運命の日

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「………どういうつもりですか。」 開口一番に、短く鋭い声が反抗的に吐き出される。年齢の割に幼さの残る声を発した少年はこれでも今年で十八を迎えた。 ウェル・プリム。スローラル王国の五大属性を代表する最高貴族の中で、水属性を牛耳る家系の長男である。 そんなウェルを真ん中に、三人の男女も同じ方向を向いてその場に揃っていた。 火属性の最高貴族長男、バン・フレイ。 闇属性の最高貴族の長女、メア・ネスト。 光属性の最高貴族の長女、シェリア・エクセント。 彼らもまた、それぞれの感情を表面に押し出した顔で金髪の厳格そうな見た目の男を見据えていた。 「君達の御両親に伝えた通りだ……陛下の進言も有り、私はもう限界と判断した。」 厳格そうな男は四人の前で執務椅子に腰掛けている。仕事の合間の会合なのだろうか。 淡々と話しているような冷たい外形をしているがそれは違う。単に言葉に覇気が無いだけなのだ。その声量は最早見た目にそぐわないものだった。 ウル・ソルト。彼ら四人と同じく五大貴族である。しかしその立場は雷属性を代表するソルト家の当主だ。 「限界だとッ……!!」 「バン君。」 ウルの弱々しい声にバンが怒気を含んだ声で噛み付こうとする。だが、それを横に居たシェリアが落ち着いた声で制した。 「ご家族の意向なんだよ……?私達が横から言えることじゃないよ。」 「シェリア!お前っ……!」 バンが信じられないようなものを見る目でシェリアの方を向いた。彼の目に映ったのは、特別悲しんでいるようにも見えない無表情を貫くシェリアの顔だった。 「……有難う、シェリアさん。」 「いえ、私は御礼を言われる事は何も………」 「受け入れてくれたのだろう?私としてはそれだけで十分だ。」 「待ってよおじさんっ───」 「君達も、分かってくれないか。」 妙に澄ました声で会話をするウルとシェリアの二人に業を煮やしたのか、ずっと戸惑うようにして黙っていたメアも声を上げようとしていた。 だが、それはウルによって直ぐに遮られた。 「いい加減受け入れなければ、墓を立ててやる事も出来ん………」 「っ……!」 真剣な眼差しだった。諦観の末に導いた答えではないという事が一目瞭然に分かる。 “まだ受け入れられない三人”は、それを聞いて閉口するしかなかった。
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