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JR本八幡駅の南口の階段を降りて、30分も歩くと、住宅街の中にその店はあった。
外観がログハウスのような店で、入り口の所に小さな切り株があり、その切り株の上に丸太が縦になって置かれており、星のマークがふたつ彫られて、これが店の名前を示していた。
近所の人々は、木星(きぼし)と呼んでいた。
実際は、綺羅星と言うが、正確な名前を当てたのは、この店の特別店員ことアカネだけだった。
今日もアカネは特別店員の立場を使い、店のマスターである山本源五郎にコーヒーを入れさせていた。
「今日も良い薫りだね。源五郎さんの腕は落ちていないと」
店はそこそこのお客で潤っていた。
とはいえ、座席数十五、カウンターもいれると十八席のこじんまりとした店である。
そのカウンターの一席をアカネは、占拠していた。
長い黒髪を背中の中ほどまでたらし、全身黒づくめ、ヒールは高めの七センチ。
大きな黒い瞳と目を惹くのは口元の赤いルージュだろうか。
「華さんは後からくると」
まるで、わかったような断定の言葉に、源五郎は「アカネ」と呼んだ。
「はいはい。視てませんよ」
他の人間が聞いたら意味不明である。
アカネは舌を出して、小さく肩をすくめた。
アカネは他人の未来を視ることができる。それを知っているのは、源五郎と華の夫妻、後は悪友のひとりが知っており、他には秘密にしていた。
人と関わることが極端に嫌いなくせに、アカネは自らの能力で占いをしていた。
と言っても、来るもの拒まずではなく、来ても拒むと言ったほうが正しい。
つまりは、極論、アカネのその時の気持ち次第で占うかが決まった。
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