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「直ぐ見下ろせるところには来たが………」
「見事に崖だね。高さは……大人が十人分くらいかな?」
「ああ。下から村に通じているのか……本当に、どうしてこんな所に村があるんだ?」
「それ、外から認知されない島から来た僕に訊く?」
「そうだったな。」
下らない会話をしつつ村を上から見渡す。
年季を帯びた木造の住居。井戸も見られるが、中にまだ水が有るかどうかは此処から視認出来ない。
出歩く人間は一人も居ない。距離もあって気配を確かめる事も出来ない。
「………?」
「ん?どうしたの?」
「いや………一応ちゃんとした道から村に入ろう。魔物に襲われては居ないようだが、もしかしたらもしかするかもな。」
「う、うん……」
山道に戻り、傾斜の続きを下って村より低い位置まで降りる。そこから道を外れ、再び林の中に潜って村の方へと向かった。
「麓……というわけではなかったようだな。」
「そうだね。山道もまだ続いていたし……何でこんな分かりにくい所に村を作るんだろう……」
「………」
目の前に有るのは岩壁。木々で見えなかっただけで、此処は段々の地形になっていたようだ。村は三つの段の中腹に位置している。
「熊の巣、じゃないよね……」
「居たら居たでどうにかするが……十中八九、此処が“入り口”だろうな。」
岩壁にぽっかりと開いている通り穴。どう見ても自然に出来たものではない。
その穴の前に立つと背中を押されるように風が吸い込まれて行った。間違いない、この穴は向こう側に通じている。
「行くか。」
「ほ、本当に行くの?」
「雷属性が二人だぞ?洞穴との相性はばっちりだ。」
「ひえぇ……」
このような暗闇は王都にいた頃にギルドで慣れた。採掘関係の依頼はこう言った穴の中の方が効率的だったからだ。
足を踏み入れ、手に銀色の魔力を灯す。
ジェムが慌てて後ろを付いて来た。
「ちょっと楽しみだね。」
「冒険心は少年の心にのみ宿るものだと思っていたが。ジェムも感じるんだな。」
「女らしくなくて悪かったね。」
「いや、そこまで言ってないから……」
苦笑混じりに話しながら登って行く。洞窟内は入り口より広くなっており、多くの岩石が段々に積み重ねられて足場となっている。
魔物の気配は無い。野盗として生きて来たジェムもある程度は気配が分かるから踏み止まる必要の有無は判別できるようだ。
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