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...取っ手が付いていたのに、あの扉。
そんな事をぼんやりと思いながら、扉に歩いていく彼の姿を目で追った。
私みたいに手で開けるのが面倒だったのだろうか。修理費はお高くつくんだろうか、などとただひたすらにどうでもいいことを考えていた。
「...オンナ、だ」
どうせ支払いは私じゃないからそんなこと気にしなくてもいっか。
「うん、そうですね」
私がそう言って自分の中で何かが結論付いた直後の事。
非常に焦った彼の顔が目に入り、その後に「イリスッ!」と切羽詰まったような彼の声が聞こえてきた。
どうやら門を開けたのはいいものの、あんまりにもこの城の吸血鬼の配下が多くてこっちに流してしまったと。
状況的にそう考えるのが一番正しいと判断し、短くため息をついた。
「今更気付いてもおせぇよ!」
「うるさい」
背後から狙われているのはつい先程から分かっていたが、私の想像の時間を邪魔したのが兎に角気に食わない。
しっかり私は状況整理をしてから納得して心のもやもやは完全になくなったはずなのに。
悲痛な顔でこちらを心配している彼に「落ち着いてください」と言って右手を出して制すると、丁度真後ろ位に来て私の頭上何かを振り下ろしてくるであろう吸血鬼を背負い投げした。
「大丈夫ですか!?」
ダンッ、と言う心地がいい音と共に、立っている地面が少しだけ揺れた感覚と、ほんの少しだけ体に衝撃が走った。
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