に寒いらしい。 泥溜まりを見下ろすビハインツは、 「滑落って良く解るな」 と、感心するも。 「先に子供が落ちて、次に助けようとしたそっちの男が落ちたンだろうさ。 苔むした土の削られ方が、それを物語ってる」 と、その場所を指差す。 然し、Kが使い捨ても利く安物ナイフを炙って居るのを見たシャンティで。 「ケイさん。 どうしてナイフを?」 ほんのり赤くすらなる焼けたナイフを用意したKは、別の石ナイフを手にするや。 「サッサと処置をするか。 皆、水を貸せ」 「あ?」 「はぁ?」 焼いてないナイフを手にするKは、直ぐに少年の方から泥だらけのズボンを斬り裂いた。 「この辺りの泥には、悪い病気を媒介する事も在るヒルが潜む。 ほれ、普通のヒルに混じって、一回り小さい灰色と紫色の筋が入る奴がそうだ」 少年の足の彼処此方に泥色のヒルが付着。 大きさは、血を吸ってビハインツの親指に近い大きさへ膨れていた。 確かに、黒っぽいヒルの中に、一回り小さいヒルがいて。 Kの言う色の筋が体表に見えていた。 水でヒルの噛んで居る所を軽く塩揉みする様に洗うや、焼けたナイフでヒルの噛み付きを剥がして行く。 「噛まれた怪我の場所は、ヒルを剥がすと血が少し止まらなくなる。 消毒をしてから止血剤の軟膏を塗る。 痛いが、少し堪えろ」 細身の少年は涙を流しながら震え。 両足に付くヒルを剥がされるのを堪えて見ていた。 オリヴェッティは、中年男性に近付き。 「この付近の方でしょうか」 「あ、あう。 そ、そ・だぁ」 「集落は、此処から近いのですか?」 「あっ、あぁ」 震える指を北東に向ける彼。 仕方ないと思う。 助ける為、処置も時を要すから迎えに来て貰おうと思った。 確かに、彼等の集落はそれなりに近かった。 リュリュが空を飛んで見つけ、夕方が少し前となる暗さの中で集落の長(おさ)となる年配の老人に面会。 事情を話すと、馬車にて迎えに来て貰えた。 「おっ、長よ。 やはりモンデンとジュウターだ」 「沼溜りに滑落したとな。 迎えに来たぞ」 松明を持った集落の人々が2人を荷馬車へ収容する。 集落の長は、オリヴェッティや皆を見て。 「飲水を使わせて悪かったの。 我が郷(さと)で補給しなされ。 悪党では無いならば、郷の者を助けられたしの。 歓迎しよう」 その日の夜は、古い木造の家で寝泊まりが出来た。 新鮮な水を湛える井戸も使わせて貰え、身体を湯で拭きさえ出来た。 助けられた男性の妻で少年の母となる女性がシャンティにと、草の靴と薄手となるも繊維の服まで貰えた。 僧侶が居ないので、Kは集落の者と治療に付き合った。 集落の者との話し合いで、悪党達の街が滅ぼされたと聴いて誰もが耳を疑って、詳細を訊ねて来る。 この集落は、3つの集落の者が合わさり出来たとか。 その3つの集落全ては、悪党の所為で女や子供が激減し。 仕方なく今はこうして合わさって居る。 そして、次の日の早朝だ。 集落の外まで見送りをして貰える時。 ヨボヨボの老婆がKから傷薬と化膿止めの薬を受ける代わりに。 「このしゅうらくで取れる木の実じゃ。 歩きながら、食べたらエェ。 じゃが、夜はモンスターに気をつけなされ。 死んだ者の浮かばれないオモイが、モンスターに変わって居るからの」 「そうか。 その不死モンスターは、多いのか?」 「悪党のセイで、ずいぶんと増えただよ」 「そうか。 薬効の在る木の実をありがとよ」 「良い薬師のモノに、なかまも、気をつけての」 集落より出て、方角を確かめ元の獣道に戻る。 そして、本日も程よく晴れていた。 間隔の広い木々の森を抜け、また密集した木々と薮の景色へ変わった森の中を歩く。 さりげなく咲く花を蔦の中に見付けたり、五色の長い蛇を見付けたり。 数十匹で群れながら動く、身体の小さい黒いカエルを見付けたりした。 そのゆったり旅の様な長閑さを改めて感じ始めた昼前か。 深い森の中をKとシャンティの案内にて、獣道の様な、草が分かれたり、足で歩き慣らされた部分が何とか道に成った様な所を歩く。 だが、次第にまた少し森の様子が変わって、森はそのままに薮が見えなくなり。 また木の背丈が上がり、枝の下が開ける様に成った頃。 人の気配の様なオーラを森の中に感じるオリヴェッティが。 「ケイさん、人の様なオーラがします」 先頭をシャンティと行くKだが。 「良く自然に紛れて居るな。 まぁ、攻撃して来る気配は無さそうだが…」 「こんな場所に、どうして人がこうも居るのでしょうか、シャンティさん」 周りを見るシャンティで。 「この辺りは、もう原生の大森林ですから。 居るのは、狩りをしたり、薬草を採取する為に移動する狩人とかだと思います。 悪い人達の所為から、人の森の民は此方の森側へ移住していると父から聴きました。 もっと東側の森では、アマゾネスさんと軋轢を産むからだと…」 こう話しながら歩いて居ると、大木の下に大きな岩が地面より剥き出す所にて。 「おいっ、森の民とは思えぬ人間よ。 この辺りに何の用だ」 毛皮のマントに、麻らしい服を着る大柄な老人が声を掛けて来た。 オリヴェッティがその人物へ。 「私達は、冒険者です。 この森の奥に在る地下都市エリンデリンへ向かって居ますっ」 すると、5人ばかりの狩人らしい者が木々の影より現れた。 声を掛けて来た老人に加え、少年少女、年配の男性、若者の男性が現れる。 様子は、何時でも逃げるか、弓を構えられる態度を崩さない。 老人の狩人は、オリヴェッティに少し近付き。 「お前たちは、悪党達の集落を切り抜けて来たのか?」 この会話に、シャンティが入り。 「もう悪党の街は壊滅しました。 私はこの人達に助けられまして、エリンデリンへの案内をしています」 「おぉ、純粋なエルフのオナゴよ。 何と、悪党の街から逃げおうせたのか」 「はい」 「そうか、そうか」 これで警戒が大きく解けた。 お互いに野道にて落ち合って話をすれば。 「なるほど、話は解った。 逃げて来たエルフやエンゼリアの女より話は聴いたが。 本当に、悪党達は壊滅したのか。 それならば、亜種の民、森の民を保護する者ならば、行く手を咎める訳には参らぬな」 「此方の皆さんは、アマゾネスさんの取引を襲った悪党も撃退してくれました。 どうか、静かに行かせてください」 すると、若者となる森の民の方から。 「ほう、その話は朝に聴いた。 それならば、尚のこと引き止めはしないぞ」 ここまでの会話を聴いていた年配の男性は、森の東側を見て。 「だが、夜は気をつけてくれ。 不死モンスターが現れたり、野党と成った者が獲物を狙って動く。 この辺りでも、殺された者がモンスターに成っているからな」 また、若者も。 「それから、集落の民を装う誘いも気を付けろよ。 悪党達に女性が攫われて、民を増やせぬ者が悪党に通じる事も出た。 亜種人の方は信用しても構わないが、怪しい森の人は気を付けろ」 忠告を受けて、この民と別れた後だ。 この辺りの森ではなく、もっと南側に生きる黄色い犀を家畜として、不格好な木造馬車を引く動力にするリザードマンの民に追い付かれた。 道が違ったのは、あの泥溜まりに滑落した者を助けたりした為だが…。 然し、なんとこのリザードマン達は、あのアマゾネスの主催する取引の現場に居た者で。 「おお、お主達よ。 もしかして、悪党のシュウゲキを防いでくれた者か。 何処へ行くノダ?」 話をすると、少し先の分かれ道までウォルターやシャンティを馬車に乗せてくれ。 Kとは様々な世間話に応じてくれる。 アマゾネスとの対話では、姿を現せなかった事を言えば。 リザードマンの父親が笑って理解してくれた。 こんな風に馬車が時に通る様になり。 道として馬車一台ぶんの幅と成った南北の分かれ道にて。 「ワレワレは、ここからホクセイに向かう。 エリンデリンまで乗せられず、悪いな」 オリヴェッティが相手となり。 「怪我も浅く、良かったですね。 道中、お気を付けて」 「気ズかい、感謝だ。 でワ」 見送るオリヴェッティは、待つKへ。 「亜種人の方とは、意外とお付き合いがし易い方々ですね」 「当たり前だ。 自然と共に在りたいと云う意思から、森に暮らしているだけだ。 意思の疎通も出来るし、会話も成り立つ。 人間より優和性が高く、異種人との付き合いにも勉強家だ。 見た目に反し、平和な付き合いがし易いさ」 「なるほど。 この広大な森は、ずっとこのまま続いて欲しいものですね」 「まぁ、人間の全部・・とは難しいが。 多くの者ががそう感じてりゃ、そうなって行くだろうよ」 モンスターに変わらなかったリザードマン達と別れて少し南へ行くと夕方となり。 大木の根と榦の一部に出来た大きな虚(うろ)で一夜を明かす事にする。 この日も皆がする話は、この森の様子が基本となる。 特に亜種人のこと、森の民のことは不思議な感覚として意見が交わされた。 警戒さえ解ければ、とても付き合い易い民ばかりと感じた皆。 そして、倒壊した木造の建物の前にて、焚き火を起こして野宿と成る。 倒壊したのは、悪党が蔓延る様になる前から在った野営施設だったが。 悪党の所為で放置されて、地震の時にでも倒壊したのだろうと思われた。 壁や梁も完全に朽ち落ちて、直す事も難しい有様だった。 一部の材木が焦げているのも、何か有ったと解らせる。 夜中となる頃、火の番をするKで。 本当ならば同じくする予定だったリュリュが横となり鼾を掻く。 だが、何故かオリヴェッティが起きて来た。 「あの、ケイさん」 「何だ?」 倒木を持って来ただけの腰掛けへ座ったオリヴェッティは、とても沈んだ表情で。 「あ、あの、未熟な者となる私の気持ちなのですが…。 学院長様からのご依頼、辛くありませんでしたか?」 悪党とは云え、全員では無いとしても、人を殺害をする依頼だ。 依頼の本筋は救出でも、結果として助け出すには悪党と戦う事が前提となり。 オリヴェッティからすると、とても請けられない依頼となる。 だが、Kは淡々とさえしていて。 「そんな事は、お前が気にするな。 俺の過去は、そんな甘い感傷でどうこう揺らぐモノでも無い。 それに、俺が依頼を断ったとして、後から冒険者協力会を始めとした統合軍団が来ても、大差なく悪党に関しては同じ事に成っただろう。 誰が遣ろうが、誰かが遣らなけりゃ成らん。 最も罪深く、経験者として手馴れた俺が遣るンだ。 それは、それで良い」 すると、寝ているリュリュを見るオリヴェッティは悲しくなる。 「貴方様は、とても器用で賢いのに。 穢れた道を肩代わりするのですね。 私は、それが悲しいです」 「止せ止せ。 それは無駄な苛(さいな)みだ。 それよりも、この冒険に挑む覚悟は決して緩めるなよ」 「は、はい。 それは、決して違わず」 「ん。 さ、早く寝ろ。 寝不足の面をすると、リュリュが煩いぞ」 「・・はい」 大きな木の虚となる根元にて、横に成るオリヴェッティは躊躇った。 この森に住む亜種人や人の民から感謝されると、その感謝に釣り合うだけの凶行をしたKの事を考えてしまう。 最初に頼まれたのは、オリヴェッティとKだが。 直ぐにKが1人でパスカと話し合う。 結局、罪深い者を潰した、罪深い凶行。 それをしたKと、その事から外されて良い部分だけ協力したオリヴェッティ達。 (冒険者の裏側とは、こんなにも重い荷を背負うのですね…。 一族の悲願を背負った私は、まだ軽いモノを背負っているのかしら…。 でも、こんな事ばかりをケイさんに頼って、何が………) アマゾネスや森を移動する民より感謝を受けて、オリヴェッティは悲しくなった。 本当に感謝されるべきは………。 * さて、次の日。 こうして都市に向かう森の中では、最初は獣道だったのが。 獣道が合流すると幅広の良く踏み均されたものに変わってゆく。 亜種人の馬車を偶に見掛ける様に成れば、少し幅の広い街道の様な道へ変わって行く。 その道幅が馬車も余裕ですれ違える広さに成った道を行く時、午前中の事だ。 「あっ! 人間だっ」 「こらっ、ピエールったら。 指差すんじゃないのっ」 馬車でオリヴェッティ達を追い抜くドワーフの子供が、オリヴェッティやビハインツに手を振って来た。 「子供ってのは、種族の関係無いな」 「うふふ、そうですね」 珍しくリュリュを挟んで並ぶビハインツとオリヴェッティは、そんな会話で馬車を見送る。 先頭を歩く皆の後ろでは、貰った衣服を着た上にKのマントを借りたシャンティとルヴィアが並んで歩き。 「そうか。 森の奥のエルフとは、そんな生き方をしているのか」 「はい。 この森の亜種人さんが集まる街では、他の種族と混じって暮らしていますね。 唯一、塔の在る集落だけは、エルフのみの居住しか赦されてません」 「ほう…」 その話す2人から10歩ほど離れて歩く老人2人とK。 「カラスよ」 と、クラウザーが森を見回し。 「ん?」 と、Kも森を見る。 同じく、カバンに乗って浮遊するウォルターも見た。 「この原始的な大森林は、海側から離れてる筈だろう?」 「嗚呼。 かなり、な」 「それなのに何で、こんなに塩気を含んだ風が時折に感じられるんだ?」 流石に、長く海で生きた男。 空気に含まれる塩分に対し、非常に敏感な反応をする。 すると、Kがやや細く笑み。 「流石にクラウザーだな。 この塩分に気付くとはな」 「今日のさっきまで、大して感じなかったが…。 この辺りの何処かに、塩湖でも在るのか?」 「いや。 原因は、その森の中に生えてる赤い幹の木さ」 「あ? この巨木ばかりの木々の中に、そんなの在る・・な」 その幹が赤い木は、さして高さも無い木だった。 中指ほどの太さで、青白い実を着けている。 足を止めたクラウザーが。 「カラス、アレだろ?」 Kも足を止め。 「それだ」 木に近づいたクラウザーは、 「確かに、臭いはコイツだな…って。 カァ~っ、こりゃあ凄い」 クラウザーの言葉に導かれ、鞄から降りたウォルターまで近く。 傍に立つKから。 「その木の幹に、白い粒がいっぱい着いてるだろ? それが、大地の塩分を吸い上げて出してる証さ」 赤い幹の表面には、砂粒の様に白い粒状のものが見えた。 興味を惹かれたウォルターが、その粒を触りつつ。 「と、云う事は…。 この森の大地には、これほどの塩分が含まれる・・と?」 「それが、そ~でもない」 Kの話に、老人2人が振り返った。 「カラス、どうゆう事だ?」 「その植物ってのは、その塩気で害虫から身を守ってるのさ。 実を喰えば解るが、しょっぱい外皮に比べ、中の果肉が非常に甘い」 青白い実を摘む老人2人。 大きめの胡桃ほどの実の表面には、幹と同様に白い粒が葺いている。 軽く指で表面を撫でると、白い塩の粒がハラハラと落ちる。 「見た目、美味そうじゃないが」 「ふむ。 初めて食するな」 赤子の爪の様に柔らかい皮を剥いでみた2人は、フワッと香る甘い匂いに眼を見張る。 「香りは・・悪くないな」 クラウザーの言葉に合わせ、老人2人が果実を食べた。 すると…。 「ほう、やや甘味を濃くしたオレンジ風味の・・梨かのぉ」 そう呟くウォルター。 やや酸味が強いが、果肉の歯触りがシャリシャリと良い。 一方。 美味いと感じたクラウザーは、ガシッガシッと食べて。 「ふむ。 ワシの口には、ちょうど良いな」 と、味わう。 その様子を見たKは。 「だが、どっちも一つにしろよ。 その果実は、食べ過ぎると腹が下る。 普通の大人なら、幾つもガバ喰いしなきゃ成らんが。 おたく等は、老い先短い老人だ。 2・3個でも壊すかもしれん」 半目で、歳の近い仲間を見るクラウザーが。 「ウォルター殿。 だ、そうな」 「ふむ。 まぁ、友が言うならば真実だから仕方ない。 全く、年を取るのは面倒な事よの」 Kの元に戻る2人は、それぞれに口を拭いた。 一緒して歩き出したKから。 「あの木は、この森に生きる生き物の貴重な塩分補給元にも成ってる。 エルフやらドワーフなんかが守っているからな、この辺りに群生してるのさ」 その周りの巨木からすると、“小人”の様な木だと思えたクラウザー。 「ふむ。 然し、こんなに塩分を吸い出すまでは、年月も掛かろうな。 この辺り、大地に塩気は少なそうだし」 「御明察だ。 今の木の高さまで成長するのに、根っ子を地上の木に比べると数倍深く張る。 そして、あの大きさまで育つのに、ざっと早くて2・30年は掛かるらしい」 Kの説明に、ウォルターが感心した。 「ほっ、我が友の知識は、底を知らぬ」 2人の老人がKに感心した時。 苔むす巨木の木の根が高く隆起し。 人の手も届かないからと、赤と青に色別れした番の鳥が揃って止まり。 Kに近付くルヴィアを見ていた。 「ケイ。 聞きたい事が在るのだが」 「なんだ?」 「少し前に助太刀したアマゾネスの事なんだが…」 「へっ。 女傑の王国に興味が出たか? アマゾネスみたいな性格してるものな」 Kの茶化しに、半目のルヴィアが。 「そうじゃない。 だが、不思議で為らないんだ」 Kの左右に居る老人2人が、Kとルヴィアを見つめた。 オリヴェッティ達の方に向かう背中は、エルフのシャンティのもの。 それを見るルヴィアは、湧いた疑問をK問う。 「ケイ。 アマゾネスとて、その身は人間であろう? 産む子供の性別を決めるなど、不可能だと思うが…」 ルヴィアの質問の半分を聞いて、Kは軽い頷きをする。 「その辺の事か」 「あぁ」 此方を見送る番の鳥を見たKは、男女の中も色々と思いながら。 「無論、誰だろうと完璧な産み分けなど無理だ。 が、アマゾネスの習慣の中で、それは通用しない」 厳しい掟の中で生きてると感じたルヴィア。 「では、男の子を産んだら、どうなる?」 その問い掛けに対してKの語る話は…、質問したルヴィアにしても、老人2人にしても衝撃的な内容だった。 とても褒められた習慣では無い、そう言うモノである。 基本的に、アマゾネスに人間の様な自由となる恋愛模様や夫婦関係は無い。 適齢となったアマゾネスは、奴隷とされた男を選んで一方的に交わり。 子供が出来るまで性交を繰り返すのだそうな。 その男も、何人もの女性と交わる為、次第と痩せ細って短命となる。 処が、これが女王となると変わる。 女王だけは、特定の好いた男を独占して夫とする。 但し、この男性に何の権限も無く、女王の元から離れる事は出来ないらしく。 その存在は、他の捕まった男性と同じとなる。 また、何人も子供が出来て後継者が増えると、女王の気持ち1つで他の男と同じ所へ落とされる事も珍しく無いらしい。 また、ルヴィアの質問に関わるが。 このアマゾネスの集落で産まれた男児は、全て独特の遣り取りでこの森の外へ出されるらしい。 血の濃い者が出来ない様にと、養子に出されるのだとか。 ま、この言い方は良く言った方・・としておく。 他の森の民や亜種人に比べても、文化的に独特なモノとなるのがアマゾネス達だ。 この話の後、Kは休憩の時に皆へ言う。 「今夜から明日は、雨が降り続くだろう。 止むのは、早くとも夕方以降。 風邪をひかない様に、なるべく濡れない様にしてくれ」 オリヴェッティも。 「遠くから水の気配が迫ります。 確かに、雨は確実でしょう。 明日は、雨具の旅になりますわね」 「シャンティの雨具は、俺のを貸す」 驚くシャンティで。 「あ、ケイさんはどうするのですか?」 「俺は、自然のモノを借りるさ」 寝泊まりの出来そうな処を探して行くと、木造の真四角となる建物が道端の一角に。 昨日も似た建物が倒壊していた所で野営したが。 シャンティの話では、こうした野営所が前はいっぱい有ったと聴いたとか。 だが、悪党が増えて襲撃される様に成ると、こうした建物は争いの最中で壊され。 直される事も無く放置されたと父親から聴いたと云う。 街道側の壁が無い建物の中へ入れば、1階に大きな囲炉裏となる場所が石の椅子代わりとなるモノに囲まれて在る。 然し、雑魚寝の出来そうな床の間は壊れて腐っていた。 「雨風をしのげる下は、このままでも利用が出来そうだ。 雨が降るからな、今日はコイツを利用するか」 雨と予想され、夕方までまだ少しと云う頃合でも此処で休むと決まった。 クラウザーやビハインツは、灰を掻き出して燃やせる様にする。 枯葉や枯れ草を集めるのにウォルターも手伝う。 Kは、ギシギシと軋む階段で2階に上がると道側の壁が吹き抜けとなっているのを見てから、 「2階も床板が腐ってやがるな。 リュリュ以外だと、踏み抜くぞ」 と、オリヴェッティと話すが。 「お姉さぁん。 水溜まりが在るよぉ」 外からリュリュの声がした。 「水溜まり?」 首を傾げるオリヴェッティへ、Kが。 「飲水の為のため池じゃないか?」 「あ、嗚呼。 ちょっと見て来ます」 下に降りるオリヴェッティが下から2段目の階段の板を割る。 「きゃ!」 「おいおい、食い過ぎか」 「まぁっ、そんな言い方がありますか?」 珍しくオリヴェッティが不満を口にする。 薄笑いしたKで、2階をまた眺めると。 (こりゃ、ホントに誰も寝れねぇな。 どうするか) カビて緑の黒っぽく朽ちた床板を眺める。 1階に降りたオリヴェッティは、外に出てリュリュの元へ。 石を丸く組んだ井戸を見つけて。 「あら、井戸だわ」 水を汲みたかったが、木造の滑車が壊れて使えない。 (はぁ、コレも悪い方の所為ですか?) 陽射しが斜めとなり始め、陽射しが木々に遮られて来る時か。 道の反対で枯れ木を拾って来たルヴィアとシャンティが薮から出て来るまで、明かりの魔法を指輪に宿して照らして居たウォルターが。 「ん? 向こうから人の気配か」 と、自分達が来た方向の道を見る。 出て来たルヴィアが、 「ウォルター殿、どうしましたか?」 と、同じく道を見ると。 「人か? 荷馬車らしいな」 誰か来ると思ったシャンティは、オリヴェッティの方に。 「オリヴェッティさん」 井戸の水を魔法で浮きあげたオリヴェッティが、飲めるかどうか確認しようとする所で。 「あら、シャンティさん。 どうしましたか?」 「はい、向こうから誰か来ます。 また、不審に思われますかね」 苦笑いしたオリヴェッティで。 「私達は、この森の者ではありませんから。 そう思われるかも知れませんわ」 シャンティとオリヴェッティが道に向かうと、枯れ木を道端に置いたルヴィアが居て。 「オリヴェッティよ、馬車が来る」 通りの傍で立っていると、サハギンと呼ばれる魚人達が荷馬車2台を引き連れて通り掛かる。 「ニンゲェンよ。 こんなトコロで、どうしたのだァ」 シャンティを伴い、サハギン達と話をする。 相手は、家族・親戚で農家や漁業をすると云うサハギン達。 6人の集まりで、3人が歳が違うも子供だ。 「ソウーカ、此処にトマルのか。 アクトウが減ったなら、それもヨイか」 サハギンの話では、この建物は朽ちるまで寧ろ悪党が利用していたらしい。 悪党達が旅人を装って態と泊まって旅人を誘い込む様な事をしていたとか。 暮れるまで話すオリヴェッティやルヴィアだが。 「ケイさんっ、大きさが合わないよぉー」 「少し大き目に切って在るンだ。 そのまま斜めに入れとけっ」 「はぁいっ」 リュリュとKの声がして。 クラウザーやビハインツの声もしている。 何をするのかとオリヴェッティが向かい。 建物の下から2階の吹き抜けた壁側より。 「ケイさんっ、どう為さるのですかっ?」 2階から顔を見せるKより。 「裏手の森に、手頃な太さの倒木が有った。 中が腐って無いから、床板と階段ぐらいなら直せる。 今夜は、此処に泊まるンだろ? 補修だ」 「はぁ? 大工でもありませんのに?」 「適当な補修なんぞ、誰でも覚えれば出来るぞ」 薄暗くなるのに、ランタンの明かりで視界を確保して床板をベリベリと剥がして遊ぶリュリュ。 2階を支える梁が見えると、蹴って外すKだが。 短剣で切り出した倒木を柱に切り、少し削りながら梁に変える。 また、剥がした床板や梁、階段の腐った板を使って火起こしをするクラウザーやビハインツ。 この様子を見ていたサハギン達は、 「おおっ、凄いではナイカ。 手伝おう、手伝おう」 と、手を貸して来た。 男性らしく、背の高いサハギンと、少年だが元気なサハギンが手を貸して来た。 身体のフォルムが女性らしい大人のサハギン2人は、此方をかなり警戒して来る。 だが、子供のサハギン2人は、シャンティと話し合い、リュリュとも仲良く話し合う。 床を直す。 梁さえ戻れば、床板は大き目に切って填めれば良い。 平たく、四角に切るKの指示で、リュリュやビハインツがサハギンと協力して床板を置けば、直ぐに頑丈なだけの床が出来た。 今夜は、このボロ小屋でサハギンの一族と一緒に夜営となる。 魚の干物を持つサハギンと食事をすると、最近の事が詳しく聴けた。 悪党から狙われたのは、サハギン達も同じ。 奴隷だったり、川の魚を獲る事などに使役され。 時に、集落は強盗から襲われたとか。 酷い話だが、人間だけでは無く。 割合はとても少ないが、亜種人の者も悪党に堕ちたと云う。 集落の位置や内情を探り、その情報を悪党達へ売り渡したり、騙す手先となって居たり。 その絡み合う模様は、憎み合う人と変わらなかった。 また、女性を奪われて散り散りとなった森の民の一部は、アマゾネスの集落に入り込んで自ら進んで奴隷に成った者も居たとか。 気に入られさえすれば、自由は無くとも女性と交われる。 食事も与えられる訳で、楽な生き方と考えたのだろう。 今、アマゾネスでも悪党に攫われていたので、数を維持する為にアマゾネスも子作りに励んでいるとかで。 悪党の影響が随分と広く及んでいると知れた。 さて、話し込む事どれくらいか。 ふと、水の力を辺りに感じたオリヴェッティで。 「雨は、もう直ぐですね」 夜が耽るに従い、オリヴェッティが言う。 建物の通り側に壁は無い。 水の精霊と通じ合えるサハギン達も同じく。 「アメは近い。 アシタは、ずっとアメだ」 1階の左右の雑魚寝が出来る場所の床板も填め変えたKで。 「下で寝るか」 サハギンは、下に引く葉っぱの寝床を持ち込み。 「コドモは、ニカイに上げてくれ。 ワレワレは、イッカイでもヨイ」 もしかすると、襲撃が在るかもしれないとの話だ。 寝る用意をすると、雨が降り出した。 小雨の模様だが、直ぐに止む気配は無い。 オリヴェッティ達が交代で火の番をすれば、サハギン達も大人が交代で番に加わった。 雨音に混じり、小声の話は続いた。 悪党の街が壊滅したことは、サハギンの民も喜ばしいと褒めてくれる。 その喜ぶ様子を見て、オリヴェッティは心が痛く成った。 大人の女性の2人は、子供を連れて今の夫へ嫁いだとか。 サハギンの男は腕力が有り、嗅覚に優れる為に奴隷として働かされたとか。 生活力の高い男性へは、何人でも妻を娶れる習慣とか。 なかなかどうして、人間とも近い事情も混じる亜種人の生活。 話を聴くだけでも、興味深いと話は尽きなかった。 そして、次の日だ。 濡れても構わないサハギン達は、早朝に起きて。 「このヒモノ、食べてくれ。 ワレワレは、直ぐ先のワカレミチから集落に向かえる。 オマエタチは、長旅だろう?」 助け合い、分け与え合う事を知る亜種人達は、何とも快い者が居る。 彼の奥さんとなる2人サハギンは、何処かずっと警戒していたが。 子供達はとても、とても仲良くしてくれた。 雨の中で道端に出てまで見送るオリヴェッティは、隣の仲間に。 「あの方々の子供達に、私たち人を嫌いにさせたくありませんわ」 「ホントだ」 と、ビハインツ。 「どうしたものか、な」 クラウザーも複雑な心境となる。 貰った干物の味がとても良く、海の男としてサハギンの民を嫌いには成れない。 小雨が朝になると少し本降り加減となる。 シャンティに雨具を貸したKは、薄暗い緑色の大きな植物の葉っぱを器用に傘として。 彼の雨避けをシャンティが着て旅立つ事にする。 処が、旅立とうとする時。 エルフやドワーフの行商人達が来た。 外見はボロだが、中身は改装された野営所を見てくると。 「おーい、この宿で泊まったのかっ?」 声掛けられた一同で。 オリヴェッティが立ち会い、徒手空拳ながら簡単な補修をしたと言うと。 「助かった、助かった。 ならば、代わりに我々が休ませて貰う。 旅立つ前だろうが、何か困った事はないか?」 こう言われ、やはり少なくなる食糧の事を言えば、野菜を炙って乾燥させた食料を分けて貰えた。 また、シャンティにピッタリ合う靴をくれた。 雨の中、道を歩き始めると。 雨具のルヴィアがKに並び。 「のぉ、ケイ」 「ん?」 「亜種人とは、どうしてこうも快い者が居るのだ?」 「それは、俺たちの内面が汚れてるからかもな。 助け合い、分け合う事で支え合う事を知れば、こうして快い関係を作れる。 同じ人間でなければ区別と云う差別意識を持ち。 また、同じ人間の中でも勝手に上下関係を決める傾向が在る俺たちだ。 そうして見る角度を時に勝手な判断で変えては、何でも奪う事を先に考える者が居る俺たち人間は、こうした人種とは軋轢を産むからな。 この事に疑問に思う事、その考えこそ大きな違いかもな」 「そうか………」 「まぁ、時と共に人と亜種人の関係は変わるからな。 コレがずっと続くかは解らん」 「例えば、どう変わるのだ?」 「解り易い処だと。 超魔法時代は、魔法の力で栄華を極めた為に、人が殆ど街に集まり。 自然は放置され気味となって、こうした場所は人の入り込みが殆ど無くなった。 だが、何時か、それはまだハッキリとしないが。 超魔法時代が崩壊して、当時の人の数は世界でも半減したと言われ」 「半減っ?」 「人の集まっていた都市が壊滅したんだ。 それぐらいの数には成るさ。 だが、今に向けて人が増える事となり。 世界にまた、人が広く行き交う様に成った。 この先、このまま行けば、また関係性が変わるのだろう。 その変化をどうするのか、最も数の多い人間の行動次第だろうよ」 とても難しい話に、オリヴェッティ達は黙ってしまった。 人が増えて、その住む場所が少なくなれば、自然を壊して土地を増やすのは人間の歴史だ。 この大自然を残せるのか、人間が手を付けずにこのまま在る事は続くのか。 シャンティも一緒になり、黙って歩く事に成る。 そして、昼前。 何かの所為で、道端の木の枝が大きく垂れ下がって来て居る。 「カラス、こりゃ何だ」 「さぁ、な。 鳥の群れが止まって枝が撓ったか。 病気とか何だかんだ、こうなる事は在る。 何か生き物が雨宿りしているかもな」 この木の垂れる道の逆の片側は、壁の様な巨木が育って居る。 奇妙な樹木で、バカでかい切り株の様に育つブナの1つとか。 だが、1つ1つの木の間隔は、とても、とっても離れていて。 この木の周りには、様々な種の低い木々が薮の様に密集して生える。 雪を被って撓う木々の枝の様だが、ビハインツが困り。 「邪魔だ」 リュリュも。 「どうするのぉ。 何か居るしぃ」 確かに、垂れ下がる木の枝の中には、生命のオーラが大きく紛れている。 それも理解したKは、道の片側に向かい。 「別に、避けて通ればいいだけだ。 さして長い先まで垂れている訳じゃない」 斬ってしまえば簡単だろうが。 別に傷付ける必要も無いと、避けて通る。 ビハインツやクラウザーは大柄なので、濡れた枝に掛かって顔から髪が濡れた。 通る過程で解ったが。 大きなタレ目模様の芋虫が、枝の葉をモシャモシャと食べて居る。 「わっ、芋虫だ」 ビハインツが驚くも、匂いで解って居たKだ。 「蝶の幼虫だ。 攻撃しなければ、無害だぞ」 「大きいな」 「まぁ、蝶の……」 オリヴェッティやルヴィアも、自身の6割ぐらいとなる芋虫は警戒する。 雨なのに、モシャモシャと歯を齧って居る芋虫で。 独特な模様は、眺めて見ると面白かった。 何度か雨宿りの休憩をして、夕暮れとなる頃。 雨はかなり弱く成るも、森の中の暗さは夜だ。 今夜を過ごす為の夜営する場所を探して、太い枝が突き出した大きな木の下を選んだ後の夜だ。 「ふぅ、雨が止んで良かった、良かった」 大きな木の下で野営となる中、火の番をするクラウザーが空を見る。 然し、見えるのは、ほぼ葉っぱで。 星も、空も良くは見えない。 濡れた葉から時々、ポツリポツリと雨粒が落ちる。 同じく番として起きているルヴィアで、少しヒンヤリと涼しさを感じるからか。 「クラウザー殿。 昼間は少し濡れていた、風邪などひかれるな」 「ふ、そこまでヤワでは無いよ」 横に大きく育つ大木の低い枝では、オリヴェッティやシャンティが寝袋を横に緩やかめに吊って寝ている。 Kとリュリュは、大木の中程の枝で寝ている。 その時は、真夜中へと迫る頃合いと成ろうが。 地面にて、簡単な土台の上に生地の厚い寝袋を遣って寝るウォルターが何故か、スゥーっと眼を開く。 「クラウザー殿、ルヴィア」 声を発した彼。 先に、ルヴィアより。 「眠れませんか?」 「いや、お2人の向こうの茂みに、人の気配がして居る。 先程は少し遠くに居たが、そっと近付いて来たぞ」 その時、クラウザーの後ろにKが現れた。 「殺気は無い。 だが、様子が変だ」 立ち上がるルヴィアで。 「誰だ? 私達は冒険者だ。 地下都市エリンデリンに行くだけだ。 何の悪さもしないぞ」 すると、ガサガサと音がする。 そして、濡れた紫陽花の仲間となる低木の影より白い肌と思える何者かが顔の一部を見せて。 「あ、あの…。 たべ、もの・・有りますか」 震えてか細い声は、少女のモノと解る。 面倒が来たと思うKで。 「仕方ない、オリヴェッティを起こすか」 声のする其方を見るルヴィアは、 「私は女だ、怖がる必要もない。 保存食や乾燥したパンしかないが。 空腹ならば此方に来るがよい」 と、席の代わりとなる倒木の場所を示した。 すると、紫陽花の種となる植物より姿を表したのは、人よりとても白い肌をした裸の少女と。 青い肌をした裸の子供の少女だ。 「なっ、今日は雨だったハズ。 何故に裸で? あぁっ、髪がずぶ濡れではないかっ。 さ、早く火に当たるが良い。 早く、身体を悪くするぞ」 驚くルヴィアが迎えに行く。 ガタガタと震えている少女の2人。 シャンティより少し年下と見える少女は、とても白い肌をして、耳が尖るも、エルフのシャンティとは少し変わった容姿だ。 2人の目は、警戒と恐怖が窺える。 Kに起こされたオリヴェッティで。 「あ、どう・しました?」 オリヴェッティが起きて地面に降りると。 「裸の少女2人が迷って来た」 「は、はぁ? この雨だった今日ですよ?」 「理由は、まだ解らん」 アタフタと縺れる足取りのままにオリヴェッティが来る。 ルヴィア、クラウザーのマントを巻く少女を見るオリヴェッティは、 「どっ、どうされたのっ? あ、あぁっ、身体も傷が・・裸足でっ、まぁ!」 と、その様子の全てに驚いて少女2人の面倒を看る。 干し肉を炙るルヴィアで。 「空腹の様だ。 とにかく、何か食べさせよう」 「パンっ、乾燥パンを・・」 面倒を看る2人を他所に、ウォルターとクラウザーがKの脇に来て。 「カラス。 あれは何方も亜種人の少女だな」 クラウザーが問えば。 「背の高い年上の少女は、見た所からして天使種族エンゼリアだ。 幼い子供の少女は、あの青い肌や頭部に生える短い角からシュワイェットだろう」 「〘シュワイェット〙?」 そこに、ウォルターが入り。 「何と、初めて目にする。 “精霊鬼”と呼ばれる亜種の民か。 深い森でしか生きられぬ少数の民と聴いたの」 頷くK。 「シュワイェットは、大自然となる精霊の力が満ち溢れた場所で無ければ長生きが出来ない。 モンスターでは無いが、亜種人の中でもエレメンタルとも呼ばれるが。 自然の力となる精霊力のオーラを吸収して生命オーラにする為。 こうした森から離れると10年と命がもたない」 「な、何と短命な」 驚くウォルター。 「んん、どうして裸で…」 考え込むクラウザー。 甲斐甲斐しく世話を始めたオリヴェッティは、青い肌の少女にも話し掛ける。 然し、何も返事が無いので心配した。 そんなオリヴェッティを見ていたKが。 「青い肌の子供は、シュワイェット種族だ。 人の言語は解らず、古代魔法語の基礎となった古代言語を話す」 と、誰も聴いた事の無い話し方をすると。 「アナタは、ハナセる?」 硬い歯応えとなる乾燥パンを食べる手を止めた青い肌の少女が、Kに向かって言葉に成らぬ歌の様に聴こえる声を出した。 すると、エンゼリアの少女がびっくりし。 「あ、初めて声を出した」 Kと青い肌の少女の話が終わると。 「この子供の名前は、リルマと云うらしい。 母親がモンスターに殺され、逃げている所を売り物として悪党に攫われたと」 すると、エンゼリアの少女より。 「私もっ、森の中で父と薬草の採取に出て、不死モンスターに襲われてはぐれた後。 悪い人達に捕まりました。 その時、もうこの子が居たの。 私は、ミカーナと云います」 この天使種族の少女ミカーナとは話が通じると解ったオリヴェッティで。 「逃げて来たの?」 「はい。 3日くらい前に、私は捕まりまして。 その夜に、他の何処かから逃げて来た悪い人が合流して来て。 私やあの子を売って、他の国へ逃げるお金を作るって言ってたの。 でも、夜にモンスターに襲われて、ゾンビやゴーストを私達に倒せって。 そしたら、木の上に居たゾンビみたいなモンスターが悪い人を襲って、その時に隙をみて逃げたの」 「あぁ…、何て事でしょう。 拐かされたのですね?」 2人の背中を摩るオリヴェッティで。 「とにかく、落ち着くまで食べて。 まだ食べ物は有りますから」 「あ、ありがとう。 ありがとうございます」 少し落ち着いたエンゼリアの少女ミカーナが頭を下げる。 心が安らいだのか、自然と涙を流すも。 その顔には殴られたらしい痣が大きく見えた。 その仕草を見て、シュワイェットの子供リルマも真似て来た。 この2人も助けたいと、懇願される様な眼のオリヴェッティから見られたKで。 「そんな眼をするな。 助けるンだろ?」 「はい、この2人も助けて下さい」 「エリンデリンに向かえば、その手段も解るだろうさ」 薄い味のスープを口にするエンゼリアの少女ミカーナが。 「ん、ん…。 あの、私の両親は、恐らくエリンデリンに居ます。 連れて行って貰えるならば、道案内は出来ます」 2人を保護した形で、起きて来たシャンティもシュワイェットの子供を見て驚いた。 「わぁ〜、シュワイェットの子供…。 子供は、初めて見たわ」 ルヴィアは、そう云うシャンティに少し驚いて。 「この森で生きる其方でも、この少女の様な者を見る事は珍しいのか?」 「はい。 シュワイェットは、森の中で自然と共に生きてます。 食事も普通に出来るとは聴きましたが、基本的に果実や植物をサラダの様に食べるとか。 父は、何度か会ったと聴いていましたが。 私は、街以外では初めて会いました」 「そ、そうか。 とても希少な種族と云う訳だな?」 「はい。 然も、シュワイェット種族は、女性しか生まれないそうで。 男性は居ないと聞きます」 シャンティの話を聴くウォルターより。 「友よ、真か?」 「らしいな。 シュワイェット種族は、人間の男のみを相手に子孫を残せるらしい」 「ほう」 「だが、それは母体となる女が一定の身体に成るまで成長しての事で。 少女の時に子を宿すと、その子供に力を取られて母子共に死んでしまうらしい」 「それは、大変ではないか」 「また、子供を宿すと、母親は動けなく成るほどに眠る数日を繰り返すらしく。 父親となる男は、その間に面倒をみなければ成らないとも」 「では、父親も居ると?」 「いや、どうだかな。 子を産んだ母親は、自然の中への生活に還る。 そうしなければ、生きて居れないらしい。 だから母親となる女は、同じ種族の女性を頼ったり。 亜種人の知り合いを世話役に雇って子作りをする事も在ると聞いた」 「ふむ。 複雑な経緯を辿る訳か」 「そうらしい」 「では、あの子供も、10年ほど経てば大人となる訳か」 「いやいや、育つ時の流れは、俺達と云う人間とは大きく違う。 成熟した女性に成るまで、50年ほど掛かるとか」 「ほう、それは長いのぉ」 「だが、子供を産んだが最後。 余命は10年ほどに成るらしい」 「ん、・・それは何とも…」 少女2人にマントや着替えを与えるルヴィアやオリヴェッティは、Kの手を借りて2人の傷の治療もする。 特にエンゼリアのミカーナは、殴られたりしたのか。 白い肌の顔や太腿に痣を作り、口の中を切ったりしていて。 暴行されたのは間違いなかった。 マントを身体に巻いたシュワイェットの少女は、Kの方を向いて何かを言った。 応えたKだが、直ぐに動く。 クラウザーは、その何処かへ行こうとするKへ。 「カラスよ。 どうした?」 「“好きなだけ食べて良いのか”、だとよ。 チッ、リュリュが2人に増えたゼ」 そこに、リュリュが見回りから戻り。 「ケイさぁん。 怪しい人は居なそうだよ」 「おう、リュリュ。 果物か何かを取りに行くぞ」 「わっ。 僕も食べるぅぅ」 「だからっ、行くンだよ」 食べ物を探しにKとリュリュが闇夜に消えて。 この酷い痣だの怪我はどうしたのかと、もう少し詳しい経緯をエンゼリアの少女ミカーナに聴けば。 何処かから合流した悪党の男達はかなり苛立っていて、ミカーナとリルマを売る前に裸にして乱暴を働こうとしたらしい。 まだ10歳に満たない子供のリルマも弄ぶと聴いたミカーナが、リルマは幼い子供だと言って庇おうとした。 かなり苛立っていた男達の怒りを買って、彼女は服を裂かれながら激しく叩かれたり、蹴られたりした。 その時に突如、モンスターが襲って来たとか。 話を聴いたルヴィアが、幼い子供までを相手にするとはと怒りにうち震え。 「己ぇ、男と云うものはぁぁっ」 起きているウォルターとクラウザーは、近くに居るのが気まずいと苦笑い。 少し遠い場所で、グーガー鼾を掻くビハインツが羨ましかった。 少しして、Kとリュリュが黒っぽい果物を持って来た。 大きな柑橘系の果物の様な物で、外側の厚めとなる皮を剥ぐとそれなりの甘酸っぱい匂いがする。 「あー、あーっ」 香りで欲しがり始めるシュワイェットの子供リルマだ。 1つ食べ。 2つ食べては、一緒に成って食べるミカーナがお腹いっぱいと成るも。 「あー、あーっ」 まだ欲しがるリルマ。 見ていて驚くK。 自身が少食な上に、相手は10歳に満たない子供の少女。 1つか2つで十分と思っていたので、3つ目を渡しながら。 「おい、コレで3つ目だぞ」 なのに、4つ、5つと食べたリルマ。 それ以上に食べるリュリュが。 「わっ、元気な子供だねっ。 僕もまっけないぞー」 と、11個目に手を伸ばす。 “ゴン” Kの一撃がリュリュに入る。 「痛ぁぃっ!」 「明日の朝にしろっ」 「え"え"っ」 「1人で10個も食ってンじゃねぇよっ」 叱られたリュリュは、逃げてオリヴェッティにベッタリとなる。 だが、少女達の傍に居るルヴィアより。 「のぉ、ケイ」 「何だ?」 「靴は如何したら良いか? この2人は、我々の替えでは大き過ぎるぞ」 すると、呆れた顔のKで在り。 「そんなモン、適当にその辺の物で作りゃイイだろうがよ」 「ど、どうやって作るのだっ」 「全く、頭の回らねぇ女が…」 その辺より蔦や木の皮や草を持って来るKは、木の皮を炙って水分を抜いたり。 蔦を編んで紐を作る。 大きく丈夫な葉っぱを皮で軽く包む様にし。 木の柔らかい皮を靴底の代わりとして、それを蔦の紐で外れない様に留める。 「うわぁっ、スゴォイ」 喜ぶエンゼリアの少女ミカーナで。 「あ、あぁ〜、う〜」 コレなら歩けるとニコニコするシュワイェットの少女リルマ。 怪我して痛みも有るから覚束無い足取りだが。 Kに近寄ってニコニコする。 「明日からその草だけ取り替えれば、幾らでも取り替えが利く」 頷いたり、ニコニコするリルマがKに馴れたらしい。 何か話し掛けて、頷くK。 「おう、良かったな」 昼間に逃げ疲れ、何処かで寝ていたと言うミカーナとリルマは、遅くまで起きてオリヴェッティやルヴィアやリュリュと一緒に居た。 そして、明け方だ。 2人の少女がリュリュと休む中で、ずっと寝ていたビハインツが起きる。 ぐっすり寝ていた彼へ、1人で起きていて眠い眼をするルヴィアより。 「随分と遅いご起床だな」 「へ? あ・・俺は朝方からの番じゃぁ…」 「ふん。 なら、此処からは1人で頑張って貰おうか」 「あ、オリヴェッティは?」 「知らん!」 ルヴィアが怒っていて、怖いビハインツは縮こまった。 で、火の前で大きな榦の折れた所を魔法で斬ったのか。 平にされた所でリュリュが女の子2人とマントや布を敷いて寝ている。 「こ、この子達は・・誰だ?」 「くだ・もの・・いっぱい・・・おっぱい…」 訳の分からない寝言をするリュリュで。 「解らん、俺には何も解らない…」 デカい図体をちょこんと座らせ、Kが起きるまで1人で番をしていた。 * 地下都市エリンデリンに向かう旅は、すんなりお気楽とは行かなかった。 この数日だけでも、新たにミカーナとリルマと云う少女を助けて送る為に加える事に成ったのに…。 想定を超えて日にちを要する長旅となった。 さて、2人の少女を助けて、朝も少し遅くまで休む。 起きて歩くも、怪我した2人のお陰で進みは遅い。 仲間達で背負いながらの旅となり。 また、リルマとリュリュの食べ物を探すことも手間となった。 リルマの食べっぷりに驚くのは、誰よりもKだ。 何でもパクパクと食べる様子には、彼でもげんなりする程になり。 「本当にリュリュが2人だ」 困ったオリヴェッティは、助けると決めたので度々に謝った。 少女2人を仲間の様に共にしてより2日目。 亜種人の少女を3人連れての旅だが。 午前も陽射しが木々の間から覗ける様に成るまで、ビハインツに背負われるミカーナとシャンティやルヴィアが喋りながら歩くのも、素直にリュリュやクラウザーに背負われるリルマが大人しく順調だった。 道は踏み慣らされ、もう雑草も生えない。 馬車も余裕ですれ違える。 迷う事は無かったが、この間に何度も亜種人の行商人とすれ違い。 中には、あのアマゾネスの襲撃時に居合わせた者も居て、少しばかり馬車に乗せて貰えたりもした。 そして、また、こんな事も……。 広い道が伸びる森の中で。 その途中にて大木が倒れていた。 良く晴れた日で、木陰でも少し暖かい。 この今に歩く道は、通りがかった亜種人から教わった近道だ。 先に来て困って居るのは、別の集落から来たリザードマンや植物の色をした肌に葉を頭から生やすノッポな種族の〘リーファ・カエロ〙達。 ミカーナを背負うルヴィアが大木を見て、何とも難しい顔となる。 「大きな木だ。 一昨日の雨が原因か?」 その立ち往生する様子に、Kがゲンナリ。 「何が近道だ。 大木が横たわってるじゃねぇーか」 すると、クラウザーにリルマを預けるリュリュが元気に前へ出て。 「切っちゃえばイイじゃん。 かぁーぜよぉ!」 リュリュが疾風の刃を生み出して道の幅で倒木を輪切りにし、Kが邪魔に成らない様に森へ蹴っ飛ばす。 亜種人達は、その様子に歓喜し。 「おぉっ、素晴らしい力だ」 「道が繋がったぞ。 行こう行こう」 「先へ急ごう」 「早く、集落へ戻ろう」 感謝されたり、各々が近場の集落へ戻るからと、少しばかりだが食料を貰ったりして。 道が出来たと先へ進む。 この時から、また森の雰囲気が変わる。 地面には、緑色から蒼い苔が辺り一面に生える様になり。 ビハインツの腕から太腿ぐらいの木が傘の様に枝を広く伸ばし。 その樹冠となる辺りには、薄緑から黄緑色の小さな花を咲かせて居た。 花の香りもして、とても美しい森の中と成る。 処が、昼を過ぎて不可思議な南西の風が森に吹き始めると…。 「あ、こりゃヤバいな」 Kが呟いた。 一般的な馬車が2台ほど並べる様に広がった道の上で、何事かと立ち止まるクラウザー。 「カラス、何か危険か?」 辺りを見て回すKだが。 「いや、モンスターが襲って来る訳じゃない。 だが、不死モンスターも現れられる様に成るぞ」 「なんだと?」 コレに合わせ、リルマを背負いながら歩くオリヴェッティが。 「あ、どうしてでしょうか。 辺りに水の力が満ちてきています」 先頭を歩くKは、空の雲を眺め。 「これから次第に霧が出る。 夕方までは濃くなるからな。 足元から周りに気を配れよ」 すると、次第に森の中で靄が現れ始めた。 木々の枝の間を抜けて見えた向こうが、白い靄で見え難くなる。 「霧が出始めたな」 クラウザーが独り言を口にすると。 「靄ぐらいでしょう」 ルヴィアが返す様に言う。 この時、またビハインツの背中に背負われるミカーナが。 「あ、もしかして、“霧降幻影の行螢”(むこうげんえいのぎょうけい)かも!」 彼女の発言に、シャンティも何かに気付いて。 「あぁっ、コレが“霧降幻影”…」 交代で、今はリルマを背負うオリヴェッティが2人と並び。 「それは、何ですか?」 ミカーナが、周りを見ながら。 「この森の中央北部となるこの辺りは、とても湿気の多い土と伸びる枝の幅の広い木々ばかりが生えます」 「この景色、そのままですね?」 「はい。 で、此処だけに棲む固有の螢が土中に居るんです。 見た目は、カブトムシみたいなんですけど…」 ルヴィアは、周りを見て濃くなる霧に変わる中。 「この霧は、その螢の所為だと?」 「はい。 昼下がりから夕方までに雄雌が交尾を行う時。 鳥や他の動物や虫から狙われない様にする為に、一斉に水分を噴霧して霧を生み出すとか」 霧を見るウォルターが。 「友よ、虫が霧を作るのか?」 「そうだ。 この緑色の苔むした大地と森は、この一帯で広く在るが。 広大な森の中では、最も低い土地となる。 季節として今時期に吹く湿気の多い南東から南西より風が吹き込む時に、螢達は一斉に湿気を噴霧して森に濃霧を生み出すそうだ。 ほれ、耳を澄ませ」 みんな黙ると、モソモソ……サワサワ……と音が木霊して来る。 「何か、動いて居るぞ」 ミカーナを背負うビハインツが周りを見る。 オリヴェッティも、ウォルターも、周りに生き物の気配を無数に感じて。 「嗚呼、小さい生き物が森の中を……」 「ふむ、なるほどの。 確かに、虫か、ナニかが蠢き始めた」 次第に濃くなる霧の中でも、歩くKは道から外れる事も無く。 「道から外れなければ、螢を踏む事はあまり無い。 サッサと先へ進むぞ。 色々と道草を食ってるからな。 このまま立ち止まったりしていいたんじゃ、エリンデリンへ行くのに10日以上も掛かるぞ」 だが、螢が動いて居るとなれば、リュリュは見てみたいと探し。 「わっ、デッカい」 リュリュの手で鷲掴みする程に大きな身体の螢は、確かに見た目が4本角のカブトムシに近い。 だが、身体の腹に縦筋で発光する部分が在り。 次第に、霧の中でも彼処此方で淡い蒼や緑の光が見えてくる。 「あ〜〜、あーっ」 リルマが欲しがり、リュリュが手渡す。 喜ぶリルマは、大きな螢を珍しそうに見てから、姿が気に入らなかったらしくポイと捨てた。 濃霧が咽ぶ様な体感を受ける中。 螢の放つ淡い光が木々や地面の所々で光る。 それが幻想的と感じるルヴィアは、女性らしくうっとりとして。 「ほう、コレは確かに美しい」 辺りを観察するウォルターも。 「ふむふむ、味わい深い仄かな発光よ」 この森に住むミカーナやシャンティも、この様子は初めて見たと。 「なんかキレイですねぇ」 「はい。 幻想的ですぅ」 Kの後を行くリュリュは、オリヴェッティからリルマを譲り受けて背負う。 リュリュの服の裾を掴みながら周りをキョロキョロと幻想的な光を目で追い掛けるリルマ。 少しおっかなビビりの足取りとなるビハインツで。 ミカーナを背負いながら、Kの少し離れた真後ろを歩きながらキョロキョロし。 「なぁ、ケイ」 「何だ?」 「俺、螢を踏まないかなぁ」 「まぁ、早々に踏みはしねぇンじゃないか?」 「ホントかよ。 アッチコッチで蠢く音がしてるゼ? 光も、そこらじゅうで点滅してるしさぁ」 「まぁ、絶対じゃねェが。 この螢って奴は、よ。 雌が土中で暮らし、雄はこの時期の昼間だけ木の上で暮らす」 「何だ、そりゃ」 「交尾の時期に成ると、雄が昼間だけ木々の枝で樹液を舐めたりしながら湿気を含む風を待ち。 その風が来ると雌に交尾を促す効果の含まれる霧を噴き出し。 その霧が土中に居る雌を刺激。 土から現れる雌も、こうして霧を発生させる為に水分を出す」 「夫婦の共同作業で濃霧を産むのか」 「そうだ。 で、見えなくする代わりに地上へ這い出した雌は、雄を誘う匂いを苔むした土の上を歩いて付ける。 木々から落ちる雄は、その匂いを頼りに雌を探すからな。 逢い引きの現場は、苔むした土の上って事よ。 俺たちの歩く道は、踏み固められたものだから苔が生えない。 雌が歩かなければ、雄も歩かねぇからよ。 あ」 足先に螢らしいモノが当たると解ったK。 軽く掬う様にして横に放り出した。 それを目敏く見たリュリュで。 「あっ、ケイさん蹴った!」 「蹴ってねぇ。 横に放っただけだ」 「でも投げたぁ」 「うるせぇよ」 「蹴ったぁ、蹴ったぁ」 煩いリュリュだが、面倒臭いと無視するK。 リュリュの背に居るリルマは、Kを指さして楽しげに何かを言っていた。 とても感情豊かなリルマで、ルヴィアやオリヴェッティも可愛くて仕方ない。 また、ミカーナを背負うビハインツも。 「ケェイっ、足元に居たじゃないかぁ〜〜っ」 「大した数じゃねぇっ。 俺が先頭を歩いてるたろうがっ」 「あ、そうだな」 リュリュと同じ子供の様なビハインツで、時に笑う所も何となく同じ。 その様子を霧の切れ間に見て笑えたルヴィアで。 「流石のケイも、子供相手ではああなるのか」 ルヴィアが言えば、微笑むオリヴェッティで。 濃霧にて様子はハッキリと良く解らないが、声で様子が想像する事が出来た。 「ですね」 そのうち、夕方が近付いたのだろう。 森が少し薄暗くなるに合わせて霧が次第に晴れて行く。 辺りの地面を見るクラウザーは、彼処此方に苔むした土が掘れて盛り上がるモノを見つけ。 「もう螢は、遣ることをして土中へ潜ったらしいの」 前を行くKより。 「明日から数日の内にまた雨が来る。 その雨が溜まる地下の湖に雌は卵を産み付けて、そのまま地下洞窟で死んでゆく。 地底湖では、そうした死骸が貴重で。 ワームだの、水性の小動物が雌の身体を食って増える。 その生き物の子供を餌に、螢の幼虫が食って育つ。 また、交尾を終えると雄も死ぬ。 その死骸を食べて虫や小動物が増えるが。 ある程度まで大きく成った螢の子は、この森の湿って苔むした土の上でそうした虫や小動物を捉えて喰らう。 全く、命の循環ってモノが良く出来てるよ」 「なるほど、そうした生き方をするのか」 「そうだ。 まぁ、死んだ雄の羽根は集めると金に成るからな。 集める者も居るだろう」 この話に、ミカーナが頷いて。 「ケイさんって、本当に凄い物知りですね。 私の知り合いのお爺さんが、毎年毎年に集めに行きます」 早くも土の上では、弱って転がる螢の雄がトカゲに食べられる様子を見つけるウォルター。 「友よ、その螢の羽根とは、集めて何に使うのだ?」 「羽根はとても柔軟な繊維を含む。 その繊維を取り出しては固め、鎧の内側の衝撃吸収素材にしたり。 上質な蝋燭の芯に使われたりもする。 何よりも、この繊維を使った雨避けは、何年も水を通さずに使えるとか」 「ほぅ、それは用途自由に使えるモノなのだの」 「まぁ、でも高いぞ。 前に見た時、他の国に流れた品物で3000シフォンとか」 驚くビハインツは、 「3000っ。 雨避けで?」 と、安物の自分の品物が幾つ買えるか考えた。 夜まで歩く。 時に、リルマを誰かが背負い。 同じく足を怪我をするミカーナを背負う。 そして、休めそうなテーブル型に広がり育つ変わった樹木を見つけ。 その前で火を起こす事となり。 柔らかい湿った土に困るビハインツで。 「こんなフカフカの土の上で火を熾すのかぁ?」 短剣の1番長い刃渡りとなるモノを抜くKが軽く一閃。 楕円に切れた土が掘れ上がる。 「なぁっ、何と……」 脱帽となるルヴィアは、これ以上の声が出ず。 「おーーーーっ! ケイさんスゲェーーっ!」 リュリュが褒めれば、シャンティやミカーナも凄いと合わせて拍手。 リルマも周りをキョロキョロ見ては、慌てて拍手に加わる。 「枯葉や枯れ枝を穴に入れて、あの倒木でも燃やすか」 朽ちて中身の榦がスカスカしている倒木を森に見付けたK。 直ぐに燃やせそうなモノを探しては集める皆。 ミカーナやシャンティやリュリュが、我先にと枯れ枝や枯葉を拾う。 若い故の率先思考か。 足が痛いだろうに、ひょこひょことリルマまでミカーナと一緒になる。 その中で、リュリュがKの真似をして枝を振れば、リルマも真似て振り回す。 直ぐに転ぶ様子からして足が痛いらしいが、遊びたいのも子供心か。 「可愛い〜」 シャンティがリルマを可愛がり。 ミカーナも同じく。 その様子を眺めるウォルターは、何とも遠い目をすると。 (確かに、我が友は変わった……。 なるほど、な。 “子供を育ててみろ”か。 己1人で1人前、大成したつもりに成っても、未熟な者を受け入れられぬ狭量は跡を無くす。 ん、ん……。 偉そうに見識や言葉で世間を切っても、それは独り善がりと成るか………) 過去のKに、この柔らかさは無かった。 子供の前で火起こしをして、リュリュやリルマが真似ればやらせている。 無駄な事は辞めるべきだが、その所を細かく言う訳でも無い。 湿った倒木を細断したKは、リュリュに。 「リュリュ。 風の力を抑えて使え。 狭い穴の上で起こし、火を強くしろ。 集中と制御だ」 「はぁ〜〜いっ。 よぉーし」 風を起こすリュリュに、魔法の制御の訓練まで。 一気に熾きが出来るも。 まだまだ制御が甘いリュリュ。 「そのままだと、何時か仲間を怪我させるぞ。 イリュージョンを繰り返せ」 「う〜ん、難しいよぉ」 「さて、また何か食い物でも探すか」 「わっ、行く行くぅ」 リュリュとKが食べ物を探しに消えた。 流石に保存食が無くなり始めて、オリヴェッティも頭を悩ませる。 この夜は、Kとリュリュが魚を捕まえて来た。 泥沼に潜む鯊(ハゼ)を取って来た。 「うわっ、デカい魚だ!」 ビハインツは、黒の斑となる大きな魚に驚く。 その魚の様子を見ただけで、クラウザーはハゼと解った。 「カラスよ。 こりゃ、ハゼか?」 「あぁ。 普通、塩分の有る海やら海と繋がった川に生きる魚だが。 この辺りじゃ川や地下水と繋がった沼に潜む。 この見た目に反してかなり美味い」 「ほう。 どれ、捌くか」 海の男たるクラウザーは、魚の捌きは料理人並み。 2匹程の魚を見事に捌いた。 細かい中骨まで抜いて見せる。 「ん、脂の乗った良い白身よな。 大型の鯛の様に大きい割に、身は繊細な……」 塩揉みして発酵させた山椒や唐辛子などのスパイスの乾燥させたモノを擦り込む。 焼けば魚の良い匂いがして、その匂いでリルマがジットリと焼ける魚を見詰める。 その穴が開きそうな程に真っ直ぐな視線に、Kが少し困る。 「まだ食う気か」 ウンウンするリルマで、力の抜けるK。 「はぁぁ。 子供のクセにすげぇな」 香草の代用品か、残る身を青い香りの有る大きい葉っぱで包んだ後に。 火の周りの土中へ入れるK。 「蒸し焼きだな」 光景を見るウォルターも。 「この湿気の多い土だ。 なるほど、それも可能か。 然し、冒険者とは創意工夫で何でもやるのだな。 面白い、実に面白いのぉ」 器用なKには、ルヴィアやオリヴェッティも負ける。 そして、夕食となるや。 リュリュとリルマが魚を残さず食べた。 2人の食欲に困るKで。 「知らなかった。 シュワイェットの子供は、こんなにも食べるのか」 残りの果実を遣るが、リルマは更に食べる。 同じく、驚くシャンティやミカーナで。 「シュワイェットの子供って、スゴい」 「はい。 食べっぷりが良過ぎですね」 「明日は、私も食材探ししよう」 「私も……」 すると、火の様子を窺うKが。 「もう少し先まで行けば、紅葉落葉する木々の生える辺りに行けるだろう。 この大森林だ、果物は探せば見込める。 だが、出来れば〘モチンガの実〙が有ると助かるな」 シャンティとミカーナは、Kが何を期待しているか解った。 「あの実が取れれば、2・3日のパン代わりと成りますね」 「わっ、モチンガの実は確かにぃ」 ビハインツは、その名前から何とも美味そうに聞こえて。 「それって、何だ? 実だから、ナッツみたいなのか?」 すると、ミカーナが先に。 「いえいえ。 モチンガの実は、とぉーっても、とっっっっても硬い木の実なんです」 「硬いのか……」 コレに、シャンティも加わり。 「ですけどね。 実を茹でて潰すと、モッチモチの黒い食べ物に成るンです。 粘り気の在る柔らかいパンみたいで、エリンデリンの街とかではパンの代わりにもされてます」 パンを食べきったビハインツだから、その代わりとは欲しくなり。 「よぉしっ、見つけたらいっぱい取ろう」 リュリュも頷いて。 「絶対、見付けるゾ! モッチモチ、フッカフカ〜。 食べてみたぁーーい」 楽しそうに言う皆を見て、何でかリルマもウンウンと頷く。 食べる事ばかりで呆れたK。 「子供の山遊びじゃねぇぞ」 だが、オリヴェッティも何故か真剣な顔をして。 「いえ、その食べ物は是非に見付けて下さい。 食べ盛りの子供も居ります」 と、はしゃぐリュリュやリルマを指差す。 ルヴィアも同じく。 「そうだ。 我々も食べる物が少ない。 是非に、見付けて貰おう」 頭を搔くKは、他所を向き。 「頭数が増え過ぎだ。 全く、まだ増えやしないだろうな……」 何となく嫌な予感がしたのだった。 明けた次の日、朝から少し食べ物を探し。 そのまま歩く事に。 予定に無い同行人が増えて、旅の進行度も遅い。 歩き始めると直ぐに、ずんぐりむっくりとした大きな身体のドワーフの民が操る馬車と擦れ違う。 少し格好がマシのシャンティだが、エルフの若い娘がする格好では無い為か。 「お前達、人の者よ。 そんなに亜種の民を連れて何処へ行くか」 やはり場違い感は在るが、こうも何度もでは面倒臭い。 シャンティやミカーナが協力的で助かるも。 説明が終わるまで足止めを食らうのが、Kにはウザい。 で、更にウザいのが……。 “グゥー、グググゥ〜〜” お腹を鳴らすリュリュやリルマやビハインツで。 「ケェイさァん」 「何だ?」 「何でもイイよ。 モンスターでも食べようよ」 “ゴン!!!!” 「うぇぇん!」 リュリュの時折に出る爆弾発言は、皆を驚かせるに足りる。 そして、朝の陽もだいぶ上がった頃か。 大きな蛇を仕留めて遅い食事にする。 「ヘビなんか食えるのか?」 ゲテモノを見る様な引き気味のルヴィア。 然し、クラウザーが塩をまぶしたぶつ切りを焼きながら。 「野生のヘビは、内臓と毒腺だけ注意すれば美味いぞ。 亀、蛇、カエル、トカゲは、下手な生き物よりクセが少ないモノがいる。 食って判断しろ」 で、食べると意外なアッサリした鶏肉に近い味わい。 視覚的な知識を含む美味の判断基準が壊れる思いのルヴィア。 「ん、悪くない……。 くっ、見た目に反して美味いではないか」 ガツガツと食べるビハインツも、ウンウンと頷いて。 「美味い、コレは・・イける」 確り炙った骨もガリガリと食べるリュリュで。 「イイじゃん。 モグモグ・・モンスターだって・・・美味いモン」 初めて食べると、ウォルターも美しい所作にてナイフを使い切り分ける。 フォークで小さく小分けしたモノを食べるや。 「なるほど……。 ん、筋肉質で、脂が少ない。 これは、様々な料理でも使えるな。 見た目と味は、違うと云うことか。 ん、・・美味よな」 こう云ってはウォルターも食べるので、初めてのオリヴェッティも意を決して食べる。 本当に意外となる味わいで、剥がされた皮を眺め。 (どうして、美味しいンですの? アナタ、何を食べてこんなにも美味しく成りますの? そんな怖い見た目ですのに、どうして・・どおして?) 鈍い黄金色と黒の斑模様となる皮をした大型の蛇で。 この皮も売り物に成るとKが保管する。 火で内側を軽く炙り、極限まで残る肉を削ぎ落とす。 「ヘビ、美味い!」 味をしめたビハインツ。 「ヘビだけじゃ無いって、トカゲやカエルも美味しいよ」 と、リュリュ。 満足したリルマは、朝露を集めて煮沸した水を金の鍋からぐびぐびと。 この少女の事が1番に不思議なKで。 (自然のオーラをただ吸収すりゃイイって訳でも無いのか。 子育てする親も、これじゃ〜毎日が大変だぜ) 少し休憩して昼頃となり。 とにかく先へ進もうと成る。 歩き始めたシャンティが、道の先を指さしては。 「この先で、また北と南への道に別れます。 そこを南へ向かうと、ほぼ一本道です」 ルヴィアに背負われたミカーナも頷いて。 「街まで、早くて4日・・5日ぐらいかと思います」 少し驚くオリヴェッティ達。 ルヴィアがその方を見ても森のままだが。 「まだ5日も、か」 先を行くKが。 「仕方ない。 色々と道草を食うからだ」 背負うリュリュと背負われるリルマが見合って。 「道草ぁ〜」 と、リュリュが自分を指させば。 「あ〜〜、あうあお?」 何か言葉を喋っているリルマも自分を指さして首を傾げた。 皆が話す言葉を聴いては、発音を真似ようとするリルマで。 意外に教えれば話せそうに思ったオリヴェッティやルヴィア。 交代で背負ったりしなかわら、“わたし”だの、“あなた”だの教えている。 煉瓦舗装など無いものの、森の中を真っ直ぐ抜ける道は本当に街道と思えるモノに成った。 道端と道の境がハッキリして、明らかに人工的な手が入っていると解る。 こうなると、更に他人と、逆に擦れ違う者とも時に、何処へ行くのかと聴かれる。 シュワイェットの子供も連れると、人攫いに勘違いされる事も。 また、亜種人だけの冒険者チームとも会い、休憩して話し合う事も。 この日、午後の夕方を少し前にした頃か。 また半壊した野営所を街道の片側に見付けて調べる。 石造の壁、柱や床は木造と云う円形の建物。 床が軒並み腐ってしまい、どうしようも無いのだが…。 建物をざっくり見たKは、もう食べ物が無いので。 「仕方ねぇ。 今日は早めに、この場所で夜営をするか。 食い物を探さなきゃな」 クラウザーは、代わって背負って居たミカーナを切り株の椅子へ降ろすと。 「また、補修でもするか」 「この腐食加減だと、それしかないな。 向こうに、そこそこ太い木が倒れている。 アレでも利用するか」 それを聴いたルヴィアは、少し向こうの森に倒木を見つけるも。 「あの木をどうやって使うのだ。 とんでもない巨木だぞ?」 「用途に合わせて切り、適当に組み合わせるさ。 運の良い事に、階段は石で、柱と梁以外の石の壁や枠は生きてる。 利用しない手は無い」 20人は大人が並んで手を繋がなければ回れない様な巨木が向こうに倒れている。 それを軽々と輪切りにして、床や柱の形に切るK。 また、1から船を作った事も在ったクラウザーは、リュリュの力を借りて柱を嵌め込む。 午後からやって作業をしていると、街道から外れて冒険者チームが来た。 「おいおい、何をしている」 シャンティが振り返ると、人とエルフやドワーフの武装した者が来ていた。 「野営所を補修してます。 休める所が欲しいので」 鎧を着た背の高い人間の女性が、骨張った顔の逞しい顔をK達に向けて。 「見上げたモノだ。 この場所の補修とはな。 よし、手伝おう」 ドワーフの男性は、髭もじゃの顔を驚かせ。 「本気かぁ? この野営所は、放置されて5年は経つぞ。 床も壊れていれば、梁なんか……」 既に湿っていたズ太い大木の倒木だが、それを使った梁は切り出されて出来ていた。 他にも梁の補助として支える木の板を嵌めているクラウザーとビハインツとリュリュで。 「悪い、手伝いをする」 リーダーの彼女が鎧の上を脱いで、長袖姿となり手伝うと。 床板を切ったKが来て。 「応援が増えたか」 骨張った顔の老け顔となる女性の傭兵ラエンより。 「冒険者のラエンだ。 我々も此処を利用したい。 手伝おう」 「おう、床板を渡す」 ラエンのチームは、8人チーム。 その動かぬ者を2階から確認したKが。 「お宅のチームに、僧侶は居るか?」 作業をするラエンとドワーフの男性と中年の固肥りした傭兵か戦士らしき武装をした男性がKを見て。 「居ることは、いるだど」 「居るぞ。 何か?」 「僧侶・・怪我人か?」 頷くKが手を動かしながら。 「森を彷徨って居た亜種人の少女を2人助けたが。 裸足で逃げていた為に、足の裏を怪我していてな。 出来れば、癒して貰いたい」 リーダーのラエンは、壁の無い街道側の外を見て。 「外に居る少女達か?」 「あぁ。 悪党達の街が壊滅されて、捕まっていた女や子供は逃げ出したとか。 エルフとなるシャンティは、その1人。 シュワイェットの子供とエンゼリアのミカーナは、夜営していた時に助けを求められたんだ」 ドワーフの男性は、本当に驚く顔をして。 「本当に、悪党達は壊滅されたのか?」 「らしい、な」 ラエンは、嵌った床で立ち上がると。 「我々は、調査依頼を請けて向こうの、東側の森に在る集落に向かって行く。 逃げて来た少女が保護されているらしいが。 その彼女等を、別の集落へ護衛する為と。 その悪党が壊滅させられたと云う情報の真偽を確かめる為なんだ」 固肥りしたガッシリ体格の中年男性も、足場を踏んで頑丈さを確かめながら。 「今、エリンデリンの街の斡旋所では、それに関連した依頼で盛況だよ」 悪党の壊滅を自らしたKだが。 「そうか、それはご苦労だ」 と、知らんの態度で返す。 少女達の治療を受け入れるラエンより。 「処で、夜にあの少女達に話を聴いていいか?」 「構わない。 別に、此方に断る必要も無いだろう」 「済まない。 貰った地図が曖昧で、良く道が解らないんだ」 「まぁ、この森の中は、抜け道や獣道が無数に在るし。 大自然の中を行くから、迷い易い。 知ってる者に聴きながら行くしかない」 「そうらしいな」 「ただ、青い肌の少女はシュワイェット種族と言って、古代魔法語の元になる古代語を話せないと、会話は無理だぞ」 「あ、そうなのか」 その会話へ、ドワーフの男性も入り。 「シュワイェットの事は聴いていたが、子供を見るのは初めてだァ。 あの種族の母親は、子供を街へは連れて来ないからのぉ」 頑丈に厚い板で2階の寝床を作った皆。 それが終わる夕方に、Kはリュリュやクラウザーやビハインツを伴って食糧を探しに森へ。 さて、焚き火となる。 建物の1階に在る石窯に火が入り、湯沸かしする時にシャンティとミカーナが話を聴かれる。 ラエンの仲間は3人が男で、他は亜種人を含めて女性。 美しい男性の様なハーフの亜種人の者が、シャンティへ忍び寄り。 「お主、あの包帯男達に騙されては居ないな?」 オリヴェッティ達を疑われ、シャンティが怪訝となり。 「命懸けでアマゾネスさん達を助け、泥沼に溺れ掛けた集落の民を助ける人が、どうして人を騙すのですか? 底を尽く食べ物を私達に渡してまで居るのに?」 ラエンの仲間に人の女性で、年配者となる者が居る。 女性にしては背が高いが、着ている衣服は着古したモノだが僧侶の法衣だ。 慈愛の女神フィリアーナを信仰する彼女が、先にミカーナの足を消毒して治す。 そして、続けてリルマの足を治そうとするが、警戒して足を見せないリルマ。 先に治して貰ったミカーナは、そんなリルマが不思議で。 「リルちゃん、どうしたの? 魔法で足を治して貰おうよ」 だが、プクっとムクれて他所を向くリルマ。 明らかに、何か不満を現して居る。 裏手の井戸より水を汲んで来たオリヴェッティとウォルターが、飲水として使う為に煮沸しようとする。 野営所の前に出来た熾(おき)の1つで、沸かそうとすると。 言葉遣いが偉そうな気位の高いエルフの若い女性の魔術師が、足を見せないと困る仲間を見てから。 「おい。 このガキは、何だ。 傷を治してやろうと云うのに、生意気な」 と、オリヴェッティへ。 すると、リルマが頬を膨らませ。 「ん"ーっ! んっ、ん!」 彼女を指さして何かを訴える。 その様子を見たウォルターが。 「ふむ。 このリルマは、何となくの感覚で人の言葉が解るのだな。 自分を助けた者をお主にバカにされて、憤慨しているらしい」 「何だとぉ? 言葉は解らないと言ったじゃないか!」 見た目は綺麗なエルフの娘だが、此方は気位も高ければ、物言いも生意気が強い。 横で聴いているルヴィアは、尊大にして此方を悪人の様に見て来る言い方や態度に少しイライラしていた。 熾の前に来たウォルターは、切り株の椅子の上でムクれるリルマを見て。 「完全には、理解していないだろう。 じゃが、人の男性との間でしか子供が出来ないならば、素養として人の血も入るから何となく解るのではないか?。 特に悪口は、語る者の態度や表情からでも感じられるものよ」 1階の縁側とも言える新しく成った床にひょこひょこと歩いて逃げたリルマ。 そっぽを向いて怒るリルマに、オリヴェッティが近寄っては横に座って。 「リルちゃん、足を治して貰いましょ。 ね? 痛いままで悪く成ったら、歩けなくなりますわ」 ウォルターの前に立つシャンティは、色々と話の聴かれ方が悪かったのか。 「私は、リルちゃんの気持ちが解ります。 何で、ケイさんの事を悪く言われるのか解りません」 すると、態度が尊大なエルフの若い女性は、険の有る眼差しでシャンティを見返し。 「子供が生意気なっ! この辺りまで人間の悪党が来ていたンだろうが!! 人を疑って何が悪い! あんな容姿の男など、怪しく無い訳がなかろう!!」 彼女が怒鳴ると、リルマは嫌がってオリヴェッティに抱き着く。 子供扱いされて、シャンティも不快感を表した。 「見た目だけでそんな事を言うなんて、貴女は人を疑うだけで誰が信用する事が出来るかなんて解らないと思います。 大体、物言いや見た所で貴女は、この森のエルフじゃないですよね?」 口の悪いエルフの女性は、ムカッとしたのか。 「私は純粋なエルフだ! 生まれは水の国だが、立派なエルフだ!!」 「生まれよりっ、人に対する様子は、私を見下した悪党の男の人と一緒ですっ! 私、貴女は嫌いです」 同じエルフ同士で口喧嘩が起こり。 驚くのはルヴィアやオリヴェッティだ。 「おいおい、オリヴェッティ。 コレは、少し困ったな」 「はい。 困りましたね」 その時だ。 夜となったばかりの中で、街道から誰かが来た。 「明かりが見えて、大声がしたと思えば。 おぉっ、野営所が直っておるわい。 これは…」 青い上掛けの礼服に、帯の様なマフラーをした長身の人物が現れる。 垂れ下がる頬、鷲鼻より曲がる鼻、ギョロギョロとした眼には似合わぬ大きい鼻眼鏡をし。 耳が大きく、見た目に炭の様に黒肌の人物がやって来た。 余りに黒い肌をした上、見た目が奇妙となる容姿の人物。 ギョッとする者もする皆だが、シャンティとミカーナはその人物を知っているらしく。 「チュタンダさんっ」 「チュタンダのお爺さんだぁ」 その真っ黒な人物は、シャンティとミカーナを見て。 「お? おぉっ、お前は、ユエタの娘。 そっちは、エルフの里の娘ではないかっ」 怪物と言いかけたのは、態度の悪いエルフの女性だが。 容姿に驚いたのは、この2人とリルマ以外の全員だ。 シャンティとミカーナが前に出て、その人物と相対すと。 チュタンダなる真っ黒な老人が2人を良く見て回しながら。 「お前達は、悪党達に連れ去られたのでは無かったか?」 シャンティが先に。 「人の冒険者の方が、暗黒街の悪党を倒してくれたの。 それに、私は別の方に助けて貰えたわ。 生きて、帰って来れたの」 「な、何じゃと? 暗黒街が・・滅ぼされた…」 ミカーナも続いて。 「私、お父さんとはぐれてから、悪い人に捕まったの。 でも、モンスターに襲われて逃げ出した後、優しい人に助けて貰ったわ」 2人の様子から、真実らしいと解ったチュタンダ老人。 他人だが、何とも安心した顔となり。 「そ、そうか、そうか…。 ユエタが大怪我をして街に戻って来て、お前が帰らないと嘆いていたと聴いたが。 そうか、助かったのか。 良かった、本当に良かったな」 すると、シャンティが興奮気味に。 「チュタンダさんっ、聴いて! 私を助けてくれた人で包帯を顔に巻いた人は、あの口伝でしか伝えられない古代語の会話が出来るんだよ。 シュワイェット種族と話せるのっ」 「何じゃと?」 黒色の老人姿となる人物が驚く時。 リルマが痛む足で地面に降りて、ひょこひょこと歩く。 オリヴェッティが何事かと。 「リルちゃん?」 するとリルマは、建物の左側となる薮を指さし。 「あ〜〜ぁあ、あわあーー」 と、何かを訴えた。 ウォルターが其方を向いて、 「友やクラウザー殿が戻って来たな」 と、リルマが訴えた事の意味を言った。 そして、ガサガサと街道向かいの薮が動くやKが現れて。 「おい、リュリュ。 1人で全部を食うなよ」 頭を払うクラウザーも現れる。 「一日では無くならんだろ?」 リュリュも何かを背負って居て。 「早く焼いて食べようよぉ。 お腹空いたぁ〜。 リルちゃんも絶対だよ」 覚束無い足取りで歩くリルマは、転びそうになったりしながらKへ近付き。 「あぁわぁーっ、おわおあっ」 コレに、Kも不思議な発音で返すと。 「あお、あー」 頷くリルマがKの周りまで歩きながら笑う。 「お出迎えのリルちゃんだな」 頭の汚れを払い落とすビハインツが言っても、何となくニコニコするリルマ。 頷く様子からして、やはり何となく言葉が伝わっているらしい。 そのリルマを一緒にして戻るKは、立っているオリヴェッティやラエン達を見て。 「どうした? ミカーナは普通に歩いてるのに、リルマは怪我したままだぞ」 年配の女性僧侶となるクライエンなる人物が、深く頭を下げて来て。 「誠に申し訳無い。 我が仲間のステイシーが貴方を悪く言ったので、彼女が拗ねてしまいまして。 治療を受けて貰えないのです」 呆れて失笑するK。 リルマに何かを言えば、ブスっとするリルマが不貞腐れた様になる。 更に何かを言えば、仕方なさそうに建物前の切り株を持って来ただけの椅子に座った。 「そら、早く治療してくれ。 消毒は、自然由来のモノを使った方が良いみたいだ」 こう言ったKは、赤い丸型の大きな何かを焼こうとするリュリュへ。 「直で焼くな。 蔦を回してから焼くんだぞ」 リュリュは、丸型の何かを持っていて。 「グルグル巻き?」 「満遍なくビッチリと一巻だ」 こう言って解るクラウザーは、ビハインツへ。 「芋を巻くぞ。 直で焼くと焦げるらしいな」 「どうやって巻くんですかね」 「一巻だから、隙間なくグルグルとさせるんだ」 戻って手を洗うKは、チュタンダ老人を見て。 「客が増えたのか。 然も、今度は魔人(まびと)かよ。 亜種人を勢揃いさせる気か?」 と、オリヴェッティに言えば。 シャンティが。 「ケイさん、この方はチュタンダさん。 エリンデリンとクテラマクスを行き交う学者さんです」 戻るKは、魔人なる老人を見て。 「悪いが、お宅よ。 食い物は自前で頼むぞ。 大食らいの子供が増えて、他人の分まで手が回らないンだ」 Kを見るチュタンダ老人は、大きく頷くと。 「お主、古代語のエンシェント・ゴア・ルーンを話せるのか?」 「まぁな。 若い頃、古代から続く精霊の里に住むニンフのニュクアに習った」 「に、ニンフのニュクア…。 あの隠匿の精霊がどうして人と…」 「まぁ、なんつーか。 ちょいとした縁だよ」 ビハインツが持っている金の鍋に水を入れたKは、取って来た何かを洗い始める。 怪我を治されたリルマはオリヴェッティに言われて、クライエンと云った年配女性に頭を下げるも、直ぐにスタスタとKやリュリュの方に。 「本当に、良く懐いているわ」 僧侶クライエンは、見て解る光景だけでKが信用に値する人間と感じたらしい。 で、ビハインツ、リュリュ、クラウザーと仲間達で、外に2つ作った熾(おき)の1つを囲みながら。 女性やウォルターは、森へ行った“釣果”と云うべき結果を聴く。 「この赤い歪な丸型のモノは、芋の仲間で焼き芋に出来る。 こっちの黒い丸型のモノは、玉ねぎの姉妹種だ。 煮て、スープにした方が美味い。 それから、この白く長い棒は、根菜の1つで百合根の仲間だ。 花びらみたいな一つ一つを剥いで、塩で生でも食える」 手にするビハインツは、眺めて頷き。 「根っこの食べられる奴か」 すると、クラウザーから。 「根っこじゃない。 良く見ろ、塊から根が出ている」 「あ、ホントだ」 「地下の茎や葉に栄養を蓄える植物なんだ。 芋は、地下で横に伸ばす茎に。 玉ねぎは、地下の茎に葉っぱの様なものが折り重なって養分と蓄えるからああなる」 「く、詳しいですね」 「これでも、若い頃は農作業もしていた。 今、土地を買って畑にし、人に任せている」 「へぇ〜」 そんなK達を眺めるラエン達。 ステイシーなるエルフは、悪態をブツブツと言う。 所が、いざ食事となると。 「凄いイイ匂いが・・するな」 ドワーフの彼は、ネギの香りが塩気と共に香ると落ち着かない。 Kの2つ横に座るチュタンダ老人は、K達が取ってきたモノを見て。 「地元の者でも無いのに、良くこれらのモノを採取できたな。 然も、良く太ったモノばかり…」 リュリュが偉そうに胸を張り。 「エッヘン。 ケイさんの判断に間違いは無いのだぁ」 すると、見ていたリルマも立ち上がっては腰に手を当てては真似て何かを言う。 何となく少し恥ずかしいKで。 「アホ、止めれ」 さて、焼けた芋から焦げた蔦を剥がすと、金色の芋が甘い香りを放って現れる。 「あふぅ………」 「美味しそう……」 リルマとリュリュがじっと見詰め。 「熱いぞ。 冷ましながら食え」 と、オリヴェッティに渡すK。 「待っててね」 布で受け取り、冷ます為に小分けるオリヴェッティだが。 柔らかく、粘り気のする中身を見れば。 「ケーキやお菓子の具にも使えそうですわ」 甘い香りを感じたウォルターも同意。 「この甘みのする香りは、何とも食欲を誘う。 栽培はしていないのかの」 皆で分けて、口に運ぶと芋なのに砂糖芋の様に甘く。 「美味い、コレは美味い」 ビハインツが喜び、新たな芋を蔦で巻く。 シャンティやミカーナも貰って、パクパクと食べる。 また、玉ねぎの姉妹種となるモノは、とても芳醇なネギの香りを放ち。 香草の自生したモノと煮れば、乾燥した野菜とスープに変わる。 それを3杯もお代わりするリルマで。 見ているKは、困惑。 「シュワイェットの母親は、子育てが大変らしい。 全く、とんでもない食べっぷりだ」 様子を見ていたチュタンダ老人も。 「シュワイェット種族は、何度か会ったが。 この様に大食とは知らなんだ。 この子供は、父親の影響が強いのではないのかの」 「なるほど、かもな」 さて、魔人を初めて見たビハインツとルヴィア。 「御老人、魔人とはその様に肌が黒いのか」 と、ルヴィア。 「炭みたいですな」 ビハインツも続く。 「如何にも。 魔人は、人が持つ精霊の適応性が、魔の精霊側に傾いたと言える。 古代より、ダークエルフ、我々の魔人、夜のニンフの〘ヴォールヴォ〙が近い所かの」 コレに、Kが続き。 「精霊の適正は、お前たちでも、オリヴェッティでも持っている。 強く適正を持てば、ミカーナの様に精霊遣いとして。 一定の強さを持てば、オリヴェッティの様に自然魔法が遣える。 だが、勘違いするな。 魔のオーラは、モンスターだけのモノでは無い。 モンスターは、悪魔の力、魔界のオーラに染まったモノ。 魔人やダークエルフは、純粋な精霊力として魔の精霊力へ順応、傾倒し、適性を宿した人種だ。 モンスターと混同するのは、理解力の無い頭の悪い奴がする事だ」 チュタンダ老人は、Kへ頭を下げ。 「正しい理解を、感謝しますぞ」 「もう200年前には論争に決着が着いている。 それに、ダークエルフや魔人より、人間の方が圧倒的な数で悪事をしている。 破壊や憎悪で悪しき側に堕ちる亜種人の者は、それだけこの世の中で虐げられたからだ。 モンスターだからって訳じゃない」 そこへ、ラエンが来ると。 「悪いが、我々は明日から東側へ向かう。 旧横断街道方面に向かいたいのだが。 森の中を行く道を教えて欲しい」 Kは、シャンティやミカーナに。 「教えてやれ。 迷わないように」 此処で、貰った芋を全部食べられたオリヴェッティで。 明日の朝に残す芋を見て。 「ケイさん、もう少し…」 大きい芋を選んだのに4本目を食われたKで。 ニコニコするリュリュとリルマを見て苦虫を噛む。 「まだ食べるのか? スープもあれだけ飲んだのに」 「あ〜〜、あっ!」 その通りと手を出すリルマだが、太った様子は全く無い。 「はァァ…。 こんなに食べる子供だと? 大人の時がどうなってるか、末恐ろしいゼ」 そして、夜も更けてリュリュやリルマは・・1階の脇の板の間で寝る。 最初の番をするKが。 「上で寝ろよ」 すると、頬を膨らませるリルマが嫌がり。 リルマを見たリュリュが、2階の上を見て。 「煩いエルフのオネーサンが嫌なんだって」 呆れた笑みのKは、同じく上を見あげて。 (言葉も通じねぇのに、こんなに嫌われるとは、な。 性格の悪い奴は、人でも、亜種人でも変わんねぇってか) 尊大で、口の悪いエルフのステイシーだったが。 仲間に怒られて先に寝た。 どうやらエルフでも都会育ちらしく、こんな大自然の中に来たく無かったらしい。 オリヴェッティも、ルヴィアと下に来ていて。 (上は、何だか嫌ですわ) と、リュリュに抱き着かれる。 ルヴィアは怒るも、リルマと一緒になられると流石に黙った。 チュタンダ老人は、遅くまでKと何かを話した。 学者同士となれば、互いに知りたい事を尋ね合うだけでも話が直ぐに終わらないらしい。 ラエンの仲間も、夜中の見張りを交代で加わった。 態度の悪いステイシーは、チームを取っかえ引っかえしているらしく。 ラエンが気遣って加えたらしい事も聴ける。 そのステイシーは、朝まで見張りには加わらなかった。 そして、一夜が過ぎた。 が、その騒動が起こったのは、早朝だ。 空が明るくなるも、まだ昇り始めた陽の光が木々に邪魔される頃。 「助けてっ! 助けてくれろぉ!!!!」 変な物言いの男性が全速力で走って来た。 リュリュやルヴィアが起きていて、Kやオリヴェッティも起きた。 頭や肩に怪我をするドワーフの若者・・らしき人物が逃げて来て。 「助けてくでぇ! モンスターだぁぁぁっ!!!!」 皆が武装する時、Kは南側の森を眺め。 「お宅を追って来てる。 他に、連れは?」 「居ないダぁ! でも、ゴーストやスケルトンもぉぉぉ」 頷くK。 「解ってる」 そして、次第に南側の森が揺れ動く。 ワサワサ、ガサガサと音がして。 まだ少し薄暗い中で、長く大きな影が茂みより出て来た。 「ワームの一種、〘ベークベン〙か。 洞窟に潜む奴だな」 大人の2倍以上となる細長いミミズの様な身体に、ギザギザした牙を持つ丸型の口だけの身体となるワームのモンスターだ。 リュリュが動いて。 「煩いのぉっ!」 蒼翠のオーラに輝く爪で一閃して倒す。 次々と現れるベークベンをリュリュが倒せば。 追い付く様に来たビハインツ、ルヴィア、クラウザーが加勢し。 ラエンとドワーフの男性と中年男性の固肥りとなる人物も戦いに参加する。 だが、人の数倍の大きさ、広さの身体におぞましい悪魔の様な顔を持つ汚い緑色の怪物が現れるや。 「〘森の悪魔・ギュラトル〙か。 随分と殺し合いが起こったらしいな」 こう言ったKが姿を消すや、その怪物ギュラトルがズタボロとなって崩れる。 姿を現すKは、空を見上げ。 「気を抜くな。 スケルトンやゴーストがまだ来るぞ」 スケルトンとゴーストに混じり。 スケルトンより強い怨念にて出来上がる黒いスケルトンの〘ナタ・ノール〙。 ゴーストの集合体から生まれる悪魔の様に表情が変貌した霊体〘ハレ・ネ・ガターヘ〙。 血肉の腐った塊となるヘドロのようなゾンビの〘エノガー・オ・フェス〙も現れた。 聖水を使う皆へ、チュタンダ老人が自身の持つ聖水まで貸してくれながら。 「炎の精霊、火喰い鳥よ。 その姿を現し給え」 と、精霊魔法を遣えば。 足がある程度は治ったミカーナも。 「風の精霊、鎌鼬(カマイタチ)さん。 私の声、聴こえますか?」 炎に包まれる鳥と、風を纏う獣が現れた。 オリヴェッティやシャンティが自然魔法で戦う中で。 精霊魔法も加わると戦力は厚く、多数のモンスターも駆逐が出来る。 ラエンの仲間も戦うが、オリヴェッティ達には到底その力は及ばない。 また、リルマは幼い頃からモンスターに対しての警戒心を植え付けられているらしい。 石を投げて新手のモンスターの存在を教えたり。 精霊魔法の使い魔の様な精霊を応援する様な事をした。 戦いが終わった後だ。 Kがモンスターの来た薮の方を指さして。 「何処かに、この不死モンスターが潜んで居た場所が在る。 場所を確かめて、僧侶が居るから浄化するぞ」 この時、街道にて通り掛かった他の冒険者達も居て。 「お前達、凄いな」 「おーい、少し話をして良いか」 ドワーフの大柄な女性、女性のサハギン、エルフと人の間の者となるエルファレイムの男性に、人の2人僧侶と魔想魔術師のチームが着いて来た。 生意気なエルフの女性ステイシーは、 「モンスターは倒しただろう? 浄化など無駄な労力ではないかっ」 と、怒鳴る。 然し、Kは脇目にして。 「頭が悪いぞ」 「何ぃ?」 「コレだけのモンスターを相手にして、その出処を探らずに放置してみろ。 お前達が依頼を終えて帰った頃には、新たな被害が出るかも知れん。 それでこの事実の事を斡旋所の主に聴かれでもしてみろ。 対処はせず、見過ごしたと判断力の乏しさを見抜かれる。 そうした出来事は、今後のチームの依頼の回され方にも影響するンだ」 共に来た冒険者達も、確かにそうだと思った。 逃げて来たドワーフの若者の案内にて、モンスターから襲われた場所に行き。 不死モンスターの来た方向から森へ入れば、縦穴の空洞がヘイトスポットとなっている所を見つける。 深い森に囲まれて、オーラの感知も鈍らせる中だ。 年配の女性僧侶クライエンと後から来た冒険者で、僧侶の2人をKが、リュリュが護衛として穴の中に。 ヘイトスポットを浄化するまでを行い。 漸くこの問題に決着が見えた。 午前中だが、陽射しが斜めに見上げられる程と成る頃。 補修した建物まで戻る。 「ふぅ、悪党の所為で、面倒が山積みか」 Kが、皆も手を洗う。 井戸の水を使うそこへ、チュタンダ老人や僧侶達が来て。 「お主、相当な経験者だのぉ。 モンスターの事を熟知し、ヘイトスポットまで浄化とは……」 「いや、旅人1人が歩いていて襲われる様ならば、人の集まる街道じゃ被害は直ぐに拡大する。 解った時に潰さなきゃ、後から後から面倒が重なるゼ。 人任せで解決が出来るならば、放って置いても構わねぇが。 あの不死モンスターの数は、もうヤバい」 「ん。 その通りよ。 よく、被害が出て居なかったものだ」 「被害が見えなかったンだろうさ。 見つけた死骸には、まだ比較的に新しいモノも有ったぞ」 クライエンは、僧侶の使命を果たせたと。 「有難うございます。 良く、気付いて下さいました。 あの亡くなられた方々が、少しでも安らかに天へ召されます事を願います。 その道を示した貴方にも、御加護が有ります様に……」 「止せ。 それより、別れる前にもう一度、ミカーナとリルマの足を診てくれ。 神聖魔法は、心の魔法とも言える。 魔法の施しを受ける側が嫌がっても、その効果は薄らぐ。 重ねがけしてやれば、もっと良く成るだろう」 「はい、それはお任せを……」 ミカーナとリルマを始めとした怪我人を僧侶達に診て貰い。 少し話し合いをしては、お互いに別れて旅立つ。 傷がかなり良く成って歩ける様になると、リルマはKの脇や近くで一緒に成る。 花を摘んでは、蜜を吸う事を見せたり。 食べられる実を探す。 (なるほど。 幼い頃から食べる物を覚えて生きるのか) 歩ける様になれば、自分で自分のことをやるリルマ。 シャンティやミカーナ、オリヴェッティも偉い偉いと褒めるので。 リルマは笑顔で付いて来る。 そして、午後も夕方が迫り。 彼方に早くも陽が隠れて少し暗く成る頃か。 疎らに大きな木ばかりが生える森に、地面から突き出す岩が彼処此方と見える変わった場所の縁を通る事に。 「雨で地面が浸食されて、石が剥き出しに成ってるな。 石や岩を根っこで抱いて育つ木が目立つ」 Kの意見に、オリヴェッティも。 「この場所の道は、大雨となると水の道となりましょう」 「だな」 ウォルターは、辺りの気配を探り。 「妙だな。 遠くに人のオーラがする」 オリヴェッティも。 「先程から、尾行されてましょうか」 ビハインツやルヴィアは武器を何時でも抜ける様にして。 「この辺りの悪党は、まだ生きていると云うことか」 ミカーナは、この道にて。 「此処って、悪い人が旅人を襲う場所です。 早く先の森へ……」 「そうだな」 返すKは、片手をいつの間にか左の方へ。 遠くにて、 「ぎゃ!」 と、声がした。 「はっ?」 クラウザーが声を聴くと。 「放っておけ」 と、K。 「良いのか?」 「森へ追って悪党を捕まえても面倒なだけだ。 冒険者が毎日にこの街道を動いているならば、直ぐに野盗を潰す依頼も出来上がるさ」 薄暗い岩の木の生える南側の森を窺うルヴィアは、襲われそうだったと感じ。 「然しっ、このまま放置すれば……」 「俺は、さっきから3回ほど、奴らの動きを牽制している。 怪我をさせて放置しとけば、奴らは逃げ込める場所を探して暗黒街に向かうさ。 その本体となる暗黒街が潰さている事を知れば、奴らも稼ぎをする場所が無くなった事を知るだろう。 こんな山の中だけで生きれるほど、奴らは清らかでは無い」 ビハインツは、それでも心配で。 「だけど、コッチには少女が何人も居るし、オリヴェッティやルヴィア、美人も多い。 大丈夫かな」 それでも、Kは淡々として。 「お前、俺がそんな優しい奴に見えるか?」 振り返ったKが怪しく微笑んだ時、ビハインツやルヴィアの背中に恐怖が走る。 あの暗黒街を潰した男だった。 シャンティやミカーナは、その意味は解らない。 サッサと歩いて先の新たな様相に変わって行く森へ入る。 登坂となる道を行くに従って岩が見えなくなり、恐らくは丘となる森の中ほどにて、遅く成るまで歩いてから野営となる。 火を熾して枯葉や枝を集めて居ると。 「あ、済まない」 「あの、夜を一緒しても構いませんか?」 娘を連れたエンゼリアの男性が来た。 狩人として生きるらしく、森を移動して採取や狩りをする為に来たらしいが。 この先の岩場の所は、夜で通るのは怖いと云う。 そこを通って来たオリヴェッティ達だから、その気持ちは良く解った。 ミカーナは同族なので、親子と話をして。 「ほぉ、エリンデリンへ…」 「まだ少し遠いよ」 エンゼリアの親子は、奇妙な組み合わせとなるオリヴェッティ達の事を気遣ってくれた。 細かい経緯まで話すと、保護して居る事は理解して貰えたのか。 最近の街の情報も教えてくれた。 娘の狩人は、オーラ感知に長けて居るらしい。 先の街道で、モンスターの気配がする所まで教えてくれた。 然し、その話し込む頃だ。 あの岩場が見えた辺りより東側へ向かう森の中では、人相の悪い男達が南東の奥へ、奥へと逃げている。 「た、助けてくれっ! 見捨てないでくれ!」 片目を怪我した者が仲間に言う。 怪我する場所から血が流れて、何故か酷い腐臭がしている。 その臭いに釣られてか、肉食となる中型の獣に狙われていた。 狐と豹の間の子の様な肉食動物が、何頭も森を動いて狙って来る。 いや、危機に瀕するのは、彼だけでは無い。 肩に怪我をする大男も、逃げながら何かを追い払う様な仕草をしている。 動かせる片腕の手を激しく払い除ける仕草で。 「くそっ、くそ! 何で集られるんだぁぁ!」 闇の中をワサワサと動く無数の小さい何か。 この大男を狙って居るらしく、大男に向かって小さい何かが狂った様に繰り返して飛び掛かる。 「痛いっ、痛いって! チキショウ!!!!」 「何だっ! こりゃ何だ?!」 一緒に逃げて居た小男が、暴れる大男の背中を歩く小さい何かの影を捕まえると、月明かりに翳せば驚いた。 「こ、こりゃ・・肉食ゴキブリだ」 この時、ついに片目を怪我した男の首へ、付き纏う生き物が飛び掛っては噛み付いた。 「うぎゃあ!!!」 地面へもんどり打つ形で転がった悪党は、ジタバタ暴れる動きが突如、ピーンと凝固する様に止まる時。 他の生き物が次々と男の喉笛や腕や足を噛んだ。 “ブルルルル。 ヒュュュエェ!” 倒れて僅かに痙攣する男の周りで、獣達が獲物を奪い合う牽制が始まる。 隙を見て、倒れた男の顔や首や手に噛み付く獣。 「ヤベぇっ、1人殺られた!」 「イイから逃げろっ! 獣の狙いはっ、奴だ!!」 この時、頭に革製の帽子を被る細身の男が剣を抜いて。 「止まれっ! この足手纏いがっ!!」 ゴキブリらしき群れに集られる大男の脚を刺す。 「ぎゃ! 痛えぇぇぇぇ!!!!!!」 大男が薮の中へと倒れ込めば、ゴキブリらしき小型の生物が彼の姿も解らなく成る程に集って行く。 「たっげぇ、ヴおぇぇぇ………」 どうやら口の中へも大量の何かが圧し入ったらしい。 声を出す喉に異常を来たして、声が潰れた。 大男の脚を刺した革帽子の男は、 「今の内だ、逃げるぞ」 と、残る仲間へ促す。 すると、小男が。 「か、カシラ。 頭に何か受けやせんでしたか?」 「革の帽子で止まった。 さ、逃げるぞ」 5人程の男達は、更に森の奥へと逃げて行く。 革の帽子を被る顔の大きい悪党は、実際の処で肝を潰して居た。 K達が魔法も当てられぬ遠くに見えると安心していた所に、何かを投げて来たKに驚いていた。 (チッ! あの野郎は凄腕か? この数日の間に会った他の奴らから聴いた話だど、暗黒街が幾つか潰されたらしいが。 もしかして、野郎の仕業かよ) 大きな暗黒街に住む悪党達は、幾つかの役割に別れて悪党稼業を行っていた。 この男達は、あのアラ=ファクトの住人で。 何ヶ所かの狩場を動いて亜種人 女性や子供を攫っては、街へ運び込む事を命令されていた。 Kが暗黒街で殺戮を始める少し前に、売り物となる女性の数が足りないと、この大森林へ派遣されていたが。 この数日前から急にアマゾネス達や森の民が威勢を取り戻し始め。 数ヶ月前に住民を皆殺しした集落を拠点にして、強盗や誘拐を働こうとしていた。 但し、時に逃げて来た悪党とも落ち合う事が在り。 暗黒街が誰かに襲われていると知る。 だが、見ている訳では無い。 新興勢力となる悪党が、暗黒街を襲っていると思ったりした。 略奪の小競り合いが、小さい暗黒街同士で起こったと思った。 (クソ、残るは俺を含めて5人か。 この人数じゃ、魔法を扱う亜種人達を相手にしちゃ負けるかもしれん。 こりゃ不味い。 アラファクトに帰って、頭数の増強を頼むしか……) 逃げる帰る為、拠点の廃墟と成った集落に戻る事にした悪党の男達。 アマゾネスや森の民を狙っても、何故か逆襲されてここまで来た。 それなのに、包帯男の所為で戦わずに逃げるとは……。 その後、深夜になり。 火の番をするKとウォルターが狩人の親子と森について長々と話す時。 滅ぼされた集落へと逃げた男達は、どうしてか死の淵へと落ちていた。 「たぁぶぷぷけてぇ……」 月明かりの中、集落の手前となる開けた場所で転がる彼等。 暗がりでも何となく解るのは、男達の身体を黒い何かが巻き付いている様な光景だ。 顔の上半分まで黒い布の様な何かに包まれたリーダーの男が。 「誰かっ、誰か助けてくれぇ!!!!」 彼の隣の1人転がる者の更に隣で転がる小男が。 「こりゃ、何だよぉぉぉっ」 口だけきける小男で、視界は塞がれている。 何かに身体も拘束されている様で。 転がりながらもがいて助けを繰り返して叫ぶも。 突如、丈の高い草の生い茂る辺りの暗闇で何かが動いた。 張り付く様な勢いにて、黒い何かが彼等の顔を完全に覆う。 モゴモゴして暴れて居る男達は、このままどうなるのか……。 * さて、また森の中で起きる朝だ。 「ん〜〜〜っ。 何事も無かったな」 起きたルヴィアは、小さく独り言を言って辺りを見る。 東より薄ら陽射しが届き始めた早朝。 一緒に一夜を過ごしたエンゼリアの狩人の親子も並んで寝袋にて寝ている。 その少し離れた所では、ミカーナとシャンティが同じく寝袋にて寝ている。 Kも荷物を枕に寝ていて、起きているのは焚き火の前のオリヴェッティだ。 (襲撃を予想していたが。 どうやらKのお陰でやり過ごせたらしいな…) 仲間内でも気を引き締めたつもりだった。 然し、何事も無く、熟睡も出来ずの起床だ。 先に起きて、火の番をしていたオリヴェッティとリュリュ。 リルマがもっと早くに起きて、果物を探したいと訴えたとか。 ルヴィアが起きたので、リュリュが一緒に行くと言った。 1人で起きていたオリヴェッティの横にルヴィアが来て。 「心配は、取り越し苦労だったな」 「はい。 でも、リュリュ君とリルちゃんの様子を見て来ないと」 「そうか。 あの2人の食糧で、我々全員の倍だからな」 「ケイさんの苦労が解りますわ」 立ち上がるオリヴェッティは、何か話しているリュリュの方へ。 リルマが自分でも木の実を探すので、合流するやオリヴェッティは荷物持ちの様に成る。 Kの分も取ると、皆の分もと、頑張るリルマは食べられる物を探すのがとても上手い。 この野生の森で生きる術を母親から教えられて居たらしい。 で、朝に起きたKは、野葡萄の房を3つも出され。 「1つでイイぞ」 「あ〜う?」 すると、素早くリュリュが2房を奪い取る。 「リルちゃん、半分こー」 「あうあわぁ?」 酸っぱい野葡萄と、甘い花の蜜を集める虫から取って来た蜜塊。 それに加えて、生でも食べられる山菜すらリルマは探していた。 蜜塊を削って紅茶に溶かすウォルターやルヴィア。 野菜のスープのお供に野葡萄を食べるビハインツやクラウザー。 狩人の親子に野葡萄を渡せば、向こうからも食材の提供を受けて。 「我々は、明日に郷へ帰りますから、どうぞ」 「昨夜は、不安が多かったので。 一緒は、助かったよ」 陽射しが少し上がり、森の樹冠を照らす頃。 食事が終わって、エンゼリアの親子と別れるオリヴェッティやK達。 「お元気で〜」 手を振る娘へ、リュリュやビハインツが大仰にして返した。 さて、Kやオリヴェッティ達は、目指すエリンデリンの街へと街道を行く。 一方の狩人の親子は、何かもう少し採取して帰ろうと森に入った。 だが、果物や薬草を探すこと少しして、仄かに漂って来る血生臭ささを嗅いだ。 その出処を探すうちに、とんでもないモノを目にする。 先ず、腐臭がするとその臭いの出処を探せば、骨まで噛み砕かれて食い散らかされた人間の遺体と。 骨で形を残す人間の遺体を見付けた。 先に、骨まで食い散らかされた遺体を見た狩人の父親が。 「このフン、残された毛は、肉食獣の〘リョヒュータ〙だ。 然も、残された足跡や尿のされた場所を探るに、何匹も集まって居たらしい。 あの獣が、まさか群れて狩りをしたのか?」 一方で、骨がそのまま人型で残る遺体を見た娘の方からも。 「お父さん。 こっちの人は、ゴキブリの〘テクティン〙に襲われたみたい。 ホラ、まだ50匹以上も骨に残ってる」 双方の遺体を見た狩人の父親は、この様子が全く理解(げ)せないと。 「然し、良く解らないな。 どうしてこの者達は襲われた? 獣のリョヒュータは、人を襲うとすれば子供だけだ。 自身の身体より大きな者は襲われないし、群れて狩りを行う事は全く無い筈だ。 それに、この頭蓋骨からして、大人の男性が襲われた様だが。 そっちの骨も、かなり大きな体格の男性が襲われたらしい。 然し、あのテクティンが大群となるまで群れるだと? 解らない、私にはこの遺体がどうして出来たのか解らない」 まだ頭蓋骨内や骨の内側に残る肉片を食い荒らす昆虫のテクティン。 親子が骨を覗いて光の差し込みが変わると、身の危険を感じてか素早く動くも。 また、直ぐに残りモノを漁る為に戻る。 娘は、父親の狩りを行う事に普段から同行するのか、遺体に出会う事には少し馴れて居る様だが。 相手が人となると怯えていて。 「ね、お・お父さん。 この人達って、誰なの・・かな」 散らかされた衣服や武器から父親は察しが付く。 「恐らく、この辺りまで来る悪党達だろう。 この先の集落は、少し前に皆殺しにされたとか。 その集落を根城にしていた。 恐らく、そうに違いない」 悪党と聴いて、娘は周りを見ながら。 「お、お父さん、かえろ、帰ろうよ。 ね?」 若い娘のエンゼリアだ。 悪党達に見つかれば、自分が狙われるのは解っている。 例え遺体を見ても、これまでの横行した悪事の恐怖は消えない。 それほどに、悪党達はこの辺りまで来ては、悪行を重ねて来たのだ。 森の彼処此方で彷徨う不死モンスターの存在が、その行為の多さを物語る。 娘の話す言葉が不自然となり、父親も彼女の恐怖を慮って頷く。 「そうだな。 今回は、このまま帰ろう。 高値で売れそうなモノは、幾らか採れた」 大切な者を危ない事に巻き込みたくないとする父親で、娘の意見を受け入れた。 だが、もし、だ。 この時、この親子がもう少し先まで行っていたら……。 悪魔と言われた男に関わる時、悪党はどうしようも成らずに死へ誘われる。 その実態を目の当たりにしていただろう……。 さて、見る者達を代えて。 街道となる道を行くオリヴェッティ達。 本日も緑だらけの森の中を行く。 亜種人達の行商人とすれ違うのを皮切りに、冒険者の一団だの、荷馬車を率いる商人ともすれ違う様になった。 歩きながらリルマが頭に花を飾り。 皆に見せては喜ぶ。 「ふむ。 やはり亜種人としても心は女子、娘よな。 装飾の気持ちは持ち合わせるか。 真、純なものよな」 ウォルターが言うと、彼女から花を貰ったルヴィアが。 「私も・・か?」 「らしいの。 オリヴェッティにも渡したのだ、同じ事よ」 化粧はあまりしないルヴィアで。 仕方なく花を耳に差す。 「フッ。 容姿が良いのは、得よな。 似合っているぞ」 「茶化さないで貰いたい」 だが、ルヴィアを見てリルマも笑って頷く。 先頭を行くKと並ぶのは、シャンティとミカーナだ。 だが、ミカーナは、昨日の事が在るからか、本日もどことなく警戒はしている。 「ケイさん。 まだ、悪い人はいっぱい居るのでしょうか」 シャンティは、そこまで警戒は見せず。 「でも、暗黒街は潰されたって」 2人を左右にして歩くKは、すれ違う亜種人からの視線の方が時に痛いと思いながら。 「全く居ない訳じゃねぇ〜が。 かなり少数となってるだろうよ。 この辺りは、他の集落も森の中に点在しているし。 昨日のあの岩が目立った所を襲撃もして来なかった。 集団の頭数が減っている証拠だ。 次第に悪党もこの森林の中ですら居場所が無くなり。 その内、この森には居れなくなる。 悪党共の街は、全て半壊か、壊滅。 また、旧街道の方は、斡旋所を仕切る冒険者協力会や魔法学院自治領政府が後見となり。 半島3国自治領政府や亜種人達との交流も増す。 半年くらいすれば、モンスターの脅威は残っても、悪党の脅威はほぼ無くなるだろう」 「そうですか。 はぁ、良かったぁ」 安堵するミカーナ。 シャンティも頷いた。 この後、ビハインツとルヴィアとウォルターが並んで話すとなり。 疑問が浮かんでは、2人を呼ぶ。 呼ばれてミカーナやシャンティが後ろに下がる。 すると、それに代わって歩くKと並ぶクラウザーで。 「なぁ、カラス」 「ん?」 「このまますんなり、その亜種人の街とやらへ行けるか、な」 「さぁ。 先ず、それより、何よりもよ。 リルマとリュリュの食い物が何処まで続くか……」 「ははは、それは1番の頭痛の種だ」 歩くKは、もう降り掛かる面倒は要らないと。 「これだけ色々と巻き込まれれば、後はもうイイぜ。 街まですんなり行って欲しいな」 「確かに、な」 語るその視界の中で。 通りすがりの冒険者チームに人間の女性が居て。 前へ、前へと歩くリルマとオリヴェッティと一緒になり前へ出たリュリュの美少年たる見た目に惹かれて。 「あら、綺麗な子……」 と、すれ違う中で見詰め合う。 コレに、人間の男性となる大柄なムサイ髭面が。 「おいおい、これから仕事だぞ」 と言えば、仲間のエルフの女性も反応し。 「そ、お金があンまり無いンだからね。 現を抜かさないで」 「悪党を捕まえて、お金を得るんだ。 気を引き締めないと」 7人程のチームは、肉体派の者が多く見える。 此方を見て来た若い女性が後ろ髪を惹かれて見てくるや。 その彼女へ手を振るリュリュで。 この先を心配するのは、Kだけじゃ無いだろう。 その様子を見るクラウザーより。 「カラス。 あの子の事は、何時まで皆に隠すか」 「まぁ、もう少し、な。 ビハインツやルヴィアの精神が一皮剥ければ、何を話しても構わない。 あの2人も、色々と成長しているし、な」 「話さざる得ない・・か」 「あの2人は、リュリュの超強力な精霊の力をまだ理解が出来て居ない。 だから、解る者ほどに驚かないのさ。 それを少しでも解れば、話さずには居れなくなる」 「なるほど…」 話す2人で、話し掛けられて下がったミカーナやシャンティは、ビハインツやルヴィアと話している。 長閑な旅が、また・・と思うが。 そして、新たな異変は午後にやって来た。 午前でも陽射しが上から入る様になれば、亜種人達と良く擦れ違う様になると。 やはり疑われたり、話を聴かれる。 どうやら逃げ出した女性や子供達を保護して、集落や街まで送る依頼が増えている様だ。 また、調査依頼や悪党の残党を狩る依頼に加え、モンスター討伐の依頼にも動きが出ているらしい。 反面、話し合いともなれば情報も貰える訳で。 中でも、“集落”や“郷”と呼ばれる固定の亜種人のみが住み暮らす場所を回って行商する移動商人で。 小柄となるホビット種族と〘ノーメン〙と呼ばれた小鬼の様な小型亜種人の一団と擦れ違がった時だ。 「おいおい、ミロ、ミてみろ。 ヒトが、ヒトタチが亜種人を連れてるゾ」 「いやいや、同行だろうよ。 多分はサァー」 大型となる三本角の犀を4頭も連れて。 3台の荷馬車を率いている10人程の亜種人達の一団が声を出して言い合う。 然も、真横に荷馬車を横付けされて、だ。 まぁ、とてつもなく珍しいシュワイェットの子供まで連れているので。 「いやっ、あの服装をミロ。 怪しいゾ」 マントを衣服にするミカーナをあからさまに指を差されて言われる訳で。 苦笑いのオリヴェッティとミカーナやシャンティが掛け合う。 リルマに色々と話し掛けられるKは、1人だけ古代語を話せるので、彼女の質問に答えるのだが……。 「なぬっ、御主達は、助けられたのカー」 「おっ、おぉっ?! あれを見ろっ、見ろっ!」 「なっ、ナントーっ! あの包帯オトコっ、古代語でシュワイェットと会話してるゾ」 「ナニモノだァー、テンサイカァー」 明らかに人売では無い様子は理解して貰えたのだが。 代わって、こんな話をされる。 「亜種人を助けたユウノーな冒険者達よォ。 この先の別れ道を左へオレるのダー」 「その通り、その通り! 真っ直ぐ行くと、森のナカを行く大街道に当たるが。 いま、あの辺はトテモ、とっても危なぁーーい」 「その通りである。 恐ろしいモンスターが夜な夜なに現れ、通る者を襲うノダー」 有益な情報を貰って、先を行く。 比較的、森の木々の下が開けている中を通る街道を進む。 雑草が少なく、薄暗い森が何となくある程度の先まで見通せる。 すると今度は、リザードマンとサハギンの行商人の1団と出会す。 「ニンゲェンよ。 我々の仲間となる森の民を保護したのか?」 やはり、逃げ出した亜種人の女性や子供の事が情報として伝わっているらしい。 此方を見て、今度はこう判断される。 まぁ、奴隷や売り物として捕まえた者を連れて堂々と街道を連れては行かないだろう。 何で、怪しまれるのか、それがこれまでの悪党に因る面倒の経過を物語るのだろうか。 行く道の事を尋ねると、リザードマンの女性より。 「ブンキを左に行くのは、本当に正しい判断だわね。 だけど、実はチョット心配も在るのよ」 何事か、オリヴェッティとルヴィアが見合い。 対話の前に出るシャンティが。 「心配・・ですか?」 「そうなの、エルフのお嬢さん」 これに、別の話し方がとても流暢なサハギンの女性より。 「先程の事よ。 モンスター退治を請け負ったと云う森の民のチームが、危ない森は何処かと私達に聴いてきたのよ。 でも、道を真っ直ぐ行った先の森の中に在るドークツは、とてつもなく危ないアンデットモンスターが居るみたい」 頷くリザードマンの女性も、心配している素振りの中に何処か怖がる様子を見せて来て。 「前には、8人ぐらいの冒険者達が退治の依頼を請けて、返り討ちにされたとか。 戻れた者は、2人。 他は、死んだって……」 これに、馬車を操る男性のサハギンからも。 「心配だな。 返り討ちに遭わないか」 女性のサハギンも森を見て。 「あのエルフ達は、ダイジョウブか。 何だか心配なのよ」 「そう、たった4人だ。 余程、実力が無いと……」 エルフと聴いたシャンティは、ミカーナと見合って心配する。 「あの辺りって、前から危険って言われてたよね」 「はい。 半年以上前から、通行止めって……」 この亜種人の行商人達と別れてから、シャンティとミカーナの顔が沈んだ。 その心配を察して余るオリヴェッティは、Kへ向いて。 「ケイさん。 あの・・お願い出来ませんか? 様子を観るだけでも……」 “様子観” それはつまり、助けると云う事と変わらない。 「はっ、言い方が回りくどいな」 この事態は、ビハインツでも解るぐらいの事。 「でも、危機に成ってたら、助けるンじゃないか?」 半目となるKで。 「だァ〜か〜ら、そう言ってるンだよ」 身体を動かせるので、やる気となるリュリュだから。 「ケイさんっ、行こ行こっ!」 仕方ないと思うのは、寧ろKの方だ。 「まぁ、それも仕方ないだろうさ。 直進した森の方が、匂いからして果実を付ける木々が多く含まれる森が広がってる。 底を尽く食糧を増やす為には、向こうに行った方が良い」 すると、エルフのシャンティが。 「私もっ、戦います! こんな高価な指輪の発動体を借りてますから」 この彼女が指にする魔法発動体となる指輪は、アラ=ファクトの首領だったカバンダスの持っていた指輪の1つだ。 誰から奪ったか、宝石に彫り込まれた魔法文字を装飾と勘違いしたのだろう。 とても高価な発動体で、魔法が遣えるのだからと護身用に貸したのだ。 この様子に、ミカーナもオリヴェッティより前のステッキを借りて居るからか。 「精霊魔法ならば、私も出来ます! お願いします、助太刀して下さいっ! あの辺のモンスターを倒せば、必ず高額の報酬が出されます。 本当に、多くの被害が出ていますから」 頭を下げるミカーナに、合わせるシャンティ。 すると、リルマも見てから2人に並び、真似る様に頭を下げる。 何処まで話を理解が出来ているのか、それは解らない。 だが、何となく気持ちは理解した様だ。 もう自分以外の総意に近いと感じて歩き出すK。 「遣るなら早くするぞ。 もう午後だ。 日暮れまでに済ませる方が良い。 この森の中だと夜に成れば、更にモンスターを呼ぶ可能性が有るからな」 皆、Kと一緒に前へ。 別れ道を直進すると、また少しずつ森の下まで薮が見える様になる。 急に、亜種人の通る姿が全く見えなく成った。 そして、 「あ、魔法が」 「うむ、精霊魔法か、自然魔法の波動だ」 オリヴェッティとウォルターが言う時。 歩くKは、先を眺め。 「誰か、不死モンスターと戦っているな」 この判断を聴いて、オリヴェッティが咄嗟に。 「様子を窺いに行きましょう」 と、言う。 また面倒事を抱える気がするKだが、この先の森は果物等が豊富と匂いで解って居るし。 また、戦う相手が誰か、それを確かめたく。 「サッサと終わらせるぞ」 と、消えた。 「あっ、ケイさぁんっ、待ってよぉ」 消えたKで、リュリュが後を追って飛ぶ。 残されたリルマがKを探してキョロキョロし、それを見て抱き抱えたオリヴェッティも早足となり。 「私達も行きましょうっ。 ルヴィア、私とシャンティさん達を守りますよ」 「無論だ」 女性2人とシャンティとKの存在で、ミカーナとリルマは心を許してくれた。 姉妹の様に仲良くなり始めて、リルマを亜種人の2人が守っての道中も意志の疎通は良い。 その様子を壊したくないのが、オリヴェッティ達の総意に近いモノと成っていた。 魔法の波動を感じて向かうは、道の先の左右に分かれ道となる先の森の中。 先頭となるビハインツが揺れ動く木々が見える森の中の開けた所に出れば。 「うわっ、スケルトン?」 赤黒く汚れた骨格に黒いオーラを放つ大きな大きなスケルトンが、誰かを探すかの様に四つん這いで居た。 「ビハインツっ! そいつは骸の不死モンスターの〘レァノイ=スケツォ〙。 全員で当たり、頭部の中の核を壊せっ」 声だけのKに、 「け、ケイっ! あんたはっ?」 声を上げて聞き返すビハインツ。 すると、風を纏ってリュリュが来た。 左右の腕に金髪と銀髪の誰かを抱えて居て。 「ビハツーの兄ちゃんっ! 凄いいっぱいのモンスターだよぉ! エルフの人が何人も怪我してるみたいぃぃ!!」 「くわっ、なんじゃそりぁ!!」 家並みに大きなスケルトンの手がビハインツを狙う。 「うぉっ!」 逃げるビハインツは、来た方の森へ。 「みんなっ、不死モンスターだぁ!! デカいスケルトンが暴れてるぞ!」 オーラでモンスターの気配は察して居たオリヴェッティやウォルターだが。 ビハインツを狙って動く大きなスケルトンには驚いて。 クラウザーが前に出るや。 「な、何だっ、あのスケルトンはっ」 そこにリュリュが来て。 「オネェさぁ〜ん、この人達をなんとかしてぇ。 僕がビハツーの兄ちゃんを助けるよぉ」 金髪と銀髪の人物を持ってくるリュリュで、ルヴィアとクラウザーが2人を受け取る。 1人は、気絶した美男のエルフ。 もう1人は、銀髪の色白となる亜種人族の女性となる誰かだ。 美男のエルフは、金属の胸当てやら服装や装備から狩人と思え。 軽鎧を上に着た銀髪の人物は、これまた美人で装備からして剣士と思える。 「怪我人か」 「らしい」 そこに来たシャンティは、 「あっ。 この男性のエルフの方は、エリンデリンに住む方です。 私、見た事の在る方です」 と、エルフの男性を揺すり起こす。 「だれ・だ?」 「私は、エルフの里に住む者です。 このモンスターは? 一体、どうされたのですか?」 「むっ、むぅぅ…」 クラウザーの腕から身を起こす彼は、傷で薄い血の流れた片目を潰しながら。 「アンデ、ットだ。 この辺りに、急に……。 妻、妻と母がっ」 この間、自由と成ったリュリュが風の魔法で大きなスケルトンを圧倒する。 オリヴェッティも風の魔法で動きを牽制。 疾風の刃となる魔法でスケルトンの頭蓋骨が砕けた時に、聖水を掛けたハンドマチェットを投げ飛ばしたビハインツ。 黒く大きな核の中に2振りのハンドマチェットが飛び込み。 『グアアァァァァァァァァァァァァァァァっ!!!!!』 巨体の獣の様な咆哮が木霊して、スケルトンの身体がバラバラと崩れる。 これに合わせ、 『はっ!』 オリヴェッティからウォルターに、ミカーナやシャンティやリルマ。 そして、驚くエルフの男性も合わせて森の奥を見た。 凄まじいオーラが迸ったのだ。 着地するリュリュがはしゃぎ。 「うひょおっ、ケイさんやってるぅぅ」 何が起こったのか。 暗黒のオーラが凝縮して強く強く集まる方向で、そのオーラの一部が消し飛ぶ様に掻き消えた。 大型となるモンスターは消えて、後はスケルトンやゴーストや肉食のモンスターになる植物を倒すオリヴェッティ達。 そこへ、Kは洞窟から戻って来た。 金髪の長い女性を2人担いで来て。 「おーい、このエルフは、何処の誰だ?」 様子を視る為、オリヴェッティが洞窟の近くにリュリュと来ていて。 「エリンデリンの街で、根卸しとなる方々だそうです」 「ふん、力量に見合わない依頼でも請けたってか」 仲間の元に連れて来ると、見てからに若々しく愛らしさの溢れる美少女の様な金髪のエルフの女性と。 成熟した大人で極上の美人となるエルフの女性2人が連れて来られた。 「エリーザっ。 母さんっ」 エルフの男性が身体を引き摺って縋り付くや。 「気を失ってるだけだ。 強力なゴーストモンスターの放った暗黒魔法に、神聖魔法か自然魔法でも当てて反発した衝撃を喰らったらしい。 まぁ、水でも掛けりゃぁ〜直ぐに眼を覚ますさ」 酷い物言いに、もうモンスターは倒したと剣を収めたルヴィアが怒り。 「ケイっ、言い方が在るだろうがっ」 「ふん。 死んでねぇからいいだろうよ」 こう言ったKは、踵を返し。 「さて、もう少し洞窟の中のモンスターを駆逐するか。 見えているモンスターぐらいは倒さないと、また直ぐに外へ出て来やがるゼ。 俺たちが、餌だ」 これにリュリュが反応して。 「はぃ、はい! 僕もっ、僕もぉ〜〜」 「解った解った、好きにしろ」 「やったぁーーーっ」 そんなリュリュを見るエルフの男性は、間近に居るルヴィアの手を掴み。 「お、おいっ」 「な、何だ?」 「あの風を呼吸の様に使う少年は、一体ぃ、何者だ? あんな事は、人でも、亜種人でも出来ないぞ」 「あ、いや・・良く解らない」 「解らない? バカな、精霊神様が現れたのか? あんな、あんな純粋な風の力は………」 事情を知るクラウザーで、呆れた顔を横にして。 (バレるのも時間の問題か) 助けた者の介抱をするオリヴェッティ達と、洞窟へ入ってモンスターを駆逐するKとリュリュ。 気になるリルマは、トコトコと歩きながら何度も洞窟の入口から中を覗く。 時にリルマが声を出しながら空を蹴ったり、殴ったり、Kとリュリュを応援しているらしい。 付き合うミカーナも心配するが、迸る凄まじいオーラはKとリュリュのモノで。 怖い暗黒のオーラはみるみると縮小する様子に、勝っていると感じて微笑み合う少女の2人。 夕暮れとなり少し森が暗くなると、Kとリュリュが洞窟より出て来て。 リルマがKを見て何か言えば、Kが何か言って返すとニッコリ笑った。 モンスターを駆逐した手前か、今日は此処で野営する事に。 洞窟のモンスターを見える範囲で殲滅したので、返って安全と思えた。 介抱して目覚めたエルフの3人は、本人達の話からして家族だ。 そして、銀髪の女性はエンゼリシュアのハーフとなる人物。 この4人が一緒となるチームだった。 助けた見返りか、事情を話せば食糧は有ると向こうから提供して貰った。 彼等が狩猟した鹿の保存肉が多めに有るとか。 彼等の治療だとか、放り投げた荷物を拾ったりし。 香草や木の実を適当に探せば夜となり。 火を熾し、皆で分け与えての食事をする用意をしながら、お互いの事の話し合いと成った。 リルマやミカーナの足に残る傷、動く事でぶり返す傷も、魔法で癒した愛らしい20歳前後の見た目となる美女エルフより。 「私は、エルフのエリーザです。 助けて頂き、誠にありがとうございます」 対応するオリヴェッティやルヴィアで。 ルヴィアは、彼女が神聖魔法を遣って夫の傷からミカーナやリルマの怪我を治療したの見ていたので。 「其方、神聖魔法を遣えるのだな」 「はい。 自然の神を信仰しておりまして。 自然魔法と神聖魔法を扱えます」 「だが、どうしてこの洞窟のモンスターを退治に? まさか、周囲の集落にまで被害が?」 「その通りです。 悪い方々の為した事の所為で、この洞窟の中で不死モンスターが生まれまして。 少し前、狩りをするために通り掛かった友人を殺害したのです」 「その仇討ちか」 「夫の友人でも在る方だったので、義母と相談もした上でエリンデリンの斡旋所に掛け合い、浄化の依頼を請けたのです」 薪となる倒木に、可燃油を少しばかり染み込ませるKより。 「随分と腕の違った依頼を請けたモンだな。 あのモンスターの数や質は、それなりの名うてのチームに回さないと不味い域。 気持ちの強さと、実際の現実と云う実情は違う。 調査結果を報告する処から遣った方が良かったぞ」 「あ、はい…」 腕前の云々より、数がとても足らないと感じたクラウザーも。 「魔法が扱えるにしても、たった4人とは少し無謀だ。 もう少し、頭数を増やせなかったか?」 すると、男性のエルフであるケルビンより。 「済まない。 急がせたのは、私なのだ。 親を無くした少年が、敵討ちを焦っていて。 早く手を付けなければ、彼が暴走しそうだったのだ」 また、エリーザも。 「今、エリンデリンの斡旋所では、とても依頼が増えています。 暗黒街の悪い方々が消えたとかで、その確認とか。 保護された私達、エルフやエンゼリア等、其方の言い方で亜種人と呼ばれる方々の女性や子供を護衛・護送する依頼が幾つも作られ。 前々から残る難しい依頼は、誰も見向きをしないのです」 容姿の幾らかが人と近いエンゼリシュアのタリエは、とても魅惑的な低音の声音にて。 「募ってはみたのよ。 でも、新たなチームの結成が活気づいて、人が集まらなかったわ」 なるほどと、オリヴェッティ達も理解した。 ケルビンは、シャンティやミカーナやリルマを見て。 「然し、人の旅人がこの辺りに来る理由は、このエルフやエンゼリアの少女に在るのか?」 これに、シャンティやオリヴェッティが代わって話をした。 すると、エリーザやケルビンが感心し。 「保護してくれたのか。 街まで送り届けようとは、何と感心な…」 「まぁ。 それはお優しい事を…。 素晴らしい行いですわね」 大人びたエルフの女性となるクリーミアは、まだ少し警戒をしているものの。 「然し、シュワイェット種族の子供まで捕らえるとは…。 何とも、人は悪辣よの」 母親が居なくなり、一人ぼっちとなるリルマだ。 頷くKは、そんなクリーミアへ。 「確かに、だな。 然し、現実としての問題は、今より先だ。 この一人ぼっちとなった娘をどうしたら良いか、な」 「ふむ。 それは、此方に預けて貰いたい。 自然より離れれば、この娘は死んでしまう。 亜種人だけが住む事を許された郷が森の中に在るから、そこに預けると良い」 「エリンデリンに着いた後は、その事を頼めるか?」 「無論。 お主達、人間の面倒を看るより容易い」 人に対する嫌悪の感情が会話に滲むクリーミアだが。 会話するKは何とも思わないのか。 「ならば、後を頼む」 「助けて貰った上に、依頼のモンスターも討伐もして貰ったからの。 それについては、森の民の1人として任せて貰おう。 必ず、郷へ連れて行く」 先の話に1つの問題へ片が付いたと頷くKは、リルマが寄り添って居るので。 「良かったな。 お前の生きる場所が見つかりそうだ」 リルマは肉も美味しそうに食べる。 しっかり焼けば骨までガリガリと齧るので、かなり頑丈な歯をしている。 ルヴィアとオリヴェッティの間に居るミカーナも。 「もしかしたら、私もそこに行くかも知れません。 叔母が、そこに住んでますので……」 「そうか」 此処で、言葉を止めたK。 “1人でないのは、小さくとも救いになる” こう思う反面。 そうなるとした場合は、ミカーナには悲しい現実が来た事を示す。 口にするのは悪いと、彼なりの配慮をした。 かなりの大怪我をしたらしいミカーナの父親。 あの魔人の学者チュタンダ老人の話では、まだ存命だったが。 もし、傷が深ければ、娘を失ったと思い込んでいる今は、かなり危険な状態である事に変わりは無い。 神殿も多い街だから、手当はされて休養していると思って居るものの。 ミカーナも、心のどこかで最悪の事を想定しているらしい。 そんな事を解らないからか、笑って茹でた干し肉を食べるリュリュで。 「ひとりじゃないなら、良かったねぇー」 リルマを見るオリヴェッティやルヴィアは、素直に頷いた。 さて、新たな細い木を熾きに捩じ込むKより。 「処で、話は少し変わるが」 こう言うと、助けた4人がKを見る。 「この辺りの森に隠れた洞窟は、みんなあんな感じか? 俺達は、海旅族の遺跡を巡る旅で迷宮“ロド=イマナフ”に行くつもりだ」 この返答に、3人のエルフとエンゼリシュアのタリエに、シャンティも驚く。 ロートーンの声がとても甘やかに、艶やかとなるエンゼリシュアのタリエが身を前に乗り出して。 「それはダメだ、止めてくれ。 命の恩人となる貴方々を失いたくない。 あの迷宮は、地獄へ通じる場所だわ」 クリーミアも頷く。 「バカな事を考えるのは辞めよ。 ロド=イマナフに、お前たちが望む様な財宝など無いぞ」 するとオリヴェッティから、これまでの旅が手短と語られるや。 驚いたエリーザがKを見て尊敬を込める様子を現し。 「嗚呼っ。 貴方様は、神の如き知識や経験を有した万能者なのですね。 もう、北の聖地を巡られたとは………」 夫のケルビンも驚きしか無いらしい。 「歴史の海に沈んだ古代神殿の1つを発見していたのか。 なるほど、ロド=イマナフに行くと言うだけ在る」 だが、Kはそれよりも。 「俺は、過去にもロド=イマナフに行った事は在る。 だが、あの辺の大穴ならば、不死モンスターに支配されていても解るが。 亜種人のお宅らが居るこの辺りの洞窟もあそこまで呪われるなんてな。 やはり、これも悪党達の仕業ってか?」 すると、クリーミアが少し俯き。 「それはそうだが……。 全て、人間が悪いとは言い切れぬ」 ウォルターは、それは聞き捨てならないと。 「他に、不死モンスターが生まれる原因が在ると云う事、なのかな?」 「そうだ。 この場は、古く昔より悪事が行われたり。 また、モンスターが潜む事で亜種人の民が殺められる様に成ってしまった経緯が在る。 そして、それを助長したのは、人の悪人だけでは無いと云う事だ」 「と、言われると?」 「最近の事を云うだけでも。 我々エルフ、その他の亜種人も、人と同じく心が在る。 その為、極小数なれども、悪辣な人間に同調する者が居るのは、嘆かわしいが認めるしかない。 そうした者は、悪しき人間に隠れ家の代わりとなる潜伏場所を教えたりする。 それが、ああした洞窟や巨木の虚だ。 悪辣な人間や亜種人は、狩人や薬師の者を拐し。 その者を遣って高額となる物を狙って採取などをする。 その時、女性の者はそのまま連れ攫われ。 男ならば奴隷か、殺される」 この話へKが入り。 「だが、あの洞窟の中の呪われた様子からして、それだけに使われていた訳じゃ無いだろ?」 「ん。 ああした洞窟は、我々の遣う道、大道(街道)と近い。 襲撃の時、悪事を働く時、逃げ込める場所として使われ。 時には、追手となるこちら側と戦う場所とも…。 多くの人、亜種人の民が亡くなって居るしの。 また古き昔は、強行的な意思に染まった同胞の者により、暗黒の魔法陣を描かれた事も…」 この物言いでは、ビハインツやルヴィアは意味が解らない。 「強行的な意思とは?」 ビハインツが問えば、ルヴィアも。 「亜種人の民が行うとは思えない。 それは、唆した人が?」 この質問が出ると、Kから軽い苦笑いと共に。 「それだけじゃ無いって事だ」 「ん?」 「へぇ?」 「人の支配を嫌ったり。 また、今の現状の安寧を詰まらないと、領土を広げようとした亜種人も過去には居たのさ。 モンスターが潜み、多くの生き物が殺された場所には、ヘイトスポットが出来やすい。 そうした場所を利用して、時の権力や人口と言える数の圧力を跳ね除けようとし。 その力を解り易い、暗黒の魔法に頼んだのさ」 Kの解釈に、クリーミアが俯く。 「人が悪事に向かう時、知的か、暴力的か、どちらかの解り易い方向へ向かう。 それは、我々と云う亜種人も同じだ。 支配が安定するとしても、大きく変化を望む者も居るとすれば。 その変革の為には圧倒的な力を望む。 実力行使をするとすれば、暗黒の力は完全なる破壊と滅びの力。 平穏の中を安定させる力とは真逆となるから、変革を望む者には魅力的な力となり。 暴力や悪知恵にも繋がり易い。 その後の始末は、みな周りがしなければ成らぬのに、な。 本当に被害しか産まない力なのだ」 苦々しくも在り、情けないと云う感情を込めて彼女が語るだけ、古くより色々と有った場所と解ったK。 「既に、呪いの土壌が洞窟の中に刻まれてたって訳か。 通りで、自然と強力なヘイトスポットが出来上がってた訳だ」 「それに、最近はこの辺りまで、鮫鷹やヘノイファング。 また、ロトン=ブレッカがこの辺りにまで来る。 時に多くの我々の同胞が殺されたりして、血肉の臭いが海側までするからだ」 「どいつも、海上に点在する島に巣食う、飛来するモンスターだな?」 そこに、またタリエが入り。 「最近も、湾岸に近い森の集落へそのモンスターの群れが襲来したの。 周りの集落と協力して駆逐はしたけれど。 被害もそれなりに大きかったわ」 本当に困った顔のケルビンも頭を抱えて。 「そうしたモンスターの一部が、此処からずっと北西の大きな洞窟に住み着き始めた。 何万と成る前に駆逐しようと費用を募っているんだが。 商人の方が金を出し渋ってる」 同じく頷くエリーザで。 「被害が限定的だもの。 この辺りまで来る商人さんの被害は、とっても少ないからですわ。 また、多くの利益を見込んで来られる人の商人さんは、運ぶ時にしっかりと冒険者を雇いますし…」 この辺の情勢も聴けると、オリヴェッティも複雑な表情をする。 まぁ、自分に被害が及ばないならば、他人事と考えても不思議では無い。 処が、この会話の最中だ。 「・・・」 月も浮かぶ夜空に向いて突然、Kが立ち上がって北西の方角を見た。 同じく、其方を見たリルマが怯えてKにしがみつく。 異変を感じたクラウザーが鋭く。 「どうしたっ、カラス?」 立ち上がったKは、リルマをクリーミアの方へ押すまま。 「かなり遠くだが、何かの悲鳴が上がった」 「えっ?」 驚くオリヴェッティに、仲間たち。 だが、Kは周りの森も見渡すと。 「チッ。 もう少し駆逐が必要か」 Kの感じた悪いオーラを感じ始めたウォルターより。 「友よ。 彼処、此方、不死者の気配がするの」 「どうやら、不死モンスターが森を徘徊している。 遠くで誰ががそれの一部に襲われた様だが。 此方にも、少数の不死モンスターが来ているな」 この時、オリヴェッティはリーダーとして。 「ケイさん、遠くへ助けに行って下さい。 この場は、私達にお任せを」 言ったオリヴェッティを脇目にするK。 「リュリュ。 皆を守れ。 悪辣な悪党も来るならば、手加減はするな」 倒木の椅子から立ち上がるリュリュは、風の力を纏い。 「みぃーんな護るよっ!」 この時、Kは消えていた。 「はっ?」 「え?」 「まぁ?」 ケルビン、エリーザ、クリーミアが消えたKに驚く。 だが、オーラを察するオリヴェッティが。 「皆さん、戦う用意を!」 ウォルターも、モンスターの異質なオーラを感じて。 「友の事より、南から来る気配が危険だ。 どれ、健やかな夜の安眠の為、無粋なモンスターを迎え撃つとしようか」 と、優雅なポーズを決める。 その動きを真似るのはリュリュ・・・と、見様見真似の仕草となるリルマで。 「こら、真似るでない」 辞めさせるルヴィア。 亜種人に変な知識を与えるのは悪いと思って、だ。 迎え撃つ準備をして。 視界を確保する為、簡易的な松明も何本か立てる時。 身体が黒く明滅する阿鼻叫喚の苦悶に千変万化するゴーストが森から現れた。 自然神を信仰する僧侶でも在るエリーザは、そのゴーストを見て怯え。 「まぁっ、中級位のゴースト、〘ダフカルト=レフ〙!!」 クリーミアも指輪の発動体を触りながら。 「気を付けなさい。 アレは、強力な念動波を放つぞっ」 周囲の茂みが動くのを見たクラウザーが武器を構え。 「他も来たらしいぞ」 蒼翠のオーラを眩く発するリュリュは、ニタニタして。 「ケイさんがイイって言うから、暴れちゃうモンねぇぇっ!!!!!」 他に、スケルトンやゴースト。 大きく変貌した骸骨の大型モンスター。 そして、腐った血肉の塊となる肉玉の不死モンスターが現れた。 これに加えて、生き物の血肉を求める肉食の小型の猿の様な身体に、薄汚い牙の揃う口と云う外見の黒いモンスターも木の枝を伝って襲って来た。 〘ナルガリガ〙と呼ばれるこのモンスターは、不死モンスターの蠢きや血肉の臭いを纏うモンスターに密着して集まり。 そのモンスターが襲う獲物を共に襲って血肉を喰らうと云うモンスターだ。 1匹1匹はさ程に怖く無いと思われるが、何十、何百と群れられると鮫鷹と同じく恐ろしい敵となる。 数は多いモンスターを相手に、リュリュが大きな不死モンスターを風の魔法で蹴散らして行く。 自然魔法でオリヴェッティやシャンティが、魔想魔法でウォルターは、枝伝いに来る牙の生える口と猿の身体をした人の子供の大きさのモンスターのナルガリガを魔法で撃ち落とし。 ルヴィア、クラウザー、ビハインツがスケルトンやゴースト等を倒す中で、打ち漏らしのナルガリガにトドメを入れる。 協力するオリヴェッティ達に、エリーザとクリーミアが魔法で協力。 神聖魔法でスケルトンやゴーストなど不死モンスターを浄化するエリーザ。 自然魔法でナルガリガを討伐する事に協力するクリーミア。 弓の早撃ちで皆の危険を回避するケルビンは、自然魔法も織り込んで守りも行う。 そして、ミカーナやリルマを守るタリエ。 同行者となるエルフやエンゼリアの亜種人だが、中でも驚くのは、オリヴェッティから前に遣って居たステッキを借りたミカーナだ。 「炎の精霊さん、私を助けて。 ヒマワリさん、お願い」 今度は、炎の精霊〘火回り〙と言う植物を呼んで炎の礫を現し、自分とリルマを護るタリエの後ろから皆の補助をする。 自然に火をつけないように、焼きつかせても直ぐに消える様にする。 紅の焔で出来た花を顔とする植物の精霊ヒマワリ。 「コラコラコラコラぁぁっ、無礼なモンスターよ。 夜に騒がしいのだぁぁぁっ」 子供なんだか、老人なんだか解らない語りのヒマワリなる精霊だが。 ミカーナのお願いを聴いて、炎の小さい礫を次々と生み出す。 それを飛ばすミカーナは、少女にしても中々に良く制御していた。 近寄るゴーストやナルガリガを斬っては捨て、斬っては捨てるタリエは、精霊銀と言う金属の武器で魔法の加護が必要ないらしい。 そして、ルヴィアやビハインツとも引けを取らない技量が在る。 戦力の数が増える事は、やはり優位性を持つ。 魔法を撃てる者が増えて、群れるナルガリガがあっという間に数を減らす。 そして、やはり精霊の神の如き風の力を持つリュリュが居る事は心強い。 大型の不死モンスターをさっさと倒し。 オリヴェッティの補助に回れば、タリエやミカーナは戦わずに居れる。 また、自然魔法で風の力を遣う事も容易くした。 風と、時に大地の自然魔法を遣い、不死モンスターから小型のモンスターを寄せ付けなかったオリヴェッティ。 こうなれば、もう戦いは優勢のままに進んで行く。 肉食の大型ヘビのモンスターが来ても、相手に攻撃の機会を与えなかった。 倒されてピクピク動くナルガリガを蹴っ飛ばすリルマが、直ぐにタリエの背後に逃げる。 時にスケルトンへ小石を投げたりした彼女は、決してこの場から逃げずに精霊の応援をしたりする。 自然の精霊に近いシュワイェットの影響か、小型石像の様な姿の大地の精霊まで現れては、ミカーナの手助けをしてくれた。 その戦いは、差程の時は要さなかった。 少しモンスターの数は多かったが、怪我人も少ない。 頬にかすり傷のクラウザーとビハインツのみ。 僧侶でも在るエリーザがその怪我を診ていて。 「皆様は、とてもお強いのですね」 Kのお陰で磨かれた腕とビハインツが云うと。 「あの包帯をした方は、大丈夫でしょうか」 これに、辺のオーラを窺うウォルターより。 「友を心配するのは、無用の事よ。 向こうへ行く時に、此方へ来るモンスターも倒して居た。 何とも、配慮の出来る者よ」 リルマを抱くクリーミアは、美しいルヴィアに。 「お前達は、中々に強いな。 結束も強く、何れ名の轟くチームとなろう。 あの口の悪い包帯男も居れば、ロド=イマナフにも行けよう。 人間にも、強い娘が多くて心強い」 そう言ったそこへ。 「だが、些か気が強過ぎるンだ。 煩くて敵わない」 Kの声がした。 皆が声の方を見ると、ささやかな月明かりの中へ現れるKは、大きな槍と見紛う長いモノを持って来た。 「あの、ケイさん?」 「ケイ、それは?」 オリヴェッティとルヴィアから問われた。 自身の身長の倍近いその槍の様なモノを近場の木に寄り掛けた後。 皆の前、火の前に来たKは、倒木を椅子代わりにして座り。 「モンスターの角だ。 値の高い杖や武器の柄に使われる。 売れば、この角1つで2万シフォンは軽くする」 「えっ、に・2万っ?」 ビックリするビハインツは、その螺旋の溝が入る黒い角を近付いて眺めた。 驚くのは、クリーミアも同様で。 「その角・・まさか、一角の人喰い鬼、【プランパ=ニクル】が居たのか?」 消毒液を水で薄めたもので湿らせる布で手を拭うK。 「奴を久しぶりに見たが、フォレスト・ジャイアントが多くのモンスターに襲われて逃げて居た。 悲鳴と咆哮が同時に木霊した様に聴こえたが、あの森の巨人のモノとは…」 このKの話に、ケルビンやエリーザやタリエが同時にKを見て。 シャンティもKへ身を乗り出し。 「ジャイアントさんは助かったのですか?」 ミカーナも続けて。 「襲われていたのですか?」 「あぁ。 子供を護る為に、庇ったらしい両親が怪我をしたが。 あの程度ならば、差程の傷でもないだろう」 「はぁっ、良かったぁ」 「助かったぁ」 安堵するシャンティやミカーナ。 ケルビンやエリーザやタリエも頷く。 「良かった、これは良かった」 「はァ、何と素晴らしい事でしょう」 「戦って居たのが、ジャイアントとは。 然し、助かって良かったわ」 その様子に、首を傾げたくなるクラウザーで。 「その巨人が助かるのは、そんなに嬉しい事なのか?」 Kが熾きを弄って炭を開き、新たな倒木のざく切りを焼べながら。 「フォレスト・ジャイアントは、シュワイェット同様に精霊に近い存在だ。 巨人だが、オークやオウガやサイクロプスなどの悪鬼の仲間では無い。 森という植物と共に生み出されたモノで、森を育みながら森と共に生きる。 病気となる植物を摘み取り、地面に埋めて病気の蔓延を防いだり。 その身体から出るフンや尿は、植物にとても良い作用をする肥しだ。 フォレスト・ジャイアントの居る森は、永く悠久の時を繁栄し。 フォレスト・ジャイアントの消える森は、自然の精霊力も衰えると云う。 エルフ、エンゼリア、ドワーフなど森と共に生きる亜種人には、物静かな良き隣人なのさ」 あまりの博識な説明に、クリーミアは上から教える機会を失い。 エリーザは、自分達の事を良く知っていると嬉しく。 「貴方様は、何て博識な方なのでしょう。 その通りですわ」 だが、Kはその博識故に裏側も知る訳で…。 「俺達、人間はな。 特に、フォレスト・ジャイアントを虐げて来た。 何よりも、恩を仇で返した訳よ」 知識人としてウォルターが、その事実を知りたくなり。 「と、云うと?」 「神が手を貸す前、人と悪魔の戦いの際に。 天狼族。 石切蜂。 ハルピュイアやケライノーなどの鳥人族に合わせて、フォレスト・ジャイアントも人への見方してくれた。 神魔大戦の終わった後、悪魔の血、モンスターの血で穢れた大地には、この森のような植物が中々に生えなかったが。 少ない森で生きるフォレスト・ジャイアントは、人を含む全ての皆の為に森を増やした。 暗黒のオーラに染まった草木を排除して、新たな苗や種を植える事をして。 人やエルフや皆にその事を伝えた。 なのに、人は増えるとその森を奪った。 共に生きる事より、奪って独占する事を選んだ訳だ」 「なるほど、なるほどのぉ」 「俺がフォレスト・ジャイアントを助けたのも、少しは罪滅ぼしに成れば・・とな。 優しく穏やかで、恥ずかしがり屋の巨人なだけだ。 森を悪戯に破壊する様に傷付けない限り、攻撃されない限りは決して襲って来ない。 そんなフォレスト・ジャイアントすら、人は邪魔だと殺す。 神って奴は、何でこんな人間を作ったかね」 あまりに強烈な皮肉で、皆が黙った。 すると、リュリュがKに抱き着き。 「ケェイさぁんっ、意地悪だよぉぉっ」 「うるせぇな。 隠せない事実だ」 「でもぉ、ケイさんとか、オリヴェッティのお姉さんとかぁ、ビハツーのお兄ちゃんも、みんなみんな優しいじゃんっ!」 「煩ぇっ。 火を弄ってるから離れろ」 すると、少し泣きそうに困った顔のリルマもKに寄り添って顔を見上げて来る。 「・・・」 「何だ? 何で、俺を見る」 シャンティも、ミカーナも、悲しい顔でKを見る。 「ケイさんやオリヴェッティさん達が悪い訳ではナイです」 「悪い人が、悪いンです」 子供にバカ真面目な正論を言われ、過去の悪魔の様な所業をして来た事が思い返されるK。 つい最近も、何千と云う悪党を殺した自分だ。 「人間をあまり簡単に信用すんな。 悪く成った奴だって、生まれて来た時から悪い奴じゃなかった。 人は、お前たちより変わり易いぞ」 すると、リュリュとリルマが2人で泣きそうな顔でKに引っ付く。 「何だ、事実だろうが」 「ケェイさぁぁぁんっ、意地悪だぁよぉっ!」 「あ〜あぁおあーっ」 2人が引っ付き、離れなく成る。 「はぁぁぁぁ……」 面倒臭いと項垂れるKは、普段に無い珍しい姿の彼だ。 「随分と子供に懐かれたな、包帯男よ。 ま、そうして知識を広める輩も必要だ。 我々にとっては、特にな」 含み笑いするクリーミアが横目に言って来る。 何処か、悟る表情をしたクラウザーも。 「大きく変化したカラスよ。 お前が、それを体現しているじゃないか。 悪い側も、時に良い側へと変わる」 すると、急に真顔となり力むビハインツが。 「俺はっ、悪く成らんっ! 絶対に、だ」 これまたバカ真面目に云う彼が、余りに幼稚と見えたKだが。 「当然だ。 人の道を踏み外せば、滅びの道だ」 と、これまたまた真面目に返すルヴィア。 「はァ。 幸せな奴等だ………」 馬鹿らしく成って先に寝ようとするKに、リュリュとリルマが一緒に寝ると離れない。 奇妙なやり取りのまま、不貞寝するKの横にリュリュとリルマが寝る。 笑うクラウザーは、引退後のKの仕事が決まった様で。 「カラスよ。 冒険者を引退したら、子守が似合うぞ」 「うるせぇよ」 笑う皆。 火の番を決めて、皆が休む事になった。 その最中で、シャンティやミカーナと一緒に寝袋を並べるエリーザ。 「貴女達みたいな若い子供まで、捕まって居たのね。 助かって良かった、良かったですわね」 「エリーザさん、ありがとう」 「お姉さん、ありがとう」 その様子を見ているビハインツが、ちょっとした詰まらない事を想い。 「然し、エルフやエンゼリアって、本当に凄い美人だらけだなぁ。 人とはちょっと違うけど、綺麗だったり、可愛かったり…」 火の番となるルヴィアより。 「おい、内2人は子供だぞ」 「解ってるって。 てか、みんな若いだろ? ルヴィアも、オリヴェッティもさ」 すると、 「フッ。 フフフ…」 寝ているKが珍しくこんな話に加わって笑う。 「な、何だよケイ。 間違いか?」 すると、ゴロンとビハインツの方を向いたKで。 「あのな、エルフやエンゼリアの血を引く者は、ある年齢に差し掛かった時から見た目の老化が止まるンだよ」 「へっ?」 驚くビハインツは、エリーザやタリエやクリーミアを見た。 その目に気付く、最初の火の番を申し出たクリーミアが。 「何だ? その驚く顔は?」 だが、Kも悪戯心を擽られたのだろう。 ニヤッとしては。 「ビハインツよ。 あのエリーザは、見た目に反して50年ほど生きてるぞ。 エンゼリシュアのタリエは、30年程か。 それに比べて気位の高そうなそのネーサンは、100歳を軽く超えている」 「え? えっ? えぇっ?!」 年齢に驚くビハインツは、3人の美人を何度も見比べた。 顔を赤らめるエリーザで、とても恥ずかしそうに。 「まぁ、どうしてお解りに…。 何も言ってはいませんのに……」 中でも若いから来る余裕か、笑うタリエも魅惑的な声音で。 「これは、鋭い指摘だわ。 言い当てられた」 だが、怖い眼をするのはクリーミアで。 「貴様ぁっ! どうしてか、妾の年齢が何故に解る? 何をしたっ?」 腕枕で半目のKだが。 その眼は余裕をの悪戯心を保ち。 「俺は、この通りに色々と経験が豊富でな。 エルフの女は、年齢を重ねる毎に耳の後ろの…」 この時だ。 クリーミアが勢い良く立ち上がり。 「そこまでだっ! それ以上を言ってみろっ、魔法の的にしてくれようぞ!!」 完全に勝ち誇るKで。 「お〜〜怖い怖い。 怒る年増の女は、感情がトゲみたいに鋭くて怖いゼ」 事実でも、大して知りもしない、然も嫌いな人間から年増と呼ばれては、クリーミアもプライドを刺激されるのか。 「この口の悪い包帯男めがっ! わっ、妾を“年増”だとぉ?」 ニタニタと笑うKは、また向こう側に転がる。 そのKを盾にして、リルマがクリーミアを見て首を傾げた。 「たァーたぁ?」 そして、顔を上げたリュリュが。 「ケイさん。 あの人ってオネーサンじゃなくて、オバチャンなの?」 と、聴くと。 「フッ、フッ・・・」 何故か、Kが肩を揺らした。 これに合わせ、クラウザーやウォルターも他所を見て顔を手で隠し。 噴き出し掛けたオリヴェッティは寝袋に潜り込む。 皆から笑われ始めたと解るクリーミアは、その美人顔をオウガの様に怒らせ。 「貴様等っ、人間共め! このこっ、高貴なるエルフの妾を笑い物にすると云うのかっ!!」 処が、そこに息子のケルビンが入り。 「母さんっ、お止め下さい。 120歳を超えているのは、事実ではありませんか。 お若い見た目なのですから、何も怒らなくても」 息子より事実が明かされ、驚きと羞恥と怒りでクリーミアがキレた。 「ケルビンっ! ひぃっ、人の前で! わわ、妾ののの年齢をぉぉっ!!」 小さく笑うKの揺れる肩が、更に小刻みと成った。 人を超える年齢の割に、とても若く美しい見た目で驚くのは、笑いを止めたルヴィアとビハインツだが。 シャンティやミカーナまで押し殺して笑い。 顔を隠して寝袋へ横に成る。 義母を宥めるおっとりとしたエリーザと叱られるケルビンが、クリーミアを落ち着かせようと宥めるも。 色んな意味で感情的となるクリーミアは、怒りが収まらずに怒鳴る。 モンスターと2度も戦った森の中で、真夜中に喧しくする者が何処に居ようか…。 まぁ、此処に居る訳だが……。 固まったビハインツは、怒れるクリーミアを見て思う。 (120・・でも、悪くないなぁ。 エルフ・・エンゼリア・・か、イイなぁ…) 喧しくした皆も、次第に疲れて眠る。 2度も戦った疲労は、それほど小さいモノでは無かった。 同行者がまた増えた。 横になるKは、笑いが引いた後で。 (しっかし、明日からどうすか。 街へ行く前に、食い物の心配を解決しなきゃならん。 この流れは、全く想定になかったな…。 だが、こんなに目まぐるしく色々と事が起こるとはな。 リュリュだけでも、持て余すのによぉ………) 短い間に次々と面倒事が起こり。 また、抱える者が増えた。 寝息を立てるリルマが、Kの腕の中で衣服にしがみつく。 やはり、まだ何処かで恐怖を残して居るのだろう。 また、オリヴェッティの元に行かないリュリュは、どうしてか。 最初の火の番をするクリーミアは、そんな包帯男の背を見ていた……。 * そして、白む明け方と成った朝の頃だ。 「ん〜〜〜」 これまで感じなかった知らないオーラの存在に気付くリュリュが、ムクリと起きて目を覚ます。 「ん~? ねぇ、ケイさぁん?」 起きて眼を擦りながら真上を見る視界に、大きな眼が幾つも見えた。 黄緑色から緑色の肌をした人の数倍の体格となる人型の生き物が立って居て、木の枝を避けて此方を見降ろしてきていた。 リュリュの言葉に、次々と巨人の存在に気付く仲間達。 疲れて眠りこけていたのだ、うつらうつらしていたオリヴェッティもビックリ。 起きているのは、Kとウォルターとクリーミアだけ。 「うわっ、デカい」 「き、巨人?」 「ひぇっ?」 そこへ、まだチロチロと燃える熾きに枝や木を焼べるKより。 「大きい声を出すな~。 上から覗いてるのは、森の巨人〘フォレスト・ジャイアント〙だ。 森にしか住めない巨人族で、清らかな水と深く生い茂った大自然の中でしか生きて行く事の出来ない森の民。 草食で、肉は食わんし。 危害を加えなければ暴れる事も無い、とても温和な性格だ」 その説明にリュリュは頷き。 「ふぅ~ん、そっか。 アレが、森の巨人さんかぁ。 ふわぁぁ~~~、お水ぅ〜」 とても深い森に住むのは、リュリュやブルーレイドーナとて変わりない。 然し、過去に魔王が支配した、封印されし極めて危険な山に住む。 フォレスト・ジャイアントなどとても生きていけない場所だから、初めて見たらしい。 Kの説明から黙った皆の視線が、朝方の白む空に代わるまで上を見つめていた。 フォレスト・ジャイアントを知り、その存在を大切にするこの森の民は安心して見ていたが…。 フォレスト・ジャイアントとこの森の民の付き合いと事をエリーゼが、シャンティやミカーナが説明するその頃には、寝ぼけ眼で少し起きたリルマがまた寝息を立てている。 さて、何故か。 此方の様子を見に来た森の巨人は、何故か置き土産を残して行った。 起きたクリーミアとエリーザがそれを眺め。 「包帯男よ。 良い事をしたな」 「ケイさんへ、助けて貰った感謝の印ですわね」 甘い匂いがして、Kはその方に向かうと。 「リュリュ、ホレ」 と、何かを投げる。 「え? わぁっ!」 まだ少し眠そうだったリュリュへ、彼が大手を広げて抱える様な白い何かが投げられた。 カボチャか、歪んだ縦にも長さの有る丸型の瓜の様な形をしていて。 受け取るリュリュは香りを嗅ぐなり食べられると察して。 「美味しそぉぉぉっ」 軽々と投げ渡された白いモノを引き裂く様に割るリュリュで、甘い果汁を落す淡い桃色の果肉を食べる。 「甘ァぁーーいぃ!」 すると、果実の甘い香りに誘われ、2度寝していたリルマがムクリと起きた。 「リル・・ちゃん、おいひぃよ」 寝惚け眼のままでも直ぐに駆け寄るリルマで、リュリュの分ける野菜を食べ始めた。 見た目の割にとんでもない食欲だ。 それを見てからまた果物や野菜となる山積みされた物を見分けるKより。 「ソレは、森の高い場所に蔦を生やす瓜の仲間だ。 今が1番の食べ頃となるぞ」 2つ、3つと在るその野菜を食べる用にと避けたK。 その他の山積みとなる果物や野菜を手にしては、時に学者らしさを現し。 「ん。 おっ、コイツは高値で取引される〘アリィー=エナーイ〙の実じゃないか。 まだ熟す前だし、コイツは残して、街で売るか」 とか。 「ほぉ、コイツは野生の大型ナスか。 食べるにはあまり向かないモノだが、乾燥させて薬にも出来るなぁ・・どうするか」 と、持ち込まれた野菜や果実を次々と選り分けるKの姿に、果物を1つ貰って眺めていたクリーミアは次第と眼を凝らし。 「なんと云う深い知識じゃ。 お主、この森の植物にもかなり造詣が深いな。 もしかして、この周りの出身か?」 持ち込まれたモノを選り分けながら、Kは首を動かして。 「いや。 だが、世界の植物は、見れば大体は判る。 若い頃から冒険者をして世界を巡っては、現物を見てその情報を覚える事が好きだったからな。 ・・ん、コレは珍しいぞ。 解熱剤の妙薬〘オーリンガタ〙の材料だ。 原料の種を取るか」 薬の材料に種を取ると云うKで。 皮を剥いだ後に残された黒い点が白い果肉に入る外見は少し不気味だ。 熟れた匂いもしない、水っぽい不思議な実。 見ているタリエやケルビンに、学者となるオリヴェッティもその様子を近くで観る様に成った。 処が、ジャイアントか来た騒ぎから起きたビハインツは、ボンヤリとして居て。 その視界に金鍋に残された果肉に興味を持ち、Kが離れた時に近寄ってはその残された果肉を手にし。 「何か美味そうじゃ無いが、これも果物かぁ」 フォレスト・ジャイアントが持って来て。 また、リュリュやリルマが果物を食べる。 全て食べられるのだろうと、半割でリンゴの様に皮を剥かれて残された果肉を彼が食べようとする。 その事に少し遅れて気付いたクリーミアやタリエが止め様とするも、時既に遅し。 「フゴッ! に、に、にゴぃぃぃ…」 半分の果肉を2つとも口に放り込んでから次第に、絶望的な苦味に悶絶するビハインツ。 皮等を捨てに行ってから戻るKが、“毒だ”と苦しむビハインツを見ても慌てる事は無い。 「おい、それを生で食うなよ。 普通は、他の野菜や香草と一緒に塩茹でにして食べるンだぞ。 ・・でもまぁ、ソイツも血圧の薬ともなるからな。 塩気の強い料理を好むお前には、良い薬だ」 悶えるビハインツは、Kの差し出す水分を貯める長瓜の1つにかぶりつく。 薄味だが甘く、水分の多い瓜で必死に口直しするビハインツだ。 さて、かなりの量となる置き土産で、果物の仕分けをするKに密着するのは、タリエとケルビンだ。 狩人、薬師としても生きる2人なのに、その地元で生きる2人がとても足元にも及ばないと思える程にKは博識。 そして、あらゆる薬への原料とするのか知り尽くすので。 「何と、この果物にはそんな効能が?」 「あ、薬菜の材料ですか…」 安い紙に用途を書き始める2人。 だが、特にタリエはとても勉強家らしく調合まで聴く。 それなりに手練を持つのか、話を聴いただけで凡その作り方が解るらしい。 自然と尋ねる彼女は、Kに師事している様な物言いに変わる。 その様子を眺める皆、長閑な暇つぶしともなり。 Kの恐ろしいまでの知識に脱帽となった。 毎日の日課になりそうな、朝に食べ物を探すつもりだったのに。 本日は、フォレスト・ジャイアントのお陰で菜食の朝だ。 リルマやシャンティやミカーナにも良い食事で、甘い果物は水分食としてクラウザーやウォルターの身体にも良い。 干し肉やらブッシュミートは、味を濃いめにしないと食べるのが辛くなる。 その仕分けが終わるとKは、食べる皆の中で立ち上がり。 「もう少し休んでろ」 辺りを見るシャンティが、何事かと。 「あ、まさかモンスターっ、ですか?」 皆、驚き身構え様とするが。 「いや、実は昨日な。 フォレスト・ジャイアントを助けてからコッチに戻って来る時に、例の、ほれ。 数日前から時に話に持ち上がる、モチンガの実を付ける木々を見付けた。 沢山、実っていたからな。 少し取って来るから、待ってろ」 すると、食べていた残りの果物をパッとリルマへ出したリュリュがスクッと立ち上がり。 「ハァイハァイハァーーーイ。 僕も行くぅ」 と、手拭いの布で急ぎ手を拭くや手を挙げた。 その魂胆が丸解りとなるKで。 「お前ぇ、たらふく食う為に来る気だな」 「みんなの分、ぜぇ〜〜ったいに必要でしょぉ?」 こう言ってリルマを指差すリュリュ。 自分が食べたいのに、ちゃっかりリルマの分も必要と訴えているのだ。 「チッ。 要らねぇ知恵を着けやがって……」 「わ〜いわ〜いっ! モッチモチ、フッカフカの食べ物だぁ!」 数日前から茹でた時の事を聴いて興味津々のリュリュだった。 どうしてもお腹いっぱいに食べたいらしい。 「早く行こっ。 ケイさんっ、早くぅ」 「クソっ、お前が荷物持ちだぞ」 「ウンウンっ、頑張るぅ」 そして、オリヴェッティ達を見返すKが。 「向こうの空を見ろ。 彼方に見えるほど雨雲が近付いている。 本日は、これから大雨だ。 今のうちに、避難の出来る場所でも探せ。 モンスターの居たあの洞窟は、雨水が流れ込むからダメだぞ」 こう教えてからサッと消えるK。 そのKを追うリュリュで、その後には風が舞う。 眼を擦るクリーミアは、何度も見て。 「解せん、全く解せん。 何故、あの様に風の力を自在と操れるか。 本当に、精霊の子供ではないか?」 だが、性格のおっとりするエリーザは、 「特異体質なのでは? もしかすると、私たちの様な者の混血とか」 「いや、精霊に愛されし血ならば、精霊が現れる。 だが、あの者はその精霊の力のそのものが凝縮された力を扱う。 精霊の神の化身ではないか?」 なかなか鋭い事を云うので、オリヴェッティやクラウザーも困った。 さて、ゆっくりと迫る大雨は、オリヴェッティや亜種人の皆も解る。 リルマも、空を指さして何かを訴えるぐらい。 避難の場所を探したり、持ち込む荷物を纏める用意をして待つ間。 リルマの服の代用となるマントをエリーザから借りて変えたり。 靴代わりの草を変えたりとする。 ミカーナには、エリーザが紐の靴を貸し与えたりする。 手分けして動くも、話は交わされて。 少女達を救ったり。 アマゾネスを助けてりした話をする内に……。 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」 リュリュの声がして、空を飛んで来ては何か黒い塊を持って来たと思うと。 「おっも、いぃぃ……」 掻き集めた木の実を長い葉っぱで包んで、それを風の力で更に包んで持って来た。 千の数を超えると云う栗の実と同じ大きさとなる木の実は、荷馬車2台か3台ほどへ山積みとなる量で。 その塊を見たオリヴェッティは、驚きのまま身を固まらせた。 「はぁ?」 「このぉっ、アホぉぉぉっ!!! この先っ、どうやって運ぶ気だァァァ!!!!」 驚くルヴィアが堪らずに吼えた。 とんでもない事に、シャンティとミカーナとエリーザだけが笑っていたが。 モチンガの実をいっぱい持って来た様子に、リルマは眼を丸くして、直ぐに食べるのだと興奮する。 嫌々感を出して戻ったKは、話し掛けられても終始ゲンナリし。 クリーミアやルヴィアや他から運ぶ対処を問われて疲れて居た。 とても、とても疲れていた。 実は、モチンガの実を求めて行った先で、呪われた洞窟を見付け。 その中をKが少し見ていた間にリュリュが馬車馬の如く風の力を使って実を集め捲ったらしい。 山積みを幾つも作っては、怒られると解ったリュリュ。 とにかく運ぼうと風の力で既に持ち上げて居た。 持って来たのだが、こうなると仕方ない。 とにかく皆が探して見つけた虚へと向かう。 次第に雨雲が迫り、少し暖かい風が吹くと大雨が降る。 紅葉したり、幾らか落葉する森の木々が水浸しだ。 雨水を吸う大地も、大雨では次第に水溜まりを至る所に見せ。 街道となる道も雨水の川が出来た。 時折、亜種人の動かす馬車が見えたが、大木の下へと雨宿りする様子も見えた。 この多様で様々な大木の生える森にて。 その中でも巨木となる1つで、横幅から高さまでかなりの巨木となり。 その所々に大きな平屋が入りそうな虚を持つ木に上がって雨宿りする一行。 2つ使う虚の1つは、リュリュの持って来たモチンガの実と、ジャイアントから貰った置き土産で貰った果物が入る。 その虚に倒木を柵切りした板を並べて居るKは、モチンガの実の間を置きながら食べるリルマを眺めながら。 「お前ぇ、子供のクセしてスゲェ食べるな」 古代語で語りかければ、満足まで食べる彼女は嬉しそうに。 「美味ひぃ、いっぱい、いっぱい!」 片言の様な話だが、悪党に捕まってからろくに食べて無かったらしい。 親を殺されたり、裸にされたりと不幸が続いた。 然し、今はその奪われたモノを取り返すと云うのか、果物をとにかく食べる。 前向きに生きる姿勢は、感心に値すると思うKでも。 この食欲旺盛な様子は呆れが来て。 「亜種人にも、かなりの個体差が在るのか。 然し、スゲェ……」 そこへ、太い枝に絡む立派な蔦を梯子の様にして降りてきたオリヴェッティ。 少し掛かった雨を払いながら。 「ケイさん。 今日は、このまま此処で夜営ですね?」 「螢の時に言っただろ? あの螢は、この大雨も見込んで交尾をするンだよ」 「あ、なるほど…」 「で? 他の奴らも腹が減ったってか?」 「はい。 モチンガの実に、皆さんが味をシメまして…」 「フン。 お前さんも、だろ?」 「ま、まぁ……」 言い当てられてしまい、恥ずかしがるオリヴェッティ。 そこへリュリュも降りて来て。 「ケイさんっ、もっとぉ」 「お前とリルマだけでも、この山の様な食料を3日で喰いきりそうだな」 「えへへぇ。 リルちゃんも食べるからねー。 食べられないケイさん、可哀想ぅ」 「はっ。 悪かったな」 大量に取ってきたモチンガの実。 お湯で長く茹でると殻が割れてモチモチ・フワフワの黒っぽい中身が食べられる。 穀物と似た味わいだが、噛めば噛む程に甘みも出てくる。 小麦粉や大麦のパンより、各国の集落で個別栽培される米等の雑穀に近い味わいが好かれるのか。 皆、味をしめて食べているのだろう。 オリヴェッティがリルマを連れて上の虚に上がり。 リュリュが実を幾らか抱えて飛びながら持って行く。 上では割れた石を組み敷いての焚き火をしていて、話が弾むのか、皆が集まっていた。 その声だけを聴くKで。 昼下がりとなる今は、漸く雨の勢いも少し弱まって来ていた。 心地よい雨音の中で。 (まぁ、ミカーナやシャンティにも良い環境か……) と、思う。 あのミカーナは、モンスターに襲われて父親とはぐれたらしい。 もし、はぐれた父親が死んでいたら、身体の弱い母親と2人になるとか。 頼る者も少なそうな様子で、その答えを知るまでの今は不安が募るだろう。 だが、楽しくワイワイと居れるのだ。 不安が紛れて、目的に向かって解り易く前に進めるのだ。 この時は、楽しくもあり、残酷と隣り合わせかも知れない恐怖が見える。 だからこそ、楽しくしてその本音を隠しているのが察せられた。 夕方が近まると、森の中は薄暗くなる。 吊り下げられるランタンを虚の中に付けたK1人で保管の番をする其処に、誰かが来た。 「何だ。 今度は、バァサンか」 蔦を降りて来たクリーミアが入って来て、毒を吐いたK。 憎らしげな表情となるクリーミアは、昨夜の事が有るからムッとして。 「貴様、年上に対する口の利き方を知らぬのか」 「フン。 来た理由は、他だろ? 何だ、質問は手短にしてくれ」 木の実と果物や野菜で虚の領域の大半を占めるこの場所だが。 隙間に腰を下ろして胡座をするクリーミアは、甘い香りを放つ果物を1つ手にして雨の森を眺めると。 「お主と仲間は、どうして海旅族の遺跡を?」 亜種人からすると、やはり海旅族の事は気になるらしい。 古来より語り継がれた話は、寧ろこの森の民の方が幾らか詳しいかも知れない。 「それは、リーダーのオリヴェッティが求めるからだ」 「あの麗人か」 「あの女の一族は、何代に亘りその財宝を見付ける事を夢見たとか。 で、親(ちか)しい一族の全てが死に、遂に残った1人がオリヴェッティとか。 まぁ、最後まで行けるか解らないが、な。 覚悟を決めたならば、その決着を見届けてやろうと思ったのさ」 「気まぐれ、か」 「何割か、は・・な」 「何割か、だと?」 「まぁ、全くの他人となるお宅だ。 何を言っても他人事として聞けばいいが。 同行者の老人2人は、病で2人して余命が見えて来て居る。 身体の大きいクラウザーは、若い頃にオリヴェッティの一族と同じ夢を見て。 貴族感を丸出しのウォルターは、格式高い貴族が生まれの為に若い頃には出来なかった事へ、今にして生きた見識・経験を追う者へ変わった。 お互いに余命として限りが見える命だからこそ、その最後の気持ち、情熱や意欲を燃やしている。 下らない過去からの知り合いと云うか、腐れ縁だからな。 こうして付き合わせてるのさ」 「ふむ。 御主のその様子からしてその経緯を聴くと、御主の立ち位置の半分は協力者だろうが。 半分は、まるで覚悟を促す死神ではないか」 「ん、まぁ〜そんな所か…。 ほぼ間違いは無い意見だ」 悪く言おうとも受け入れるKの姿に、流石は長年に生きるクリーミアも冷静な判断をする。 然し、最も不思議なのは……。 「だが、それよりも解せんのは、リュリュなるあの少年よ。 御主、あの子供を何処で?」 「俺が拾った訳じゃねぇよ。 お宅は、知識も、人生経験も豊富そうだから教えるが。 リュリュは、風の神竜〘ブルーレイドーナ〙の子供なんだ」 「なっ、あぁ……」 その答えを聴くと、納得半分、驚き半分となるクリーミア。 彼女の表情から、Kは1つ頷くと。 「エルフのお宅だから、驚くのは無理もないな。 エルフとしてこの地域に生きれば、教養の1つとして神竜達のこれまで、その人との関わりを断つ歴史の経緯も幾らか知ってるだろう?」 「と、当然ではないか。 人や我々の前より姿を隠した神竜様達だが。 中でも人へ凄まじい怒りをぶつけたのは、ブルーレイドーナ様が一番だ。 その子供だと? ど、どうして、今に成って人と冒険者などを……」 「歴史を知るならば、その疑問は当然だろう。 だが、少し前・・数年前となる時だ。 封印されし古の大山アンダルラルクルへ、或る依頼で俺が行った時に。 本当に生まれたばかりのリュリュが巣穴から落ちて、母親が居なかった為にモンスターの餌食になり掛けていた。 仕方ないと、過去の歴史を繰り返さない為にも助けたんだが……」 「救ったのか。 おぉ、何と大義な事をしたのっ」 「精霊の存在を感じられるお宅達からすれば、それはそうだろうが。 だがよ。 今を見れば、それが裏目だ。 俺に懐いたから、リュリュは人を恐れる気持ちが希薄。 少し大きくなったから冒険者をしたいとな。 勝手に山から抜けて来やがった」 「な、何と…。 それで、一緒に居るのか」 「オリヴェッティに懐いたから、この冒険が終わったら山に返す。 だが、面倒臭い事にそれでは終わらないだろうよ」 「どうして、か?」 「昔、リュリュを助けた時に、ブルー・レイドーナから俺は逆鱗を貰っちまった」 「逆鱗? 精霊の力が熾烈に宿ると云われるのぉ」 「そうだ。 俺は、それが必要が無かったが。 或る依頼で、今は名が売れ始めた風のポリアと云う女にくれてやった」 「ほう、風の力が宿る名剣を持つ、とんでもない美人の剣士とか聴いたぞ」 「その風の力は、逆鱗の加護さ」 「お、おぉ。 そうゆう事か」 「だが、大問題は、よ。 その逆鱗の力の所為か、ポリアの様子をブルー・レイドーナは観る事が出来る。 母親に触れる時、リュリュもその様子が観えるらしい」 「なんと、何とも不思議な…」 「だが、その様子が解るものだから、な。 子供のリュリュには、好奇心を誘う。 あのバカ、その内にポリアの所へも行き出すだろう」 「未熟な子供故に、好奇心が抑えられない・・か」 「そうだ。 過去を繰り返す様な最悪の結果は回避したいが。 この先にどうなるか……」 「ふむぅ。 それは気を揉む事よな」 「そうだ」 「だが、何故に神竜様は、神子が来る事をお許しに?」 「それは解らん。 これまでの長い時の中でも初めての事かも知れないし、な。 また、飛び出す性格のリュリュだから、止められないと思っているのか。 まぁ、行く所が俺の元だから、安心しているのか…」 こう語り合う間、上から楽しげな声がしている。 騒がしい位だが、その楽しげさは心地よいモノだ。 さて、上を軽く見たクリーミアだが。 此処で眼を澄ますと。 「して、後1つ。 御主は、この土地に来て、何をした? 何故、この旅の道に、この流れをした?」 「・・と、云うと?」 「御主の知識、経験からすれば、何の規制・統治も掛からぬ大陸横断街道など遣わずに、別の安全なる渡り方でエリンデリンへは来れるハズで在ろう? 何故、悪党達が蔓延る街道側の森から来たのだ。 シャンティなる少女を助けた事より、その場所を渡る意味が一番の疑問よ」 鋭い質問で、長生きするだけは在るとKは感じた。 「実は、な……」 魔法学院にての経緯を軽く話すと、クリーミアの眼が細く成った。 「あのパスカ様の御依頼とな…。 して、御主は、その業を1人で背負ったのか?」 「まぁ、背負うほど真面目じゃねぇよ。 ただ、街道より上の森に住むサロザスとその部下が決戦に動く情報は、既に密偵を忍ばせる悪党達へ筒抜けだった。 それに、冒険者協力会、魔法学院自治領政府、水の国ウォッシュ=レールに加え。 此処から西の半島三国自治領政府の軍が動くとなれば、包囲された悪党共は死か、刑に服すると云う不自由を知る。 そうなると、捕まった女や子供は人質となり。 負け戦となればヤケになって、状況に因っては皆殺しされる事態も出て来るだろう。 パスカは、それを危惧して俺に依頼した。 まぁ、戦となれば魔法で人を殺す事を部下にさせなきゃ成らないから、上に立つ者として躊躇うのも無理は無いが」 「ん・・なるほどの、パスカ様の御意思も深く理解は出来る。 だが、御主はどうなのじゃ? そんな5000、10000を超える程の悪党を殺して……」 人が人を殺す事でも、考えて慮るクリーミア。 リルマやリュリュを含めた皆へ対するKの様子から、何かを考えての質問だろう。 だが、Kには無用な事だ。 「これまでも、人の行う事に対する薄汚い依頼で、裏の冒険者稼業として色々とやって来た俺だ。 悪党を殺すのが、何の関わりも無い死神ならば、誰も大きくは傷は付かない。 過去、俺にそうした依頼を寄越して来た奴らの殆どは、今もヌクヌクと生きてるぜ?」 現実の闇となる事の薄皮の様な話を聴いて、クリーミアは瞑目する。 「この世は、何とも愚か者ばかりよな。 他人に、自分達の業を金で背負わせるのか…」 「まぁ、それは人だけじゃねぇよ。 エルフだろうが、エンゼリアだろうが、他の亜種人もその辺りは変わりない」 「な、何? 我々も、同じだと?」 「そうだ。 俺の知る過去の事を言って、お宅がすんなり信じるか、それは解らん。 だが、やる事が各種族の誰でも要らんプライドが掛かる。 本当に、人間と同じくアホらしい事情で、亜種人も人に依頼を回す事が有るンだよ」 「冒険者に、我等の難事を解決させるじゃと? 言うてみい、是非に聞かせて貰いたい」 「知ってキレられても、こっちは過去の事だから責任は持てねぇが……。 とあるエルフの郷では、女王より極秘の捜索依頼が来た。 行って話を聴けば、自分の子供が人間と駆け落ちしたから取り戻せ、だと。 然も、相手の人間を殺して、だ」 「こ、後継者を取り戻す・・それだけで人殺しを?」 「気位の高い女王様からして、人間と娘が結婚して純粋では無いエルフが血族に産まれるのが我慢など出来なかったらしい」 「なんと…。 し、して、それを御主はどうした?」 「そりゃあ、依頼だ。 消えた本人達を探して話を聴けば、エルフの姫様が人間に惚れたからそうしたとか。 馬鹿らしいが、依頼は依頼。 その2人を既に死んだ事にして、遺品だけを持ち帰った事も在る」 「くっ、エルフの女王とは云え、何たる横暴じゃ」 「こんなのは、過去の依頼としちゃ手始めよ。 別の郷では、女王が他のエルフの里の者に馬鹿にされたからと、暗殺の依頼。 本人に詳しい事情を聴けば、何ともアホらしい。 歳の喰った女王サマが、若いエルフの男に恋をしたが。 相手には既に許嫁が居て、好かれる相手が女王サマは偉過ぎて、気位が高く面倒で、普通に生きたい若者からしたら困るとよ」 「な、なんじゃ、その下らぬ依頼は…」 「確かに、下らねぇよ。 だが、その時は、周りの者を巻き込んでかなりモメてな。 跡継ぎの姫が居る手前、側近達も頭を抱え。 捻り出された代案は、女王を失脚させる方向で動き、俺に女王を徹底的に辱めろ、だと」 「あぁ・・嗚呼、何と愚かな……」 「年甲斐も無く、プライドもへし折られて失意した女王は失脚したが。 跡を継いだ娘が、これまた母親以上に嫉妬深く、高慢だった。 今頃、あの郷はどうなってやがるか……」 実名を出さないが、亜種人のゴタゴタを幾つも語ってやったK。 その全ては、その民ならではの我儘で。 クリーミアも納得が行く傍ら、あまりの身勝手に呆れ果てるしかない。 が、だからこその疑問が残る。 「その稼業を止めたのに、どうして悪人の殺害を請けた?」 「そんなのは、解り易いことよ。 あのバカ真面目なオリヴェッティに依頼が出された後、あの女は普通の者では答えの見えない苦悩・苦悶を知ってしまった。 それ故、依頼を断っても、請けても、その結末に呪い殺されるほどの苦しみを受ける。 誰でも、暗殺の経験の無い奴は、真っ当な精神の奴ほどそうなる。 だが、元を質せば、その依頼を寄越させたのは俺の存在がチームに在るからだ。 ならば、その業に向き合っても気にしない奴がやる・・しか無いだろ?」 「ん・・・なるほど、の」 此処で、Kも上を向くと。 「見ろ、見た目に楽しそうにしながら。 あの女も、亜種人から感謝を受ける度に、俺がした事だから、俺が感謝されるべきと悩み苦しんでやがる。 無駄な事を悩んでも、どうしようもねぇ。 出来なかったのだから、出来る事だけすりゃあイイのによ」 すると、このチームの結束力や関係性の良さの根幹が見えたクリーミアで。 「なるほど、なるほどの。 あの老人2人も、オリヴェッティなる女子も、リュリュなる神子も。 皆、御主を信頼しているのか。 だから、御主を蔑まないのか」 「さぁ、どうだかな」 この会話で、クリーミアはKと云う人物を知った。 そして、やはり年配なだけに、見たのは現実と本質だ。 少し瞑目してから、その眼を開くと雨の暗くなるなる森を見て。 「何より、凶悪な悪人達より多くの女子や子供を助けてくれて感謝する。 御主の働き、妾は感謝する」 「まぁ、他に黙ってくれりゃイイさ」 頷くクリーミアで、少しほろ苦く笑い。 「ん。 こんな事は、ケルビンやエリーザには聞かせられんさ。 まだ未熟な子供故に、正義や人命の尊さだのと、綺麗な事を大切にする。 極まった事態に於いての本質を理解する事は、若い者には難しいからの。 致し方ない」 「ほう、そりァ有難い。 年季の違いか」 「いや、こうした時は何を選び取るか、よ。 御主のした事にしてもそうじゃ。 もし、誰も素早く手を打たず、対処を遅らせ手を拱(こまね)き、悪戯に時を流してしまえば、戦は始まり女や子供は殺され。 そして、悪党達と兵士が殺し合いをした現実、それだけが残る。 その実態に、何の希望も、救いも無い。 それならば、せめて虐げられた生きる人命を救うだけでも、意味は大きい。 いや、これは最悪の事を思えば、比べ物に成らぬ大きな意味よ。 悪党達は、奇跡的に生け捕りにされても死刑の者は、死刑。 ならば、この成果は、誰もそう簡単には成し得ぬ最良よ」 結果を慮るクリーミア。 だが、もう過ぎだ事で、Kにはどうでも良い。 「まぁ、後の事は、パスカや他に任せる。 どうにかなるさ」 「ん。 それしかないの」 此処で、また楽しげな上を見るKだが。 「然し、シュワイェットの子供が、あんなに大食とは知らなかった。 大人に成ったら、あの食欲は落ち着くのか」 「ふむぅ。 妾もシュワイェットの子供の生活は見た事が無い。 森で生きる民とは知っていても、この様な大食とは話に聴いた事も無いの。 妾も、あの食べる姿を見て驚いて居る」 「もし村に預けるなら、この事も話してくれ。 驚かれて、見捨てられても困るからよ」 「ん、解った」 すると、上の虚に居るケルビンが。 「母さん、母さんは?」 息子の声に、ゆっくりと立ち上がるクリーミア。 「全く、大きくなっても、中身が子供よ」 「仕方ねぇさ。 子供想いの母親が居るんじゃ、な」 「いやいや、義理の娘のエリーザの方が、おっとりしていても大人よ。 あの子は、父親似で酷い甘えン坊じゃ」 父親似、とは。 苦笑いしたKで、下らない事を考えたが、言わずに止めた。 “甘えん坊の旦那を、オタクはどう甘やかしたのか?” 口に出せば、クリーミアでもまた恥ずかしくなり怒るだろう。 口は悪いが、愛情深い精神となる人物の様で。 リルマやミカーナやシャンティを可愛がる様子や、義理となる娘のエリーザを信頼する様子からしてそれが解る。 そんなクリーミアだ。 先立たれた夫らしいが、愛して甘やかしたのが偲ばれる。 男と女、夫婦、その仲睦まじい事を理解して察すれば、何となく色々と想像がついた。 その後、暗くなる夕方にまた、リュリュとリルマが食べ物を取りに来て。 2人して来るのを見たKは、何でそんなに食べられるのかと。 「お前達っ、どれだけ食べれば良いンだっ!」 困って叱るも。 2人は、笑いながらまた食べる。 流石に怖くなって来たKは、後から降りて来たオリヴェッティに2人の事を丸投げした。 苦笑いするオリヴェッティなれど、子供と解っているからか。 “良く食べる元気な子” で片付けてしまう。 少食のKからすれば、リルマですら自分の5倍以上。 リュリュなど理解が出来ない程に食べる。 見ていてとても疲れるのだった。 暗く成っても、まだ霧雨が続く。 ふて寝するKは、もう朝まで起きなかった。 * 一夜が過ぎて夜が明けると、雨はほぼ止んでいた。 だが、相当に降った雨で、地面は何処もヌカるんでいる。 虚から降りる前に、弱い火を使って湯を沸かす。 だが、食べるのは腐敗を考慮して傷物の果物が主となり。 薄曇り、靄もまだ残る森の中にて。 「果物の朝食も、何と健やかな」 菜食に喜ぶウォルター。 「久方、腹いっぱいに果物を食べたな。 美味かった」 クラウザーも顔色がとても良い。 ただ全員でモチンガの実を背負う馬鹿をするのも、Kの判断で取り止める。 処が、リュリュに持たせようとすると。 遠くより騒ぎ声がした。 モンスターの気配も感じていた為か、Kとリュリュが先に向かえば、立ち往生する荷馬車の列をかなり大型のゴーストが襲って居た。 「ケイさぁんっ、アレぇぇ!」 「ニーブカイストの大型だ。 ケッ、どれだけ人や亜種人が殺された?」 それに合わせてナルガリガや根っこを足として移動する植物のモンスターも動いて居る。 「おい、お前達は荷馬車を守れ」 逃げ腰で応戦する亜種人達へ声を掛けるKが現れ、ゴーストを黄金のオーラで潰す。 「かぁぜよぉ!」 リュリュも、その他のモンスターを風の大渦で空へと巻き上げた。 残るモンスターは、こうなると多勢に無勢となり。 エンゼリアやドワーフやホビットの集まりとなる行商人は、助けて貰ったと逃げた者も戻ってやって来る。 オリヴェッティ達が来るのを見たKで。 「あの中にリーダーが居る。 話は、そっちとしてくれ」 話し合いになれば、クリーミアやケルビンと顔見知りの者も居て。 助けた手前から話は良好の方で進んだ。 また、この行商人達もアマゾネスの交易に参加していたとか。 オリヴェッティ達を覚えていて、歓迎の様子が強いので…。 好意を利用しようと思ったKは、 (オリヴェッティ。 あのモチンガの実、コイツ等の馬車で運んで貰ったらどうだ?) と、提案。 泥濘にハマった荷馬車を助け出す代わりに、この交渉をする。 まぁ、快く了解をして貰えたのだが…。 いざ、その積む物を見せると、亜種人の行商人達の方が色目き立つ。 “運ぶ代わりに、余ったモチンガの実を売って欲しい。 それから、お主達が街へ持ち込む物を合わせて80000シフォンでどうか。” と、言われた。 何の話か、金額に驚くオリヴェッティやルヴィアやビハインツ。 遅遅として動き始めた荷馬車の列を横に歩きながら、Kを交えた交渉が行われる。 あのモンスターの角、大蛇の皮は、今はかなり高価な品物だ。 それからモチンガの実も、最近では採取するのに危険が伴うので価値が上がり気味。 また、フォレスト・ジャイアントの持ってきた木の実の一部も、探す事に苦労の要る高価な物が混じる。 それを合わせて入手する機会と、10万シフォンでも構わないと言う。 ま、モチンガの実は、リュリュやリルマや他がどれだけ食べるか解らない。 その他の物を80000で売る事で話が付く。 金貨でやり取りするなり、Kがその内の4万をクリーミアにくれてやり。 「リルマやミカーナや他の事の面倒代だ。 あの食欲は、俺でも怖いからな。 それに、親が亡くなると、先の事は解らない」 確かに、確かに、皆も頷ける。 歩きながらでも果実をモシャモシャするリルマは、ニコニコしながらオリヴェッティとリュリュか、Kの近くに居る。 こうして配慮を貰うミカーナは、人間が全部オリヴェッティ達の様で在れば嬉しいと笑った。 語りの中に、不安が見え隠れしていたが…。 泥濘(ぬかるみ)の水気が少し引くまで、午後の乾いた風を待つ必要が有った。 少しずつ進む荷馬車で、時にビハインツやクラウザーやKが泥濘にハマった荷馬車を助け出す。 どうせ直ぐに嵌るのだから、何処かで今日を過ごすしても大差ない。 動くのも無駄と言えるが、リルマも乗せて貰うから押して助けた。 この間に、クリーミアや助けた亜種人の間で会話が為され。 オリヴェッティ達に助けられた事が伝わるや、護衛でエリンデリンまで頼むとなる。 ただ、この日は本当に先を行く道が進まなかった。 倒木も有れば、他に立ち往生する馬車を助けたりした為だった。 夜、また放置されて朽ちた野営の拠点となっていた建物を修復する。 簡単に、建屋の中を直すだけだが。 リュリュやビハインツやクラウザーも手慣れて来た。 手伝う亜種人達が、拠点の建屋を直されて喜んで居たが。 外側の壁を直した訳ではない。 本格的に建て直すとすれば、骨組みの一部を1から直す必要が在った。 食事となると、また旅人らしい食事に成った。 モチンガの実を食わせてリュリュとリルマの食事を賄うが。 物々交換でモチンガの実と食べ物を取り替えると。 アホほど取った気分のモチンガの実も、明日以降どれほど持つか心配になるKやオリヴェッティだ。 それでも、力仕事に手を貸したリルマやシャンティやミカーナが疲れて眠る。 モンスターと戦うのに、不思議と充実した旅となり。 亜種人との対話も馴れて来て、大きなチームの様になった。 和気藹々とし過ぎて、Kだけが呆れて居たが…。 次の日。 朝に成った。 陽が高い木々の枝葉の間より射し込んで来る時に。 「うわぁっ、不味いぃぃ!」 「降ろせっ、荷物を降ろせ!」 「馬を離さなきゃっ! 壊れるっ、壊れるぅよぉ!」 亜種人達の騒がしい声がした。 Kや皆が声に驚いて馬車に向かうと、車輪が壊れて荷台より離れていた。 動かそうとした荷馬車が泥濘を何度も抜けた事で負荷を受けて少し壊れ始めていたのだろう。 無理に動かそうとして、遂に壊れた。 「どうしよう、どうしょう!」 非力なホビット達が騒ぐ。 馬車を直した事は無いのか、ドワーフ達はあーだこーだ言って見てばかり。 放ったらかすのもアホらしいので。 「仕方ない、直すか」 と、K。 「助けられた恩も在る。 それが早いな」 と、クラウザー。 朝からKやクラウザーが直しを手伝う。 力仕事だけならば、ドワーフも出来るからさほどの感心も無いが。 荷台の壊れる部分の修理もサッサとしてしまう2人で。 接着剤のニカワを取る植物の仲間となるモノで揺れを抑えて摩耗の度合いを抑えるなどすれば、尚更に重宝される。 「おーっ、直った! 人間は、何と万能な! 直った、直った!」 非力なホビット達が喜んでいる。 頑丈に修繕して貰えたドワーフやエンゼリアも喜び。 その様子を眺めるKは、本音を小声の口にして。 (金、取るか…) 呟くKに、近くに居て聴いたオリヴェッティが。 “持ちつ持たれずです” と、窘めてくる。 (お人好し過ぎねぇか) こう思うも、荷物を乗せてもらう運賃を差し引く考えをした。 さて、助けた者のお陰か、案内が一気に増えた。 やはり悪党達の所為で不死モンスターが増えた事で、他のモンスターも増えた。 悪党達が消えた事はとても嬉しく、モンスターの討伐も捗るだろうと商人達は話していた。 昼前より、直した馬車で先へ進むとなるも。 負荷の掛かる原因は明白で。 “荷馬車を引く馬等の数がどう見ても足りない。” これだ。 話を聴けば、あのアマゾネスの交易場にて襲撃された時に、馬も怪我して何頭か死んだとか。 また、盗難から襲撃にての馬の被害は、この数年で多く。 今は、何処の集落でも繁殖に力を注いでいるらしい。 時折に見掛ける犀やら体格のゴツい牛は、森より南部の自然に棲む為。 子供を買って、飼わなければならない。 繁殖も少し難しいらしく、襲撃されると狙われる優先度が高いとか。 その話をKが聴けば。 「あの動物達は悪党に取られても、選択として殺される方が高いだろうな」 エリーザがその事に興味を惹かれて。 「どうしてですの?」 「警戒心が強いが、子供の時から育てると非常に良く懐くと聴いた。 調教も込みで、家族となる飼い主やその家族以外には中々どうして懐きにくい。 奪っても逆らうから、足手纏いになり始末されるンだ」 「忠誠心が故ですのね?」 「と、云うより。 家族単位で暮らす群れを作る種だから、ある種の仲間意識や家族愛に近いか」 「それならば、益々・・可哀想ですわ」 「まぁ、もう悪党はかなり減った。 森の中を移動する襲撃部隊も、何れは駆逐されるだろうよ」 この話には、夫のケルビンも話に加わり。 「どうしてだ?」 「あの放置された街道は、自治領三国政府に加えて魔法学院自治領政府と冒険者協力会の派遣部隊が統治を行い始める。 亜種人の集落とも連絡して森に逃げた悪党からモンスターを掃除するらしいから、奴らも住み難くなる。 西側へ追いやられた森の民も、次第にまた戻るだろうしな」 「おぉっ、遂に統治下に成るのか」 「お宅達も、良いか、悪いか、どちらかは解らないが。 冒険者をやるなら行動範囲が広がる。 人との交流が多くなるぞ」 「新しい付き合い方を求められると云う事か」 「そうだ」 様々な人と交流すると知ったタリエは、自分など足元にも及ばない技術・知識を持つKの背を眺める。 「みんな、貴方の様に知識が深い方では無いものね」 「俺は、ある意味の異端と云うか。 その部類でも部外者に近い。 俺を判断基準に含む事はしない方が良い。 一定の警戒心は、常に持っている事だな」 複雑な想いから表情が沈むタリエ。 薬師としても神の如き知識や経験を持つKに心酔する素振りを見せ始めた。 人の街に居れば、先ず男性から放って置かれないだろう美貌の彼女。 人との付き合いが深まれば、誰か、彼かから望まれる。 新たに始まる環境の変化に、不安を持つのは仕方ない。 話しながらでも歩くと、荷馬車を置いて先に行く速さだ。 「馬が足らなーいっ」 「悪党達めっ、馬を返せぇぇ」 ホビットやエルフの若者が歩の遅い馬車の上で吼えた。 そんな訳で、休憩も嵩んで進みは遅くなる。 この為、想定を遥かに超えたのんびりとした旅となる。 そして、とても背の高い木々と原生の豊かな自然ばかりが続く森の中で、道がまた広がるに合わせて更に亜種人・異種族に出会う事が多く成ったオリヴェッティ達。 冒険者のチームとも日の内に幾度と良くすれ違うとなれば、街に近付いたのだろう。 脚の太い馬や大型となる牛や犀に鉄車輪の付いた荷馬車を引かせる、ホビットやドワーフを何度も見かけたり。 森に、薬草や岩塩を採取に来ていた薬師のエルフがシャンティやエリーゼ達を知るからか、どうして人と一緒なのかと話し掛けられる事になる。 初めは人間と云う事で警戒はされるも、行商人の亜種人やシャンティやエリーザ達のお陰でその警戒は直ぐに無くなる。 解放された亜種人達も続々と各集落へ帰っている為か。 女性達を助けたオリヴェッティ達には好意を表した森の民の彼等。 同族意識が強く、平和意識も強い彼等は、話す事で情報を共有すると急に良くしてくれる。 商人の1人は、シャンティやミカーナと知り合いで。 ミカーナの父親は助かって居る事を教えてくれた。 そして、この助けた行商人たちと共に行く3日目の夜だ。 森の中に点在する湖や沼の中で、“百の沼が集まる”〘フューラウ・テーヒルナッツゥ〙と云われた場所が在る。 その沼では、この時期だけ発光する蛾が一斉に交尾をする光景が見られ。 その日を予測したKの話を元に、オリヴェッティ達が皆で夜になってから沼に来た。 「お、おおっ!」 驚くビハインツの隣に来るルヴィアやオリヴェッティは、その淡い光が溢れる場所に来て言葉を無くした。 金色、銀色、淡い琥珀色、鈍い白色、明るい灰色と、一定の色種ながら5色の淡い光が散りばめられた森の沼は、その光を反射して光って居る様だ。 商人達も来て、光る蛾を眺めて話し合う。 シャンティも、リュリュも、リルマも、ミカーナも、タリエも、その光の舞う光景に眼を輝かせ。 「アナタ…」 「エリーザ。 この光景をまた2人で見れたね」 夫婦と云うエルフの2人が寄り添って見ている。 また、クラウザーと並ぶウォルターで。 「クラウザー殿。 世界は、広く美しいですな」 「全くです。 こうした生き物の神秘や営みは、永遠に続いて欲しいものです」 「ん。 己の命や存在が小さく見えて来ながら、こうした機会に巡り会える幸運を噛みしめられる。 何時、果てても構わないと笑えますな」 「その時まで、老いて尚も駆けられることは、今生の幸せかも知れません」 「その事、その事よ」 連れて来たKが、皆から離れ別の沼にて。 1人、ナイフを取り出しては蛾を受け止め、観察しては放つとするK。 色による個体差が在るのか、それを観察して居た。 そのKに近付くのは、エルフの女性クリーミアで。 「学者と云うのは、そうして調べるのが好きだのぉ」 「まぁ、な。 なかなかに来れる場所では無いからな。 来れた時が、調べられる時って奴だ」 「そうか…。 処で、1つ聴きたい事が在るのだが……」 「何だ?」 「逃げた出せた女性の中に、エルフはどれぐらい居た?」 「ハッキリとした全部は解らないが。 解放して逃げる様子を見ていた限り、亜種人の女や子供は300を超えていた様に見えた。 一つ一つの暗黒街からは、数人から2・30人ほどだろうが。 総てでは、拠点の数は20以上。 総じて、森の民でもエルフは多い方だろう。 割合から抜き出せば、それぐらいじゃないか?」 「なるほど、確かに…」 「何だ? 知り合いが居たか?」 「実は、私の年の離れた姪も攫われた1人だ。 人懐っこい性格故、助けを求められると疑いを置いてしまう処が在ってな」 「何年前の事だ?」 「4年と半年ほど…」 「そうか…」 それ以上、何も言わなかったK。 そして、何も言わなくなったクリーミア。 蛾のりん粉が着いたナイフを見るKで。 (あの悪党共が、捕まえた女や子供を長々と養う訳がない) Kの経験上、こうハッキリと言い切れた。 恐らく、捕まっていた人間の女の大半は、他から売られたりして連れて来られた者で、子供から女性は商品だ。 もし、あの暗黒街に半月を超えて数ヶ月も留められてゆくと云う事は、あの凶暴な者達の欲望の捌け口として奴隷にされ。 それは即ち、商品としての価値が消えた者となると云う事だ。 そんな女性でも半年を超えて、ましてや4年半も生かされると云う事は殆ど無いと言い切れるだろう。 何故ならば、1年以上も生き残れる女性とは、何かとんでもない知識を有した技術者でもなければ、人殺しとして仲間に堕ちた者以外では有り得ない。 また、囲われ者としても、色々な意味から1年もしない内に殺されているだろう。 主な原因の1つは、病気。 次に、飽き・・だろう。 そして、女性達を助けたKからして、なるべく極悪人以外は殺さなかったが。 中には何人か、恐ろしい程に狂気を宿した女性も居た。 (どんな形であれ、女があの悪党の街に長く居る事は地獄だった筈だ。 何処かに売られて居た方が、生きている可能性も有るだろうが…) 生じ、美しく成ってしまうエルフやエンゼリアは、悪党の関わる人身売買の世界でも大人気となるらしい。 容姿の要望に沿う見た目の娘は、とても高値に成るとか。 時に、なる様にしか成らぬ世界で、この自然の幻想的な光景は儚い。 交尾を終えて雄は沼に落ち、沼に潜む魚が食べる。 増える人を喰らうは、モンスターなのか。 それとも、人か……。 夜遅くに野営する場所に戻ると、他の旅人やら行商人が来て居た。 大雨の影響は森の全体に及んでいて、彼方此方で一時的な通行見合わせの場所が有るとか。 街に近づいたのに、情報だけでも足止めを喰らった気分だった。 * 次の日。 少し曇りとなる空の下で、漸く水分の抜けてきた道を歩くK。 (これは、マジで想定外だな。 アマゾネスを助けた彼処からエリンデリンまで10日を超えても着かないとは……。 まぁ、色々と混乱もさせたし、人助けもしたからな〜〜) 自身の見た目も含んで、悪党達のお陰か人間は警戒させる。 悪党達の勢力崩壊の情報や影響と共に街へ向かっている様な旅だった。 少女を3人も助け、人や亜種人を何度も助けた。 天候やモンスターにも邪魔されれば、こうなるのも解らない訳では無い。 大森林地帯をじわじわと征服しようとしていた悪党達の壊滅は、この森や周囲に強力で広範囲の波紋を及ぼした。 その影響から来る混乱は、悪党の残る者へ。 また、関わった亜種人達にも伝播する。 善し悪しは、その者の状況に因って違うだろうが。 Kが1人でやった手前で、事態の端っこに関わったオリヴェッティ達がこの通りだ。 手を貸すのも後始末の1つとして、Kも遣っている。 さて、面倒となる1つで、また荷馬車から果物を取るリルマ。 皆もその食欲に驚き、食べ物を求める彼女に気を遣う。 だが、その様子を見ている内にKは、リルマの大食の原因が解って来た。 だから、食べるのは仕方ないと何も言わない。 「美味ひぃ、美味ひぃ」 普段では手の届かない所の野菜や果物も食べているのだろう。 喜ぶリルマは、少しだけ人の言葉を喋り始めた。 「そうだ、美味しいな」 並ぶルヴィアが返すと、踊る様な足取りのリルマが微笑んで食べる。 言葉が通じて、嬉しい様だ。 その様子も、経験が多すぎるKには…。 (これは、良い事か。 それとも、悪い事か。 なるべくならば、別れた後は関わるのは止めるべきか……) 人に馴れると、シュワイェット種族には悪い気がする。 然し、手を貸してしまった後だ。 どうすべきか、悩ましい処。 可愛がる皆で、リルマは成長に従って判断と云うモノを知るだろう。 単に人や森に関わると異物となる全てを毛嫌いすれば、必要の無い苦悩を感じる事は無い。 だが、判断や区別を知るが故に、様々な事へ関わってしまうかも知れない。 リュリュの事も含めて、Kにはそれをどうすべきか考える。 さて、大雨の影響で、迂回を迫られる事も在れば、他に立ち往生する亜種人から助けを求められる事も都度都度と。 本日、また馬車の車輪が壊れて動けなかった行商人達に遭遇。 助けてやれば、迂回の道案内を合わせて集落に泊めて貰えたり。 そして、もう少しでエリンデリンへ付けるとした日。 モンスターから逃げる為に無理をしたとかで、馬車を引く馬が怪我をした行商人を助ける。 エリーザが馬を治癒するも、すぐには重い荷馬車に繋ぐのは無理だ。 K達と一緒に来た商人達の馬を繋ぎ直し、荷馬車を繋げて力を集約させることに。 Kも不思議な経験と思えたが。 4つの団体となる行商人達が12台の荷馬車を並べて近くの大きな集落を目指すことに。 怪我をした馬や、身体の不調となる馬を空の荷台を連結させたものを引かせて。 他の馬やら犀やら牛は、満載した荷物の荷台を引かせる。 余りに賑やかな一団で、すれ違う者から警戒もされなく成った。 その夜、何とか辿り着いたホビットやエンゼリア達の集まる大きな集落に泊まる事と成ったが。 商人達のお陰で宿屋にタダで止めて貰えた。 助けた商人の数名はこの集落の住人で、荷馬車を頑丈に修復して貰えたとか、馬の体調を診て貰えたとか、恩義を感じると返したくなる思想・精神の亜種人達らしい。 宿泊施設と云う事でか、お湯も、風呂で使えた。 久しぶりに身綺麗にした訳で、温かい風呂と云うものを知るリルマがはしゃいでいた。 植物の良い香りの石鹸を不思議そうに見詰め、何度も、何度も匂いを嗅いで喜んで居た。 さて、夜遅くにのんびりと食事をする時、尋ねてくる者が在り。 誰かと中へ招けば集落の者で、あの悪党達の暗黒街より助けられたと言う亜種人の少女2人が親代わりとなる老婆と共に挨拶に来た。 少女はKを見ても、どこか姿に脅える様子のそれ以上の変化は無く。 悪党を殺したKの事を見ていない少女2人だが、救出に参加してくれただけでもと有難いと礼の挨拶をくれる。 エンゼリアとエルフの少女2人の内、まだ若いのに子供を宿して居るらしい少女が居た。 その少しだけ膨れたお腹の子は、悪党の子と直ぐに解るKやオリヴェッティ達。 ルヴィアの表情が険しく、クラウザーですら真顔のまま。 少しだけ膨らむ腹の少女は、何処か悲しみの表情を浮かべて居て。 明らかに、将来へ不安を抱えて居る様子が観てとれた。 その少女を見て、Kは感じたままに。 「そのお腹の子供は、どうする? 苦しまずに、亡くすか?」 恐ろしい事をすんなり言った。 弱い毒で堕ろすと云う事だ。 ルヴィアやオリヴェッティが驚くも、クリーミアより。 「産んで苦しむならば、それも必要か…」 と、呟く。 クリーミアの言葉に、エリーゼからシャンティやミカーナが驚く。 すると、誰かが何かを云う前に、純粋なエンゼリアの少女は少し怖がりながらも。 「産みます。 大切な・・森の民の命ですから…」 まだ10代半ばの少女だ。 精神も、生活する力すら育って無いと言える。 クリーミアは、まだ後からでもやり直せると何か言おうとすると。 「そうか。 母として決めたならば、しっかり守ってやれ。 母親が戸惑うと、子供も戸惑うからな」 Kが言った。 皆、包帯男を見ると、紅茶を1口したKに少女の視線が留まる。 「細かい事は、どうしようも出来ない事は、過去の変えらえらない事は、決めたならばもうどうでもいい。 それに、悪い奴の子供でも、全うな奴は世界に当たり前の様に居る。 居ない、悪い親など、どうでもいい。 大切なのは、一緒に居る者の存在だ。 母親となるお前さんが産むと決めたならば、そのお腹の命もお前さんを母として選んだのさ。 だから、可愛がれ。 子供も、自分も、それを助ける周りも、な」 Kの言葉を聴いて、エンゼリアの少女が溢れるまま涙を流した。 傷が薄く残る首から肩にして、行われた事は酷い事だったハズだ。 それでも、憎しみよりも母親としての慈しみを彼女が選んだのだから、助けるはその心。 苦労は無くならないとしても、この広大な森の恩恵はこの親子を包むだろう。 そこで生きて暮らす中で彼女が決めた事ならば、多い言葉で何を説得しても詰まらない事だ。 「助けて下さり、有難う御座います」 「止せ止せ、悪党を潰したのは俺じゃねェ。 それより、子供を育てるのは大変だぞ。 見ろ、眼を回したくなるほど食べる子供も居るからな」 と、リュリュやリルマを見る。 親を亡くしたリルマを見たエンゼリアの少女は、鈍くも涙ながらに微笑んだ。 少女の様子を見たクリーミアは、それで辛い事を口にする気持ちを内心に留めた。 処が、此処で集落の者となるエンゼリアの少女の祖母らしき人物から。 「数日は足止めとなるだろうからの。 ゆっくり泊まって行ってくれろ」 何の話か。 驚くオリヴェッティが、娘の親代わりとなる老婆へ。 「足止めって・・どうしてですか?」 「あら、知らんかったか。 実は、本街道は、今はのぉ、通行止めだよ」 オリヴェッティや行商人は驚き。 「まぁ、どうしてですか?」 「それが、最近はモンスターが集まっててね…」 と、困って居るとか。 また、本街道の途中で巨大な木が倒れ、その除去に目処が立たず思案にふけて居るとも。 道に横倒しならば良かったが、縦に倒れたのでどうしょうも出来なく。 また、ナルガリガや巨鳥のモンスターが街道に来ていて、討伐する冒険者のチームを募るか思案しているから、今は迂回するしかないと言われる。 迂回する道も、脇道やら泥濘の脇道を抜けて行かなくてはならない様で。 どんなに早くても、5日は多く掛かると言われた。 亜種人達は、性格が穏やかなのか少しトロい所も見られる訳で。 アホらしいと思ったKは、もうどうに様にでも成れと投げ遣りに。 「オリヴェッティ、どうするンだ?」 「モンスターはさておいて、巨大な木をどうしたら…」 「迂回するか?」 「しか、ありませんわ」 この夜、この事を皆で確認し合って寝る事に。 宿屋の在る集落で、珍しくベットで眠れた。 ベットを初めて知るリルマは、跳ねたり、寝転がったりして。 興奮して真夜中まで遊んでいた。 大部屋を幾つも借りた手前、一緒の部屋となる皆。 他の亜種人達は、集まりで部屋割りをしたが…。 同じ部屋のテーブルにて、紅茶を前にして話し合うKやクリーミアやウォルター。 甘い酒を紅茶へと垂らすクラウザーは、少し酔いながら。 「やはり、自然の中を行くのは、想定通りとは行かぬものよな。 街を目前にして、こんな足止めとは」 同じく、少し度の強い酒を紅茶に垂らすクリーミアは、ほろ酔いとなり。 「自然とは、そう云うものよ。 まぁ、モンスターの影響とか、悪党の影響で命の危険も多かった。 自然相手だけで旅が出来るならば、それはそれで楽と云うもだ」 一方で、楽しげな音楽をこの集落で聴いたウォルター。 伸びやかな旋律、見た事の無い弦楽器を知り。 この酔いに任せて軽く指揮をする様子も見せながら。 「異国とは、何とも不思議な出会いも多い。 酒、音楽、文化、楽しい限りよ」 香り付けのリキュールを紅茶で割る飲み方をして、その感じた余韻に浸る。 こんな穏やかな一時もまた、旅では楽しみとなる。 皆、その余韻を味わい寝る事にする。 が、巡り合わせの悪い時は、とことん悪くなる。 次の日の朝だ。 荷馬車を持つドワーフがドカドカと足音を立てて部屋に来て。 「冒険者達よっ、大変だァ」 ぼんやりと食事をしている離れの大部屋に彼が来た。 オリヴェッティが立ち会うと。 「どうされましたか?」 「あ、あぁ、い・今、迂回の道へ行った商人が戻って来た」 「は? あ、ど・・して?」 「それが、一昨日の大雨で唯一の人工橋が水没してるらしいだァ」 その話を聞いたKが、ガクりと頭を抑える。 「マジか、 それじゃ当分の間は通れねぇじゃねぇーか」 ルヴィアは、湖か何かに架かる橋が水没したと思い。 「船は無いのか?」 すると、驚くドワーフよりとんでもないと言わんばかりの態度で。 「船だなんてっ! そんなことをしたら死んでしまうダガよ」 オリヴェッティも理由が解らない。 「どうして、ですの?」 すると、顔を上げたKより。 「この森の中央南に広がる巨大な湖は、モンスターを含む肉食魚の宝庫だ。 デカいのは、人間の5倍は軽く超えるワニから、首長鮫、4本頭の巨大ウツボと居て、どんな頑丈な船でも寄って集って襲われ、簡単に壊されて沈められる。 それに、あの湖周辺には厄介なカエルや水性昆虫のモンスターも潜む。 周囲の森にも、固有の化け物みたいな植物なども居る。 最速で渡れる手段と言える、逃げる為の橋が水没してるなら、無理だ、無理」 ドワーフの商人は、何でも良く知ってると。 「お前、ホントに凄いダな。 なんと言う知識ダァ」 クリーミアもまた驚き。 「お主、本当に凄腕に能う知識量よな」 褒められているが、Kの頭の中は先を考えていて。 「仕方ねぇ。 どうせ何も出来ないって云うならば、街道のモンスターと大木をどうにかした方が早ぇな」 その話に、皆が驚く。 「本気か?」 クリーミアが目を丸くすれば。 「カラス、大木よりデカい巨木と言ってたぞ」 同じく驚いたクラウザー。 どうするのか全く思い浮かばないオリヴェッティも。 「どうにかって…」 馬鹿らしく思えたKでも、何方の道を行くのが楽か。 それは、圧倒的に本街道なる道と解った。 「まぁ、木を適当に斬って分割し、運び出すしかねぇ。 とにかく、現場を見てみるしかない」 と、言うのだ。 クリーミアやシャンティが何も言えずに困る。 どうしてか、それが解らないクラウザーで。 「なぁ、カラス。 水位が上がったとはいえ、これだけ晴れが続けば数日でまた下がるだろ?」 処が、それを否定する様にクリーミアが頭を抑え。 タリエやシャンティも難しい顔をする。 そして、紅茶を1口したKより。 「あの湖は、地下で別の地下水脈とも繋がっているとか。 一度、橋が浸水する程に水位が上がったならば、ある程度引くまで数日では無理だ。 どうせ時が掛かるならば、倒れた巨木をどうにかする方が目処を立てやすい」 エリーザは、本当に良く解ると。 「貴方様は、とても頭が良い方ですのね。 見なくとも、そこまで推測が出来るとは……」 面倒くさいと思うKで。 「あの湖の面倒には、冒険者として過去に何度か関わったからな。 知らねぇ者よりは、見通しは出来る。 それよりも、道を縦に塞ぐ巨木とは、何だ?」 ドワーフは、街道を指さして。 「この辺りで1番大きい木が倒れただヨぉ」 と、言うぐらい。 処が、集落の者や商人達の同行を伴ってその現場に行ってみると……。 先ず、街道に根っこの裏側となるモノを見せる巨木に。 「デカっ、なんじゃこりゃ!」 ビハインツが驚く。 その倒れた木の裏側の高さだけでも、泊まった宿屋の高さの倍は在りそうに見えたのだ。 リュリュやリルマと来たルヴィアとオリヴェッティも、その見上げる巨木の縦幅から街道を完全に塞ぐ横幅を見ただけで言葉が出なく成った。 クリーミア達、亜種人は、シンボルと云うか、見慣れた目印となる森の頭1番に突き抜けていた巨木が倒れたのを見て残念さ、無念さを現して話し合った。 近付きその大きさに落胆して、ウォルターが眉間を抑える。 「何たる高さだ。 5階建ての建物より高いではないか」 想像していたよりも大きく、クラウザーも頭を搔いて諦めとなる。 「なるほど。 これ程の巨木が道なりに合わせて倒れたならば、それは通行止めにもなるな」 だが、巨木を見たKは、包帯の間から見える眼を見開くと。 「おい、おいおいおいっ! 倒れたのは、ボルフォア樫じゃないかっ。 何て勿体ねぇ。 今直ぐにでも切って保管し、材木にしろよ!」 と、吼えて木に向かう。 すると、ウォルターとクラウザーが2人して。 「何と!!! コレがあのボルフォア樫だと?」 「カラスっ、本当に、か?」 倒れた黒い榦を見るKは、その表面を触って感触を得るや。 「間違いねぇ。 俺が商人ならば、この大木を切って持って行く」 ウォルターも、その遥先の街道まで続く巨木を見て。 「コレが本当にボルフォア樫ならば、この木だけで軽く1000万シフォンを超える価値が在ると見た」 話を聞いていた皆、オリヴェッティからルヴィアも、亜種人のシャンティやエリーザまで驚き動かなく成った。 リュリュとリルマが何事か解らずに、皆を見回したりする。 驚き、固まったオリヴェッティだが。 急に慌ててKの方に走る。 「けっ、けけっ、ケイさんっ! それは、いっ、一体っ、何ですかっ?」 すると、倒れたとんでもない巨木を触るクラウザーが。 「ボルフォア樫は、確かに東の大陸が産地となる木材だ。 塩気、湿気に強く、撓うもなかなかに折れない。 船体の木材に使うのに最適と言われる木材の最上級品の1つだ。 然し、その輸出量が少なく、今は建材としても確保が難しい」 すると、また驚くウォルターが手袋をした手を掲げ、クラウザーに迫る。 「いや、いやいや、待たれよクラウザー殿。 この樫を船になど、そんな勿体ないことを。 この黒い樫は、弦楽器の身体に使う木材として最高なのだよ。 ピアノ、ギターに始まり、その他の楽器でも、この木材を使えば美しい音色を奏でる。 船体など消耗品に遣うくらいならば、楽器に使うが懸命よ」 長年に渡って愛される楽器も多い。 その材質としても、類まれなる最高級品質の材料だ。 勿体ないとなるウォルターは、どうにかして保管が出来ないものかと狼狽える。 やはり、音楽や芸術の天才らしく、こうした機会になると彼らしい繊細な処も見せた。 そして、少し先まで行って見て来て、戻って来たKも。 「世界に求められる木材でも、この樫の木は最高の1つだ。 早く輪切りにして水分を抜けば、まだまだ木材として高い価値を維持する事が出来る。 斡旋所から人が来れば、この木の所有権を巡って喧嘩となる。 面倒に成るぞ」 見に来た集落の皆で相談となる。 年老いたエンゼリアの老婆が来て、本当にボルフォア樫だと言われる。 どうするべきかと、Kは集落の者から問われると。 「この木材を売って、悪党達に潰された街道の野営所を建て直したらどうだ? 何ヶ所も在った筈のモノが壊されて、今は何処でも野宿しか無いンだろ? 他の集落の長と話し合えよ。 建材の材料費から人件費まで、大まか賄えると思えるが?」 この案は、森の民で利益を分け合えると喜ぶ亜種人達。 どうするか、こうするか、話し合いが道端で始まったりする。 さて、宿泊費と食事代がコレで浮く事になり。 Kが巨木を根っこの隅から裁断して、リュリュが風の力で倒木の在った場所にそれを置く。 こんなに大きい木を保管る場所など集落には無いが。 エリンデリンや自治領三国の商人へ早めに売れば何とかなると。 集落の者、集落へ滞在となる商人達、本日に来た冒険者チームからオリヴェッティ達がほぼ総出で手伝い始めた。 落ちた土の撤去から始まり、リュリュの置いた木を保管が出来る様にと切り分けたりする。 何も出来ないならば、街道を開通させる為に動いた方が良いと成ったのだ。 また、少しでも雨風を避ける為の小屋の建設も始まった。 そして、これより数日で、道を開通させる事と成った。 馬鹿らしいと言えるも、動けないならば、動ける様にするしかない。 冒険者のやる事では無いが、既にこのままで4・5日は放置されていた。 何もせずに動けないのは、悪戯に日々が過ぎる。 また、不思議なまでに、奇妙な連帯感を持つ森の民。 こうしたことになると真面目で、亜種人達の、森の民の思想や価値観が見えて来た。 それから夜を過ごして、次の日。 開通に向けて動く2日目にして、木を斬っていると昼前からモンスターとの戦いと成った。 撤去作業の最中、あの小型の猿の様な群れるナルガリガが襲って来た。 その動きに合わせ〘ペリニョン〙と呼ばれる引き伸ばされた狂人の顔の様な頭部が横に更に引き伸ばされた見た目となる鳥型の大型モンスターも集まり。 また、枯れた木の様な〘魔樹〙と呼ばれる樹木のモンスターに、根っこで歩く草のモンスターも一緒となり襲って来る。 だが、それよりも驚くべきは、巨大な猫背の黒い骸骨のモンスターが来た事。 クリーミア達を助けた時に遭遇したあのモンスターより、更に強い怨念や暗黒のオーラが固まって出来上がる不死モンスターだ。 大きな蜥蜴の様な頭部の飛来型モンスターより、その不死モンスターの事が皆には驚きだ。 オリヴェッティ達では手に余ると、真っ先にこの不死モンスターを倒したK。 「怨念型のモンスターでも、生まれるのがかなり稀な〘ロトン・ダリダロンダ〙が出来上がるとは、な。 何処かに大量の骸が在る筈だ」 こう独り言を言って、適当に裁断した木の撤去をリュリュと仲間や森の民達に任せ。 森の中へと向かうKは底なし沼の様なガス溜りとなる場所に無数の骨が沈んで居るのを見た。 (凄まじい念が蟠ってやがるぞ。 この泥沼は、死者の沼だ。 然も、こりぁ〜50年や100年の間で出来たモンじゃ無ぇぞ) 集落へ戻って夜の事。 食事や風呂も終えて一息を吐いていると、集落の長(おさ)や年配者となる亜種人達が宿屋の1階に来た。 細身のエンゼリアとなる中年女性の姿をした長が。 「モンスターが出たと聴いたわ。 誰か、怪我人は?」 だが、魔術師が後から追加で加わりゴロゴロしている上に、リュリュも居て。 そんな大怪我などした者は居ない。 まぁ、実際は無傷でも無いが。 エリーザや自然神信仰をする亜種人の僧侶も数名は居た訳で。 大怪我をしなければ、治療は素早く終わる。 「何とっ! あのモンスターの数を殆ど無傷で倒したとな。 おぉ、コレは有難い、とても有難いわ」 だが、喜ぶ集落の年配者や長となる彼女に、今度はKから質問が出た。 「それより、こっちからも聴きたい事が在る。 森の中の底なし沼の様な呪われたあの淵は、何時から在るンだ?」 その沼の事を口にするや集落の年配者が挙って怯えた。 長の女性が長椅子に腰を降ろしては、端のテーブルに就き。 「あの場所は、かなり昔から在ると言い伝えられている。 言い伝えでは、あの場所に在った縦穴となる場所に巨大なヘイトスポットが生まれ。 その浄化を行ったが、完全に浄化は出来なかったとか。 そこで、深い深い洞窟に土砂を落として埋めたと云う。 じゃが、あの空洞は飲水をも湛えた場所らしく、長年を経てあの様に変わったとか」 「つーか、様々な死体が相当な数として落ちてるだろ?」 「ん。 それはそれは、とてつもない数と聴いた。 あの場所でモンスターが湧いては、討伐に向かって返り討ちにされた者も入れば。 この最近で増えた悪党達は、殺した者の遺体を隠す場所として放り込んだり。 また、我々も古き昔は、あの辺りでモンスターや支配を目論んだ人達と激しい戦をしたとも聴いた」 「そうか。 だが、沼として大量のヘドロと水が蓋をしているンじゃ、完全なる浄化が出来ない。 これはどうしようも無い」 すると、この長となる女性からも。 「のお、処で。 コチラからも相談が有る」 「何だ?」 「あの高価となる木材の使い道は、どうすれば良いか。 我々は、森と共に生きて行ければそれで構わぬ。 いきなり金が儲かると言っても、我々と云う亜種人は金(キン)に目が無い者は居るが、巨万の富を欲するのは中々…」 不思議な話だ。 ならば、金貨や金塊を買い漁れば良いのに、それはしないと云うのだから。 亜種人達の思想、本質的な精神が垣間見れる話で。 問われて頭を抱えたオリヴェッティ。 然し、Kは、直ぐに昨日の昼間と同じく。 「それならば、売って得た金で街道や道の安全に使えばイイだろうが。 悪党に壊されたり、乗っ取られた野営所を新たに建て直したり。 冒険者協力会に依頼して、街道の見回りの補助でも定期的にさせたり。 それから捕まっていた女や子供の行く末にも使えるだろうが」 「あ、嗚呼…」 この集落にも、悪党達の支配から助けられた女性のエルフとエンゼリアの少女が居る。 内、エンゼリアの少女は、お腹に子供が居る。 当然、相手は悪党だが。 命を見捨てられないと、産む事を考えて居る事も知った。 「お宅らの得意な考えで良い。 個人的な富と考えずに、森の為、森の民の為に使え。 傷付いた者、壊された物、治すのに時が必要なモノも在れば、費用が掛かるモノも在る。 時や人で賄えないモノを、金で賄えばイイだけだろうが。 モンスター退治の依頼料、悪党の残りを追い出す依頼料としても使えるし。 これまで減った採取物を取り戻す依頼料だったり、新たに再建する集落の費用にも当てられる。 親を亡くした孤児や、怪我をして身体が不自由に成った者を支える事だってな」 年配者の者達は、挙ってこの考えに賛成した。 長の女性も。 「そうね、その通りだわ」 「お宅達は、森と共に生きて多くは望まない者が多い。 悪党達は壊滅して、大体が居なくなり。 後は、その奴らに負わされた傷を癒す時だ。 そうした事にでも使えばイイさ」 「解ったわ。 周りの集落とも相談してみよう。 森の恩恵だ、森の為に使いたい」 こうして、この森のことについて、夜に話し合いをするのだが。 「ん?」 戦ったモンスターの様子を続けて話していたKは、何か大きなオーラが近付いて来るのを感じた。 「おいおい、何でまた来るンだ?」 外を見たKが、突然に言う。 オリヴェッティがKを見て。 「どうされたので?」 「フォレスト・ジャイアントだ。 こっちに向かって来て居る」 「はぁ?」 集落の長たる女性は、その名前に驚き。 「フォレスト・ジャイアントとな? 森の中でも開けた我々の里に来る事は、ほぼ無いぞ」 自然魔法の遣い手として熟練者となるクリーミアも、そのオーラを何となく感じ始め。 「確かに、此方へ向かって来て居るの」 ウォルターも、南東側の森の方角を見て。 「この気配が、そうか? だが、1体や2体では無い・・ぞ」 何事かと、皆で外に出た。 やや乾いた風が吹く夜にて。 フォレスト・ジャイアントは7体程の家族で来た。 また、多くの木の実や果実や自然の野菜を持って来て。 流石にKもこれは不味いと、誰ももう解らない古代語にて。 「礼は、十分に受けた。 ありがとうよ」 子供を助けられたフォレスト・ジャイアントは、その深い深い慈愛の精神を巨体ながら腰を屈めて礼を現し。 「タスカッタ、タスカッタ。 コドモ、ワレワレ、タスカッタ。 ツヨキモノ、アリガトウ」 古き頃には失われた古代語を話せるKに、集落の長たる女性が目を丸くした。 「封印された、口伝のみと聴く古代語を話せるなんて…。 私達ですら、とうの昔に忘れてしまったのに」 クリーミアが横に並び。 「数日前、あの男がジャイアントの家族を助けたのだ。 その礼をしに、また来たらしい」 「おぉっ、おぉ……。 ジャイアント達を助けたのか。 最近、悪しき人がジャイアントを殺して、数が減っていたのだ。 子供を守れたから、ジャイアントも喜んで居るのでしょう」 「ふぅ。 恐ろしく強い者だが、その恩恵は海の様に深いのぉ」 何事かと、外に出た森の民となる亜種人達は、ジャイアントとKの様子に感動した。 ホビットやドワーフ、エルフにエンゼリアのみなも家々から出て、森の民の象徴たるジャイアントを見ていた。 が、ジャイアントが去ると当然の如く来る現実として……。 リルマと共に果実や野菜を食べるリュリュ。 「リュリュっ、まだ食べるのかっ!」 「だぁって、リルちゃんも食べてるモンっ」 「お前っ、仕分けてからにしろっ」 「いいじゃんっ、1個や2個!」 「それで済むお前じゃねぇだろっ!」 何とも有り触れた光景となる、不毛なるやり取りが始まる。 驚きと、戦いや労働で疲れて眠く成ったクラウザー。 「カラス。 夜は静かにしろよ」 「うるせぇ! 少しは手伝えっ」 「食べる子は、育つぞ」 行商人やタリエやケルビンが手伝いに入る。 本当に、物々交換として分けたあの山の様なモチンガの実も粗方を食べきった。 この恐ろしい子供達が、本当にモンスターではないかと思うKだった。 リュリュとリルマをオリヴェッティに抱かせ、大急ぎにて仕分けするK。 見分ける作業に付き合う亜種人の民は、Kの天才的な知識にまた驚くも。 「全くっ、人の数倍もパクパクと・・。 どんな身体をしてやがる…」 不満を文句に替えて垂れるKが、とても印象的だった。
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