#1

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ

#1

春――俺の一番好きな季節だ。 暗く陰鬱な気分にさせられる冬が終わり、三寒四温で少しずつ春の足音が聞こえ始める時期は、特にいい。 長い冬の間に眠りについていた生物たちも目を覚まし、世界は躍動感に満ち始める――新しい、生命の息吹きが聞こえ始めるんだ。 俺の住まいは、片田舎の小高い丘の上にある。 この時期になると、すぐ近くで眼下に見える菜の花畑が一斉に黄色付く。 さらにもっと遠くの方へ目をやれば、入りくんだ湾の深い青を取り囲むように、濃い緑の山肌――その下に所狭しとそびえ立つ色とりどりの建物の数々。 偉大な大自然と、人間の叡知が築き上げた文明の象徴――この感覚的には相対立している二つのコントラストが、見事なまでに風景を彩るアクセントになっている。 だが時として、こんな素晴らしい風景の中にも、ちょっとした違和感を覚える瞬間があった。 一年を通じて眺めていると、内海になっている湾内には、時々大きな船が停泊していることがあるんだ。 そう……ずいぶんと、大きな船だ。 鈍い光沢を放っているグレーの船体は、何やら物々しい雰囲気を醸し出している。 今年は、去年よりもずっと目にする機会が多くなった気がする。 そう言えば、つい先日、ラジオから俺たちが住んでいる地球のどこかで戦争が起きている……とか言っているのが聞こえてきたな……。 その事と、俺が見た船とは、何か関連性があるんだろうか? どこからともなく沸き起こってくる漠然とした不安――そんなものに駆られてしまう事もある。 俺たちの未来は、正しい方角へと舵が取られているんだろうか? いや、そんな難しい事は、とりあえず考えないようにしよう。 俺は、今、それどころじゃないはずだろ? もっと身近で、気になってしょうがない事があるんだろ?
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!