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〔1〕
「あ~~っ、腹減った。仕事はないし、月末までに電話代を払わないと電話は止まるだろうし……参った」
卓司はそう言い放って事務所兼住居の6畳程の畳の上に大の字になって寝転ぶ。
「…(『チラシ』を作らないとやっぱり仕事は来ないよなあ。仕方ない、高見に金を借りるか)」
部屋に備え付けてあるクーラーの調子も悪い。起きて窓を開けて外を眺める。東京独特の『ムッ』とする風が部屋の中に一気に攻めて来る。
「…(東京に出て来て間もなく20年になるが、この風だけは今だに慣れない)」
窓から離れ1畳程のキッチンにある冷蔵庫の中を覗く。
「…(何にもない……か……あっ、先週、パチンコで獲ったカップ麺が……)」
そんな情けない事を思い出し、お世辞にも綺麗とは言えない部屋を隈(くま)無く探し始める。
「あれっ、ないぞ。おかしいなあ~~っ、食べた記憶が無いのに」
ふと、部屋の隅にある大きめな円筒形のスチール製の屑籠を見ると見覚えのある空の容器が……
「この前、食ってんじゃん」
それならばと、ダメ元でジャージのポケットに手を突っ込んでみる。財布には当然、金など入っている筈もない。
「58円か……こうなったら家捜しだ」
7月中旬のお昼時。30代の男が部屋に落ちているかもしれない金を探して汗だくになっている。
「たったの11円……いよいよ高見に電話か……」
『トゥルルル、トゥルルル……』
借金を決意したその時、部屋の隅にある埃を被った黒い電話が鳴った。
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