第二章:9月21日

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第二章:9月21日

≪あの時に受けた衝撃的な出来事が、今も忘れられない。しかしそれを行った当人はきっと忘れているに違いない。雄太の口から謝罪の言葉など出なかった。よく、いじめの加害者はいじめたことを忘れるが、いじめられた側は一生の傷になって、その傷は永遠と忘れさせること無くを蝕んでいくのと同じだろう。彼のしたことは私にとって、一生の思い出になる。それなら、これから彼にする報復も彼の一生の思い出にしなければならない。しばらくは報復の準備用に、この日記を活用しよう。≫ ――翌日になっても昨日転んだところが痛む。僕はおでこを摩りながら、授業を終えて下校する生徒と共に、学校と言う鳥かごから外にでた。夏の暑さが徐々に和らいで、秋の匂いを感じさせる。  校門まで部活のある優美と話して、別れる。そして、僕と春人は一緒に下校した。特別これと言って話すこともなく。お互いが帰宅部なのもあって、毎回下校すると春人に出くわすから、いつの間にか一緒に帰るのが自然になっている。秋を感じさせるように落ち葉が落ちるのを眺めながら帰った。心地いい風に僕は、とてつもない解放感を感じる。そして、目の前に落ちる落ち葉に寂しさを感じた。  今日は特にあの悪戯のようなメールもなくて、平和な日常だった。春人は僕の少し後ろの方で、同じように季節の変わり目を楽しむように歩いている。車通りの多い場所に差し掛かった時には、木々は殆どなく住宅街に差し掛かろうとしていた。車通りの多い車道と公園を挟むように作られた、土手のようなガードレールの無い歩道を歩く。すると隣にあるの大きめな公園から、地元の野球少年達が野球をしている声が聞えた。そこを通り過ぎようとした時に携帯の短い着信に気づいて、僕は思わず足を止めた。その瞬間に、遠くから鉄製のバットが硬球を打つ音と共に、僕の目の前をボールが速いスピードでかすった。 「雄太!危ない!!」  何が起こったのか解らなかったけど、春人の声は僕の肩を引っ張った。春人がいても携帯の着信で止まらなかったら。ボールは僕の頭を直撃して道路に投げ出されていたかもしれない。そう自覚した瞬間に鼓動が早くなり、冷汗がでる。そして全身の血の気が引けて寒くなった。 「すいませーん!」 とフェンスの先では何人かの球児と監督らしき人も、血相を変えて僕をみている。
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