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#1
春――俺の一番好きな季節だ。
暗く陰鬱な気分にさせられる冬が終わり、三寒四温で少しずつ春の足音が聞こえ始める時期は、特にいい。
長い冬の間に眠りについていた生物たちも目を覚まし、世界は躍動感に満ち始める――新しい、生命の息吹きが聞こえ始めるんだ。
俺の住まいは、片田舎の小高い丘の上にある。
この時期になると、すぐ近くで眼下に見える菜の花畑が一斉に黄色付く。
さらにもっと遠くの方へ目をやれば、入りくんだ湾の深い青を取り囲むように、濃い緑の山肌――その下に所狭しとそびえ立つ色とりどりの建物の数々。
偉大な大自然と、人間の叡知が築き上げた文明の象徴――この感覚的には相対立している二つのコントラストが、見事なまでに風景を彩るアクセントになっている。
だが時として、こんな素晴らしい風景の中にも、ちょっとした違和感を覚える瞬間があった。
一年を通じて眺めていると、内海になっている湾内には、時々大きな船が停泊していることがあるんだ。
そう……ずいぶんと、大きな船だ。
鈍い光沢を放っているグレーの船体は、何やら物々しい雰囲気を醸し出している。
今年は、去年よりもずっと目にする機会が多くなった気がする。
そう言えば、つい先日、ラジオから俺たちが住んでいる地球のどこかで戦争が起きている……とか言っているのが聞こえてきたな……。
その事と、俺が見た船とは、何か関連性があるんだろうか?
どこからともなく沸き起こってくる漠然とした不安――そんなものに駆られてしまう事もある。
俺たちの未来は、正しい方角へと舵が取られているんだろうか?
いや、そんな難しい事は、とりあえず考えないようにしよう。
俺は、今、それどころじゃないはずだろ?
もっと身近で、気になってしょうがない事があるんだろ?
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