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「うん。それでいい。…ちょっと、じっとしとけ」
少し時間をかけて、目を閉じて集中している様子。だが、相変わらず側から見ていても何をしているかわからない。
いつかわたしもこういうのが出来るようになるのかな。
「よし、これでいい。ここから出るなよ」
「出るなよと言われても」
さっきと何も変わったところはありません。出ようにも何も、境界がわからないです。
「まぁ、出ようと思っても出られないだろうけど。お前の周りを包むようにシールドが張ってある。伸縮するから、多少の自由度はあるはずだ。でもそこからあまり離れることは出来ないからな。ジュンタ」
「はい」
横で立って見ていたジュンタさんが返事をすると、手振りで指示した。
「この上に、こいつと祠を覆う状態で…、あ、言い忘れた。お前も中に入った状態で、シールドを張れ。こいつだけじゃなく、お前も他の霊から感知されないように隠す必要がある。この時代に呪詛側の霊本体が常駐して見張ってるわけじゃないと思うが、異変があれば感知できるようにセンサーは張ってあるはずだ。違和感のある霊の存在が感じられたらすぐに気づかれる」
「ほいほい」
ジュンタさんが適当な返事をしながら手を動かし、口の中で何か唱える。
「…こんな感じですかね」
「うん、大丈夫じゃないか」
先輩が何かを確かめるように慎重に視線を巡らした。それからわたしの方に目を向けて、少し優しさの感じられる声で安心させるように言う。
「できるだけ早く帰って来るから、ここで待ってろ。わかったことがあったらその時に伝える。あまり考え過ぎるな。心配もするな。するだけ無駄だ。それと」
ふいとわたしたちに背中を向けて、さっきの集団の去った方へ歩み去りながら言い残す。
「アキ、お前個人の方ののシールド、ジュンタも入れないから。そいつにベタベタ触られる心配もしなくていい。じゃ、後でな」
そのままふっとわたしたちの目の前から消えた。ジュンタさんが小さな声で呟くのがわたしの耳に届く。
「…マジか」
「はは」
わたしは思わず笑ってしまった。
先輩、徹底してますね。
「アキちゃん、立ちっぱなしもなんだから、とりあえず座ろう」
「はい」
霊は肉体があるわけじゃないから、正確にはそういう疲労ってない筈なんだけど。それでも精神的には、座る方が落ち着くのは確かだ。わたしたちは夕暮れの川べりの草の上に並んで腰を下ろした。
「あ、本当だ。無理だ」
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