一話、ぷろろーぐ

4/6
428人が本棚に入れています
本棚に追加
/215ページ
「あなたは終わりなの。ねえ、今どんな気持ち?」  散乱した王座の間には、死屍累々の光景が広がっていた。  真っ赤な絨毯は血を吸い込み、赤黒いものに変色している。染み込んだ血液は全て魔族のもの。  魔王の配下は勇者一人に皆殺しにされた。肢体を切り刻まれ、絶え間ない絶叫は今や静まり返っている。  倒れた魔族の顔からは涙のような血が流れていた。  散乱するのは魔族の足や腕。中には原形を保っていない肉片もあった。  勇者は嘲笑う。椅子にぐったりと座る魔王へ向けて。  黒の鎧を着た魔王はボロボロの体だった。片腕を失い、裂傷で血だらけな体は満足に動かすことができないでいる。  そこには、魔族を纏めあげた王の片鱗はなく。  気力も底をつきかけている魔王は、勇者の嘲笑に精一杯の怒気を放った。 「化け物め……っ!」  魔王も攻撃はしたのだ。極限たる最上級魔法や、魔王たる魔力で練った身体強化の一撃。  だが、どれも通用しなかった。いや、何も効かなかったのだ。  魔王は勇者など恐れるに足らない、そう高を括っていた。  だが、だが――。  魔王は片腕だけの手を握り締め、肘掛けに振り下ろす。  ――なんだ、この惨状は。我が配下は片手で捻るように潰され、渾身たる最上級魔法は剣を軽く振るうだけで無に還された。  勇者の見掛けに騙されたのだ。人族が士気を上げるために持ち上げている、魔族の大半はそう思っていた。  魔王もその一人。人族の小娘ごときと侮っていた。  何より、魔王率いる我々魔族に敵うものなどこの世にいない、そう自惚れていたのだ。  今さら悔いても、もう遅い。何もかもが遅かった。対策もせず、勇者に勝てるわけがないのだ。  何故なら――勇者は不死身だったのだから。
/215ページ

最初のコメントを投稿しよう!