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 眠りの森を彷徨っていた意識が覚醒し始める。吸い込んだ空気がカビ臭くて眉を顰めると、背中に氷を塗りつけられたような感触がして飛び起きた。 「はぁ?」  薄暗い空間に目が慣れてきた途端、素っ頓狂な声をあげてしまう。寝惚けているのだろうかと目を擦るが、飛び込んでくる景色は変わらない。  俺がいるのは、かなり歴史がありそうな石造りの建物の一番奥にある、ステージのような場所に置かれた石の台の上だ。台の正面には階段があり、その先には広いスペースがある。 (なんかこれ、神殿みたいだな……)  ふと過った考えにぎょっとする。神殿にあるステージは祭壇で、そこにある石の台といえば生け贄を祀るものだと相場が決まっている。 (俺、生け贄? なんでこんなとこにいるんだよ……)  わけの分からない状況に頭を抱える。落ち着け、と混乱して当然の頭に無理を言い、眠る前の記憶を辿る。  脳裏に浮かび上がってきたのは、無表情の爺さんと不機嫌な婆さん。そして引き攣った笑顔を浮かべた使用人達。  そうだ。夕食の間中、婆さんに模試の成績をグチグチ言われて、早々に自室に戻ってふて寝をしたのだった。 (まさか、誘拐か?)  祖父母に邪険にされている出来の悪い孫だが、あの大企業の後継者だ。身代金も期待できるし、会社をよく思っていない奴等からしたら利用価値は高い。 (俺は悪くないからな)  屋敷の警備は強固なはずだ。無防備に寝ていて誘拐された俺が悪いのではなく、誘拐犯を侵入させた警備が悪いのだ。  命に関わる状況だというのに開き直った俺は、誘拐犯のリーダーにでもなったかのような不遜な態度で、石の台に腰掛けて腕組みをする。すると、広いスペースの先から明かりが入ってきた。眩しさに目を細めながら、おでましになった誘拐犯を見遣る。
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